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オフィスラブ
9.結婚指輪
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美織は、会社内では、通称名として夫婦別性を通し、美織が社長夫人だと知る者は、兼務役員の総務部長だけなのである。
「村上君。ちょっと来て。」
「あ、はい。できれば、名前ではなく役職名で読んでいただきたいのですが?多摩川部長。」
「いいじゃない。同期なんだし、キャッシュフローの件なんだけど、任せてもいい?」
「はい。美織ちゃん。」
そんな呼び方されたら、社長の逆鱗に触れても知らないわよ。
急に、経理部の中がざわついているので入り口付近を見やると、案の定、社長が青筋を立てて怒っている。
ほらね。知らないわよ。
「村上課長、上司をファーストネーム呼びするとは、いかがなものですか?それも就業時間内に。」
「あ、いや。同期だから、つい。すみませんでした。」
「罰として、今日中に始末書を書いてください。」
「ええっ!はい、わかりました。」
「それと多摩川部長、後で社長室に来るように。」
「はい。すぐ参ります。」
メモ帳とボールペンを持ち、社長室に急ぐ。
コンコン。「失礼します。」
「座ってくれ。」
その一言で、一気に緊張感が走る。
「なあ、村上を配転した方がいいだろうか?」
「へ?」
「あいつ、明らかに美織を狙っているように見えるのだが……、誘われたりしていないか?」
「しょっちゅうですよ。でも公私混同はダメです。」
「それなら結婚指輪を嵌めてくれないか?」
「あまり指輪は好きじゃなくて……、でもわかりました。聞かれたら、結婚したと言いますね。夫婦別性だから、と付け加えた方がいいかもですね。」
「済まないが、それで頼むよ。クリスタル化粧品の社長夫人が、男に言い寄られているとあれば、スキャンダルになるからな。」
「はい。わかりました。ところで、社長は、女子社員から言い寄られるということはないのですか?」
「俺は相手にしていない。」
「そんなの不公平です。私が指輪を嵌めるなら、社長も嵌めてください。ただし、同じエンゲージリングだとバレちゃいますからね。カーテンリングでもしといてください。」
「美織、すごいこと言うな。」
経理部に戻ってきたら、早速、社長のお小言どうだった?と村上君から話しかけられる。
「うん。別に。」
「ねえ、美織ちゃん、今夜飲みに行かない。」
「行かない。」
「ええー!なんで?最近、冷たくない?」
「私ね。言ってなかったけど、結婚したの。だからこういうお誘い迷惑なんだけど?」
「うっそ!誰と?社内?それとも、大学の時の彼氏?」
「なんだっていいでしょう。まだ就業中なんだから。仕事、仕事してよ。」
村上君は、口をとんがらせたまま席に着いた。うん、やっぱり配転が良いかも?帰ったら、言ってみよ。
会社をなんだと思っているのかしら。男も女も結婚相手を探しに来ているとしか、思えない。
美織は自分のことは棚に上げて、憤慨している。そもそも美織は結婚に懐疑的で、結婚願望はゼロだったものだから、あの時、お持ち帰りされていなかったならば、今でも独身を謳歌していたと思う。
明日から、結婚指輪をして来よう。少しはマシになるかもしれないからね。
翌日、結婚指輪を嵌めて、経理部に出勤すると、女子社員からつるし上げられた。
「多摩川部長、ご結婚されたというのは、本当ですか?」
「ええ、そうよ。これが結婚指輪よ。」
「どうして、旦那様に名字を名乗らないのですか?」
{そんなのいつ別れるかわからない結婚だもの、銀行とかいろいろめんどくさいからよ。}
「そうね。夫婦別性の方がいろいろ、便利だから。」
「ああ、やっぱり給振の銀行口座とか?保険証の名前もめんどくさいですものね。でも、会社には、ちゃんと報告されているのですよね?」
「何が言いたいの?」
「いえ、同期が人事部なんですけど、まだ届が出ていないって……。」
「人事部の誰さん?松川さんと同期なら調べればすぐわかることだけど、兼務役員の総務部長から、緘口令が出されていると思うのだけど?知らないの?人の結婚にいちいち経理部のみんなに言わなければいけないのかしら?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、美織先輩のお祝いをしたいって、昨日、みんなで話し合って。」
