幸せアプリ

青の雀

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「お久しぶりです!社長の萬年姫乃と申します。履歴書を拝見した時は、まさか?と思いましたが、やっぱり大輔さんでしたね」

「姫乃どうして……?」

「大輔さんに捨ててもらったおかげで、資格を取りましたの。それが縁で宅の主人と知り合って、いっぺんに恋に落ち、交際期間4か月という短さで電撃結婚をしましたのよ。もう今は幸せで、幸せで」

「ご主人に資金を融通してもらったのですか?」

「いいえ。ジャンボ宝くじの1等賞と前後賞併せて10億円が当たりましたの。それで結婚を機に、余頃を寿退社して、そのまま独立したのよ。たかが10億円ぐらいのはした金では、不動産会社を経営するのは無理があるかもって思っちゃって。それで賃貸ならできるかも?って、主人に相談したら、萬年として別部門を作ると言われたけど、それを断って、自分の会社を持ったってわけよ」

「すずらん不動産の名前は?」

「なんとなくよ」

 アプリの登録名とは言えない。

「本当、世の中何があるか、わからないわよね?1年前は、大輔さんに捨てられ泣いていた私が、自分で会社を興すなんてこと、考えられないわ。それもこれも、みんな大輔さんのおかげよ。よくぞ私を捨ててくださいましたって、御礼を言いたいぐらいの気持ちだったの」

「だったら、採用してくれますか?俺は、姫乃と別れて後悔の連続だった。できればやり直してほしいところだが、もう、他人の奥さんに言えることではないから諦める」

「それは無理な相談ね。浮気するような人間は信用できない!それに過去に恋愛感情を持った人と同じ会社にいることはできないのよ。萬年でも、そういう取り決めがあるからね。だから、この会社も別分ではなく、新しく設立したのよ」

 萬年では、家業に恋愛を持ち込まないというルールが実際ある。もし、将来、良平が浮気することになっても、その愛人を決して、家業には入れない!そういう掟があるから、萬年は業界第1位の地位を保っていると言われている。

 結婚するとき、正確には宝くじが当たる前までは、結婚したら、子供ができれば余頃を寿退社して、専業主婦になるということを約束させられていた。

 ところが、アプリの指示で、たまたま買った3000円の宝くじが大当たりになり、急遽、会社設立なんて大それたことを思いついたのだ。

 10億円の持参金の姫乃との結婚は、決して玉の輿婚とは言われないものであり、対等の恋愛結婚として、萬年の家に認めさせた。

 もし、子供ができたら、その時は一時的に芦崎の両親のどちらかに会社経営を任せるつもりでいる。

 だから社名を敢えて、萬年とも芦崎ともせずに、「すずらん」にしたのだ。

 姫乃と大輔は、一年前まで、恋人関係にあったが、わずか1年で、社長と失業者に関係が変わってしまった。

 そういえば、三波埼不動産は、先月、2度目の不渡りを出し、事実上の倒産に追い込まれているんだっけ?

 負債総額は、わずか3億円だったか?

 よかったね。大輔君、連帯保証人にならなくて。あのまま結婚していたら、連帯保証人にさせられて、3億円を必死に返さなくてはならなくなるところだったのだからね。

 風のうわさに聞くと、三波埼の令嬢は、大輔と別れた後、悪い男に引っかかってしまい、ソープで働かされていると聞いた。

 他人の男を寝取るぐらいお床上手であれば、ソープ界でも、1位になれるかもしれない。でも、少し歳がいっているか?

 どっちにしても、もう二度と会うことがない人たちであることは確かなこと。

 気が付けば、大輔が床に這いつくばって、土下座をしている。

「助けてくれ、姫乃。もう、ここしかアテがないのだ」

「ごめんね。すべては1年前のせいよ。あの時、もう少し誠意を見せてくれていたら、でも結果は同じだったかも?」

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