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5.ジョセフィ・シールド

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 「意外だな。大女優だなんて、豪語していた割には男性経験がないのか?」

 「仕方ないでしょ?パパの監視がうるさくって、それにパパラッチがしつこいのよ。」

 「ふーん。なんだか大変そうだけど、今日はこれから忙しくなるから早く起きろ。」

 「わかったわ。着替えるから、あっち向いてて。」

 フィリップが後ろを向いた途端、慌てて紐をほどく。足の付け根からバストまでを器用に巻いてあるもの。

 なかなかほどけず、四苦八苦しているとフィリップの声がする。

 「手伝おうか?」

 「ひえぇぇぇ~!お願いだから向こう向いてて。」

 背中越しに、何か冷たいものを感じた途端、紐は切れて落ちる。フィリップが短剣で切ってくれたみたいだ。

 「あ、ありがとうございます。」

 「キャシーがぐずぐずしているからだ。誰か呼べば、着替えぐらい手伝ってくれるものを。ひどくうなされていたから、その紐が切れていたほうが、言い訳が立つだろう。」

 フィリップが女官長を呼んで、着替えを手伝ってもらえることになった。

 女官長は部屋に入るなり、切れている紐を見てご満悦の様子。フィリップが言った意味がよくわかる。一夜を共にしたように見えるから。

 二人はただ同じベッドで寝ただけなのに。

 一通りの着替えが終わったが、パンティとブラジャーは取り上げられたままで、ノーパンだとスースーして落ち着かない。

 ブラはなくてもたれ乳にはならないと思う。たぶん若いから、後から洗濯したものを届けてもらったけど人前で装着するのが恥ずかしいから、トイレでパンティだけを穿く。

 でもすごいわね。王太子殿下の恋人と言うだけで、トイレの中まで、女官がついてきて、お尻を拭いてくれるものらしい。絶対ダメと固辞したけど、普通の貴族令嬢は、そんなことまで使用人にさせるのね。

 元の世界では、けっこうワガママだった方だと思うけど、そこまでのことを要求したりしない。

 この世界でのイジメがあるとしたら、さぞかし陰惨で非常識なものだと思う。

 ひろみも元の世界では、かなり陰湿ないじめをしていただろうに自分のしたことには気づかないでいる。

 「さて。今日からマナーの先生がお越しになるから、しっかりして殿下に恥をかかせないようにしてくださいね。」

 女官長のゲキが飛ぶ。

 マナーの先生?そんなこと聞いてないわよ?と思っている間に猛先生は来られた。

 ジョセフィ・シールド先生、いかにもオールドミスという感じだけど侯爵夫人らしいわ。こんな姑?大姑?がいたら、まず裸足で逃げ出したくなる。

 「キャサリン、殿下のもの好きで拾われてきたのだから、しっかり精進することね。それでもできないときは、覚悟をしてもらうことになるわよ。」

 キャァー!こわい。このオバサンなら、令嬢を手にかけることなど厭わないだろう。でも生まれながらの令嬢にできないことなどあるのだろうか?

 「では覚えなければならない所作を一通り見せてください。」

 ひろみは大女優だから、一度見た所作を復元する能力を持っている。そして、それはこの世界でも十分すぎるほど有効な能力で、シールド先生の態度は一変する。

 「キャサリン嬢素晴らしいですわ。どこかの王族だと思われるぐらいの出来ですわ。これならキャサリン嬢に無礼なことをする方は一人もいないでしょう。」

 アンタが一番無礼だったのよ。という言葉を飲み込む。ここで喧嘩したって、事件解決にならない。

 「わたくしの素性は申せませんわ。どうかご内聞に。」

 芝居がかって、ひろみが言うと、侯爵夫人は、大きく頷く。

 「わかっておりますとも、すべてはこのわたくしめにお任せあれ。お姫さま。」

 どこの馬の骨から薄汚い小娘、ついにはお姫様呼びされるようになった。さすが大女優、伊達にアカデミック賞やグランミー賞を受賞したわけではない。
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