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13.ポール・ローバー

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 「なんですって!一体何を企んでいるのですか?」

 「アナタが欲しいのよ。若くして、美貌と才能の持ち主だから、あんな王宮にいれば、殺されちゃうわよ。それより私の後継者にならない?お金の不自由なんて、させないわ。」

 「お断りします。」

 「そう。仕方ないわね。だったら腕づくでもアナタを攫うわ。」

 ジャクリーンは、両手を合わせて、バンバンと手を叩く。

 3人の男性使用人が入ってくる。

 「怪我をさせてはダメよ。大事な商品なんだからね。」

 「奥様、この娘をどうなさるおつもりで?」

 「そうね、私の申し出を断るつもりなら、他国へ売り飛ばしてやる。もし、気が替わるかもしれないから、しばらくは、倉庫の片隅にでも括り付けといて頂戴。」

 冗談じゃない!フィリップは元の世界へ帰る道案内をしてくれるって言っているのに。

 こんなところで、外国に売り飛ばされてたまるものですか!

 思わず、ひろみは空手の構えをする。元の世界では一日署長をするたびに痴漢の撃退方法を覚えさせられたものだ。

 それに最近は、毎朝、フィリップと一緒に鍛錬をしている。剣ではまだ勝てないでいるが、素手ならば、フィリップよりも強くなっている。

 手始めにすぐ傍にいたジャクリーンの腕を捩じ上げる。

 「キャァッー!いたーい!」

 ついで、ジャクリーンの腹を膝蹴りする。

 ボキっという鈍い音がした。手加減せず、思いっきりしたものだから、折れたようだ。

 勢い余って、ジャクリーンの左顎付近と鼻柱を正拳突きする。

 ちょっとやりすぎた感はあったけど、やらなければ売り飛ばされてしまう。

 怯んだ3人の男たちは、ひろみに飛び掛かろうとするも、ひとりを回し蹴りにして仕留め、もうひとりの股間を思いっきり蹴り上げた。

 残る一人が剣を振りかざしたところ、間一髪で騎士隊長が助けに来てくれた。

 ジャクリーンの悲鳴をひろみの悲鳴と勘違いして、子爵邸に飛び込んでくれたのだ。

 やっぱり先にジャクリーンを血祭りにあげたことが功を奏したと、ひろみはほくそ笑む。

 隊長は、応接間に入ってまず目にしたのは、女主人は顔面が血だらけになり、2人の男が口から泡を吹いて倒れていたことと、もう1人の男が剣を振りかざしていたものの、腰は完全に引けていて、どちらが被害者かわからない状態だったことを伏せた。

 そしてすべては、1個隊長の手柄になったのだ。

 口の堅さをひろみに気に入られた隊長は、ひろみ専属の護衛となったことは間違いない。

 デニス商会は元より、子爵家もろともお取りつぶしになり、使用人、関係者は全員死罪と決まる。

 それからというもの、フィリップは、さらにひろみに甘くなった。

 「キャシーは美しいから、ひとりにさせるのが心配だ。大丈夫かい?怖かっただろ?」

 それを横目で見ながら、噴き出しそうになるのを必死にこらえている護衛が、あの時の1個隊長のポール・ローバー。元は子爵家の出だが、今回の働きで、伯爵家に格が上がる。

 でもそのおかげで、恋人の両親から反対されていた結婚話が急に進むことになったそうだ。

 「ポール、結婚式には必ず呼んでね。」

 ひろみから、そう言われれば断ることなんて、できないと真面目に返答している。

 それを聞いていて、フィリップ殿下は、真顔で

 「偽りではなく、本当の恋人になろうか?冗談だ。気にするな。」

 心なしか、寂しそうにしている殿下の背中が愛おしい。
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