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オフィスラブ

7.挨拶1

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 なんだかんだ言って、社長と結婚することになっちゃった。というべきか、もうすでに入籍を済ませてしまったのだから、今更後悔しても仕方がない。

 ブーケトスを今までバカにしていたけど、本当に効果があるとは思っていなかったのよ。

 別に疑っていたというわけでないけど、日曜日の昼間に受け取り、月曜日の夕方に婚姻届を出した方、これってめちゃくちゃ早くないですか?

 契約結婚ってのは、少し悲しいけど、社長とのアレの愛称はバッチリで一生添いたげたいと思っている。

 二つも欲張ってはダメだとわかっている。

 大企業の御曹司で、お金持ちで、イケメンで、私をとろけさせてくれる人と一夜ではなく、社長が飽きるまでだけど、それでもいい。

 社長に比べたら、大学時代の彼氏なんて、目じゃない!大学生の彼氏は自分だけが気持ちよくなりたい人で、いつもセックスは苦痛でしかなかったのに、社長に抱かれると、とても気持ちがよく、初めて快感を得られたのよ。

 だから、社長とのセックスは好き。たとえセフレでもよかったのに、お嫁さんにしてくれるだけで、ありがたい。

 それなのに、社長のことを「正彦さん」なんて、恐れ多くて、言えない。でも、これも仕事のうちだと割り切って、新幹線の中で、思いっきり舌を噛みながらも練習している。

 社長は、きっとモテるのに、なんで私を選んでくれたのかしら?社長は都合がいい女とおっしゃっていたけど、それだけ?

 まあ、いいわ。女優になった気分で、しばらく奥様のフリをして差し上げますわよ。

 名古屋を通り過ぎ、あっという間に京都駅に着く。

 家への手土産として、美織もツルヤの羊羹「観世京」と「柚餅」を買う。

 美織の実家まで、タクシーではなく地下鉄で行くことになった。

 京都は道が狭いうえに混雑しているので、公共交通機関を使った方が移動は楽だし、安い。

 「地下鉄なら5分で行けるよ。」

 その言葉に嘘はなかったが、運行の間隔が長い。

 だから待ち時間の間にタクシーを利用すれば、そっちの方が早いと思うような気がする。

 「まあ、いいじゃない?京都市の財政悪化を救済する意味でもね。」

 美織の実家は、四条烏丸を1本西の通りを上がったところにある。上がるというには北へ行くこと。北には京都御所があるから。反対に下がるという言い方もあるが、これは南へ行くことを下がるという。

 その通りは、特定の商売をしている会社や店舗が建ち並んでいることろで、美織の家もその商売をしている。

 具体的には、室町通が呉服商、夷川通が家具屋街、二条通が薬種問屋、寺町通が電気街などである。

 「お父ちゃーん、帰ってきたで。」

 「いや、お嬢さんや!また、別嬪さんにならはって。」

 「はい、これお土産、みんなで食べて。」

 「おおきに。」

 美織は、勝手知ったる我が家のせいか、玄関から、ズンズン奥へ入っていく。

 それにしても、美織の言葉が可愛い。郷に入れば、郷に従え。で完ぺきな京都弁を話している。

 離れだろうか?お茶室にも見える狭い空間内に押し込められる。

 「ここやったら、誰にもわからへん。しばらくここで、辛抱しててや。」

 「?」

 そのまま、社長を置き去りにして、美織は消える。

 「え?辛抱って言ったよな……?」

 焼く30分で、美織は戻ってきたのだが、見事な振り袖姿になっている。

 「ごめんな。待った?おべべは着られるんやけど、髪をアップすんのに時間がかかってしもた。」

 社長は、正座していたので、痺れて、もう立てないところまで、来ている。

 「なんや~。胡坐かいててくれたらよかったのに。」

 しばらく、お茶室で一服したのち、両親が待つ応接間へ行く。

 「初めまして、私は世田谷正彦と申します。クリスタル化粧品という会社の社長をしております。美織さんとは、仕事を通して、知り合いました。誠実な仕事ぶりに感銘を受け、お付き合いさせていただくようになりました。」

 美織の両親は権威に弱い。

 「おお!美織がいつもお世話になっております。」

 「お嬢さんとの結婚をどうか、お許しください。」

 「どうぞ、娘をよろしく頼みます。で、結婚式はいつ頃になりそうですか?娘に着物一式を作ってやりたいのです。」

 「いらんで。着物なんか着る機会あらへん。」

 「こら。そんなこと言うもんやあらへん。」

 「世田谷さん、イヤ正彦さん。今夜はウチへ泊って行ってください。昔は、住み込みの奉公人がたんとおりましたけど、今はご時世で、全員通いですから、部屋はなんぼでも余っております。」

 「ありがたいお言葉ですが、明日、また仕事がありますので。」

 「そうですか?ほな、残念やけど、またいつでも遊びに来てください。」
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