幸せアプリ

青の雀

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 翌朝、目覚ましと共に置き、洗濯物を取り入れる間にお湯を沸かす。

 夜露に濡れるから、夜のうちに干さないという人がいるけど、朝、干すと下着ドロに狙われることもあるから、どうしても朝に取り入れたい。

 朝ごはんを食べ、化粧をして、会社へ行く準備をする。ベッドの上のスマホを充電器のコードから外し、バッグに入れる。

 いつもの通勤電車は女性専用車両がいっぱいだったので、姫乃はあえて、一般車両に移る。一般車両で男性が座っている隙間にお尻を落とすと決まって、男性は横にずれて、席を空けてくれるから。

 やっと座れたので、バッグからスマホを出すと、昨夜入れたアプリが一番に出てきた。

 一通り見て、アプリを閉じたら、なぜか資格案内のアプリが入っていた。

 あれ?昨夜は、こんなアプリ入れたことがないし、見覚えもない。

 昨日から、なし崩し的に、どんどん見知らぬアプリを入れてしまっているけど、本当に大丈夫だろうか?

 姫乃は若いころから、大雑把な性格で見た目は女っぽいが、やることは大胆不敵なところがあるものの、やはり慎重にならざるを得ない。

 電車の中でうんうん唸っていると、隣の座席の男性がチラ見してくる。一応、のぞき見防止フィルターを張っているけど、これ以上、電車内で悩むのはやめようとそのままバッグの中に戻す。

 会社の最寄り駅で降りて、歩き出すと、後ろから渡戸に声を掛けられた。

「よお!昨日はお疲れさん、悪かったな」

「おはよう」

「相変わらず、朝から不愛想だな。顔立ちは悪くないのに、芦崎には愛そうというものと無縁だから、仕事を俺に搔っ攫われるんだよ」

「もう次からは、永山のアシストはいらないから。全面的に渡戸に熨斗を付けてくれてやるわ」

「おい!そんな言い方ないだろう?永山だって、わざと見積書の数字間違えたわけではないだろ」

「あら、そ?渡戸と永山が手を組んで私を嵌めたって、もっぱらの噂よ」

 もちろんそんな噂など、まだあるわけがない。昨日の今朝のことだから、ちょっとカマをかけて言ってみただけのこと。

それを必死になって否定してくれるあたり、やっぱり姫乃を嵌めようとしたことは事実なのだと悟った。

 驚いたことは、会社に着いてから、本当に噂話が実在していて、もっぱら渡戸と永山の関係に言及されていたこと。

 昨日は、一方的に姫乃が怒られる側だったのに対し、今朝は、渡戸と永山が会議室に呼ばれ、社長からキツく叱責があったらしいと聞く。

 姫乃にとっては、寝耳に水の話だが、やっぱりこういう話って、誰かがきちんと見てくれていると思うと、ちょっぴり嬉しくなった。

 必然的に姫乃の永山サポートはなくなり、後任のサポートにはベテランの男性が付くことに決まった。

 永山は、営業部から配置転換で資料室に飛ばされ、ハッキリ言えばリストラ対象になった。

 渡戸もエース気取りでいたが、FC部門に移され、FCに対する営業に回されることになった。

 なんだかんだで、うまくいってよかった。これも、ひょっとしたら、あの幸せアプリのおかげかも!?一瞬、頭を過ぎったが、直ぐに否定してしまう。

 まさかね!?そんなことあるわけがない。

 だって、昨日の今日の話で、あの二人がリストラ配転されるなんて、あり得ない話だもの。

 昨日の営業先の契約も、部長がうまくとりなしをしてくれて姫乃の成績となった。午後からは、引き続き、担当者となることが正式に決まり、営業先の会社へ挨拶に出向く。

 出禁が今日になって、正式担当者なんて、考えられない!

 昼休み、気分がいいので、社食でお昼にしないで外食することにした。

 会社を出たところで、渡戸が追いかけてきて、すぐ追い付かれた。

「芦崎、本当、ごめん。俺、なんか焦っちゃって。でも正式に契約獲れたことになって、よかったな」

「当然よ」

「会社で信用失墜させるようなことをしたと思って、本当に悪かったと思っている。だからお詫びにランチ、おごらせてくれ」

「へ?おごってくれるの?なら、うんと高いもの注文しないとね」

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