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12.正門にて

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 「たまたま手がすべっただけです!どうして信じてくださらないのです!」

 「それなら、なぜ謝罪しない?あれは、ミッシェルを狙ったように装い、その実、俺を狙ったのではないのか?馬車の外から見ただけでは、誰が乗っているのかわからなかったはずだ。王族を暗殺しようとした責任は重いぞ。」

 リリアーヌは、途端に青ざめ、ブルブルガタガタと震えだす。

 誰もかばいだてはしないけど、王族を傷つけようとした責任は確かに重い。今回は、誤ってクリストファー様の頭上に植木鉢が落ちてもおかしくなかった状況なだけに、退学は免れないと思う。

 下手をすれば、牢につながれ、国外追放処分も十分にありうる事案なだけに、慎重に捜査が行われる。

 リリアーヌは、ドイル男爵の庶子で、ずっと市井に暮らしてきた。それがお手付きとなったリリアーヌの母親が亡くなったため、ドイル家に引き取られ、今春から学園に通い出したばかりの、何も知らない無知な令嬢だった。

 アイリス嬢ともめ事を起こしたときも、アイリス嬢が一方的に悪者にされ、アイリス嬢が停学処分となったけれど、今から思えば、アイリス嬢も冤罪の被害者であった可能性が出てきたのだ。

 だから、ただの退学では済まされない可能性がある。

 それを一言の謝罪もせぬまま、無罪放免とは、いくら何でもおかしいし、できることではない。

 クリストファー殿下が、それでも謝罪するように求めると、ミッシェルの方をキっと睨みつけ、

 「なによ!モブのくせに!偉そうにすんじゃないわよ!アンタがいなければ、今頃とっくにクリアしていたのにぃ!邪魔なアイリスも追い出して、さぁこれからって時に、よくも邪魔してくれたわね!モブのくせに!」

 「もぶ?もぶとは、なんぞや?」

 結局、謝罪なきまま、牢へ引きずられていった。

 クリストファーは、愕然としていた。モブの意味が分からなかったのではない。アイリスのことだ。

 アイリスも冤罪だった可能性が出てきたことに愕然としている。アイリスが鞭をふるったには、正当な理由があったからで、その時、クリストファーは、ミッシェルのカラダに溺れ、情事に耽っていたので、現場にいなかった。冤罪の可能性が出てきた今、そのことを痛烈に後悔している。

 でも、ミッシェルのカラダは素晴らしい。アイリスとミッシェルを天秤にかければ、どちらも大事だ。

 卒業したら、アイリスを正妃に、ミッシェルを側妃にする計画は、変わっていないが、アイリスに対しては、すまないと思っていることも事実だ。

 特に、今回のリリアーヌの発言で、「せっかくアイリスを追い出した」が気になるところ。

 あの事件は、リリアーヌによって仕組まれたものなのか?婚約者一人も守れない王太子がどこにいる?今回のことで、アイリスも俺に愛想が尽きただろう。いっそのこと、廃嫡にしてもらい、ミッシェルと二人でのんびり暮らそうかと思う。侯爵家の養子になればいいではないか?という思いが過る。

 あっという間にお古休みのチャイムが鳴る。今日は、あんなことがあったばかりなので、きっと王太子殿下が来ることはないと思い、立ち上がって、食堂へ行こうとすると、教室の入り口で、クリストファー殿下の笑顔を見る。

 「いやぁ、ごめん。ごめん。遅くなってしまったね。」

 廊下に出ると、いつもの面々が同じく笑顔でミッシェルを出迎えてくれたのだ。

 食堂に入ると、またもやミッシェルは注目の的。他の生徒からはイケメン高位貴族令息の男子生徒5人を手玉に取り、稀代の悪女のように見えるかもしれないが、今朝のリリアーヌの所業は明らかに逆恨みによるものだ。あの場にいた者の中では、モブの意味がわかるのは、リリアーヌとミッシェルの二人だけだということ。

 ということは、リリアーヌもまた転生者であった可能性が高いということか。
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