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3.フィードリッヒ・メルセデス

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 それからは、どこをどう通ったか記憶がない。馬に乗せられ、それもお姫様抱っこの状態だったから、目の前を景色が流れていく感じ。

 とは言っても、夜だから真っ暗な中を風だけが通り過ぎていく感じ。一応、女優だから馬に乗れるのだが、今夜は黙っておとなしく横抱きにされている。

 瞬く間に、フィリップが言っていた王宮らしきところに着く。石で作ったレンガ状のものが積み上げられている立派なところ。

 当たり前だけど、映画のセットのようなツルリとした触感はない。それでも重厚な感じは見ていて伝わってくる。

 裏口当たりで馬を降り、そこからは徒歩で移動する。

 門番は無言で、通してくれる。玄関を通ると、たぶん通用口だったと思うが、ところどころにランプが灯っている薄暗い長い廊下が見える。

 フィリップとは、あの森で話して以来、一度も口を聞いていない。何かムスっとして、機嫌が悪い。

 廊下を突き進んでいくと、ようやく人影が見えた。フィリップは、その人影に向かって

 「この女性の支度を頼む。」

 「どちら様で?」

 「しばらく側に置くことにした。名前はキャサリン・ヘップバーンだ。」

 「かしこまりました。」

 フィリップの手から、引き剥がされた格好で、おばさんはひろみを強引に別室に連れていき、着ていた映画の衣装をすべて脱がされる。

 「殿下もまた妙ちくりんななりをした娘を拾ってきたものだわ。しっかりと殿下の役に立つよう頑張りなさい。特に口答えはダメですよ。何をされても何を言われても、『はい、殿下』と言いなさい。わかりましたか?」

 これは衣装だから、いつもはこんな変な格好はしていない。もっと上等な普段着を持っているのに。

 風呂に入り、全身を磨かれるが元の世界程良い化粧品がないみたい。それでもドレスに着替えさせられれば、さすが大女優だけのことはあり、どこから見ても王女レベルの美しさ。

 さっきまで小言を言っていたおばさんも、ため息をついて見とれている。

 そこに「お食事の用意が出来ました。殿下が食堂へ来るようにと仰っています。」

 食堂へ行くと、フィリップもなんとなく顔が赤い。

 「綺麗だ。キャシー。」

 そんな本当のこと、当たり前じゃない。今さら言われなくても、私は女優よ。一人で悦に入っていると、従業員?使用人たちがザワついている。

 今までフィードリッヒ殿下が女性に対し、綺麗などと美貌を褒めたことがないらしい。

 はぁ?そんな朴念仁だから、婚約者に愛想を尽かされるのよ。いやいや違う、婚約者が不慮の事故で死んだんだっけ。

 それを調べるのがひろみの役目、何が何でも元の世界に帰って、監督を懲らしめてやるつもりでいる。

 でもきっと、ウチの両親が捜索隊を出してくれているはず。でも、いくら両親が捜索隊を出そうにも、ここまでは来れない。異世界と言うより、異次元に迷い込んだ気がしている。

 食事がすむと、今度は着替えのため、またドレスを脱がされ、ネグリジェに着せ替えさせられたのであるが、こんな恥ずかしいもの、無理。と思っていても、なんでも殿下の言う通りにしないと元の世界に戻れないらしいから、渋々着る。

 だってそれは、ほとんど紐でしかないネグリジェ?ほとんど丸見えなのだ。自分では絶対に着れないし、脱がされたら最後、裸で寝るしかないという代物。

 まさか夜伽をさせられるってわけではないでしょうね?

 そんなの契約に入ってないわ。

 嫌な予感は的中し、同じベッドで眠ることになってしまう。

 「心配するな。俺はキャシーには指一本触れない。だから安心して眠るが良い。」

 でもベッドは一つしかない。

 「これだけ広いのだから、両端で眠ればよかろう。」

 そうは、言ってもね……。嫁入り前の娘が同衾するなんて。
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