「余計なお世話よ。ほっといて。」
「村上君。ちょっと来て。」
「あ、はい。できれば、名前ではなく役職名で読んでいただきたいのですが?多摩川部長。」
「いいじゃない。同期なんだし、キャッシュフローの件なんだけど、任せてもいい?」
「はい。美織ちゃん。」
そんな呼び方されたら、社長の逆鱗に触れても知らないわよ。
急に、経理部の中がざわついているので入り口付近を見やると、案の定、社長が青筋を立てて怒っている。
ほらね。知らないわよ。
「村上課長、上司をファーストネーム呼びするとは、いかがなものですか?それも就業時間内に。」
「あ、いや。同期だから、つい。すみませんでした。」
「罰として、今日中に始末書を書いてください。」
「ええっ!はい、わかりました。」
「それと多摩川部長、後で社長室に来るように。」
「はい。すぐ参ります。」
メモ帳とボールペンを持ち、社長室に急ぐ。
コンコン。「失礼します。」
「座ってくれ。」
その一言で、一気に緊張感が走る。
「なあ、村上を配転した方がいいだろうか?」
「へ?」
「あいつ、明らかに美織を狙っているように見えるのだが……、誘われたりしていないか?」
「しょっちゅうですよ。でも公私混同はダメです。」
「それなら結婚指輪を嵌めてくれないか?」
「あまり指輪は好きじゃなくて……、でもわかりました。聞かれたら、結婚したと言いますね。夫婦別性だから、と付け加えた方がいいかもですね。」
「済まないが、それで頼むよ。クリスタル化粧品の社長夫人が、男に言い寄られているとあれば、スキャンダルになるからな。」
「はい。わかりました。ところで、社長は、女子社員から言い寄られるということはないのですか?」
「俺は相手にしていない。」
「そんなの不公平です。私が指輪を嵌めるなら、社長も嵌めてください。ただし、同じエンゲージリングだとバレちゃいますからね。カーテンリングでもしといてください。」
「美織、すごいこと言うな。」
経理部に戻ってきたら、早速、社長のお小言どうだった?と村上君から話しかけられる。
「うん。別に。」
「ねえ、美織ちゃん、今夜飲みに行かない。」
「行かない。」
「ええー!なんで?最近、冷たくない?」
「私ね。言ってなかったけど、結婚したの。だからこういうお誘い迷惑なんだけど?」
「うっそ!誰と?社内?それとも、大学の時の彼氏?」
「なんだっていいでしょう。まだ就業中なんだから。仕事、仕事してよ。」
村上君は、口をとんがらせたまま席に着いた。うん、やっぱり配転が良いかも?帰ったら、言ってみよ。
会社をなんだと思っているのかしら。男も女も結婚相手を探しに来ているとしか、思えない。
美織は自分のことは棚に上げて、憤慨している。そもそも美織は結婚に懐疑的で、結婚願望はゼロだったものだから、あの時、お持ち帰りされていなかったならば、今でも独身を謳歌していたと思う。
明日から、結婚指輪をして来よう。少しはマシになるかもしれないからね。
翌日、結婚指輪を嵌めて、経理部に出勤すると、女子社員からつるし上げられた。
「多摩川部長、ご結婚されたというのは、本当ですか?」
「ええ、そうよ。これが結婚指輪よ。」
「どうして、旦那様に名字を名乗らないのですか?」
{そんなのいつ別れるかわからない結婚だもの、銀行とかいろいろめんどくさいからよ。}
「そうね。夫婦別性の方がいろいろ、便利だから。」
「ああ、やっぱり給振の銀行口座とか?保険証の名前もめんどくさいですものね。でも、会社には、ちゃんと報告されているのですよね?」
「何が言いたいの?」
「いえ、同期が人事部なんですけど、まだ届が出ていないって……。」
「人事部の誰さん?松川さんと同期なら調べればすぐわかることだけど、兼務役員の総務部長から、緘口令が出されていると思うのだけど?知らないの?人の結婚にいちいち経理部のみんなに言わなければいけないのかしら?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、美織先輩のお祝いをしたいって、昨日、みんなで話し合って。」
「余計なお世話よ。ほっといて。」
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