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バレンシアは、ぶっ倒れているときに、前世の夢を見てしまった。
前世、地球のニッポンという国。その中の列島の中心地に位置する京都。30年前に遷都1200年祭を数えた美しい古都。
バレンシアの前世での名前は、御輿(みこし)まつり。実家は中京区の餅菓子店。京都には、菓子司という朝廷からいただいた屋号と、餅菓子屋とは格が違うとされている。
もっとも、餅菓子屋でも、朝廷に寄付金を渡せば、菓子司の名目を受け取ることができるので、ご維新前に寄付をしたかしていないかで、勝手に格付けがされているに過ぎない。
実際、福増堂は戦後、祇園祭の稚児を出している。いわば由緒正しき「餅菓子屋」なのだ。
その福増堂の一人娘として生まれたまつりは、同じ大学の同級生と20歳で学生結婚し、卒業式目前で、夫に死なれ寡婦となる。
バイクでアルバイト先から帰宅途中に高齢者運転の車にはねられて亡くなってしまった。その高齢者は、たまたま上級官僚だった人で、上級公務員の犯罪は大目に見てもらえるとか言うことで、禁固刑という軽い罪だけで終わった。
同じ人間なのに、たまたまいい大学を出て、官僚になっただけで、命の尊さに違いがあるなど、司法の欠陥としか言いようがない。
まつりは、シングルマザーとして、店を切り盛りしながら、その生涯を閉じたことに悔いはない。
夢で、前世の記憶を取り戻したバレンシアは、お腹の中の赤ちゃんを一人で産み、育てる決心をする。
前世でも、できたのだから、今世も同じでしょ?やるっきゃない!しかも、今世は前世で寡婦になった時より若い!お金もある。製菓衛生師の資格も前世持っていた。公爵令嬢という肩書もある。それに何と言っても、未来の国王を産むわけだから、他の誰でもない!
決意してから、がぜん勇気が湧いてきた。
将来、レオンハルトに逃がした魚がデカかったというところを見せつけてやる!と意気込み、まずはセレナーデ公爵家にお手紙を書くところから始めるとする。
当然のことながら、父セレナーデ公爵は烈火のごとく怒り、王家に抗議に行くと言い出す始末で、宥めるのに苦労をした。
下手をすれば、お腹の赤ちゃんまでも暗殺されかねない。だから慎重に。と言ったでしょ!?
このことは、両親以外緘口令を敷き、マドリードで隠密裏に出産することにした。幸いにも、宿屋の主人は好意的で、レオンハルトが2年間もの宿賃を前払いしていたおかげで。学園も、マドリードの学園に転入願いを出し、マドリードで卒業するまでの単位を取得した。
バレンシアは、卒業シーズンに産気づき、無事、金髪金眼の元気な王子を産んだ。レオンハルトにちなんで、レオナルドと名付けられたのは、ご愛嬌と言ったところ。
バレンシアは、フランチェスカを拠点とし、前世の知識を利用して、手始めにお菓子を作って売ることにした。
フランチェスカの主人も、快く厨房を貸してくれ宿屋の受付カウンターに商品を置かせてくれた。
最初のうちは、バルセロナから母が子守をしに来てくれていたが、首が座るようになってからは、おんぶ紐で背中に背負うようになって、レオナルドもあまりぐずらず、泣かなくなり、いい子で過ごしてくれるようになった。
背中からレオナルドの温かさがじんわりと伝わってくる。
レオナルドの方も、ベッドに寝かせきりにされるより、母の背中の温かさを感じるようになり、心穏やかに成長していく姿が見えるようになった。
レオナルドは、何か楽しいことを見つけては、一人できゃっきゃっと笑うようになった。足をバタつかせ、お腹をバレンシアの背中に押し付けるようになったので、すぐわかる。
「レオ!なーに?何か楽しいことでもあった?」
レオは、キャッキャッと楽し気に足をバタつかせているだけで、まだ返事はできない。後ろを振り返っても、誰もいない。
あれ?てっきり宿屋の女中さんがあやしてくれているものだとばかり思っていたが、誰もいないとは……?
しばらくすると、またレオナルドがキャッキャッと笑い出す。
普通なら、薄気味悪いと感じるところだけど、レオナルドがいかにも楽し気に笑うものだから、悪いものではないと信じることにして、そのまま作業を続けることにした。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
一方、血の呪い魔法で、強制的にバルセロナに帰還したレオンハルトは、母の死に目には間に合わなかった。
それよりも驚いたことは、今や遅しと隣国の王女アレキサンドラが結婚式の用意をして、待ち構えていたこと。
結婚式さえ挙げてしまえば、両国の友好条約は成立し、安泰となる。ただそれだけのことなのだが、アレキサンドラはレオンハルトの気持ちを無視して、勝手に嫁入り支度を整え、乗り込んできたのだ。
「私には、好きな女性がおります」
「そんなもの、いくらいたってもかまいませんわ。側妃として、召し上げればよろしいのでは?わたくしは、そんな女性には負けないぐらいの魅力がございましてよ」
聞く耳を持たない女性は、男性を不愉快にさせるだけということを気づいていない。また、人によっては萎えるということも。
前世、地球のニッポンという国。その中の列島の中心地に位置する京都。30年前に遷都1200年祭を数えた美しい古都。
バレンシアの前世での名前は、御輿(みこし)まつり。実家は中京区の餅菓子店。京都には、菓子司という朝廷からいただいた屋号と、餅菓子屋とは格が違うとされている。
もっとも、餅菓子屋でも、朝廷に寄付金を渡せば、菓子司の名目を受け取ることができるので、ご維新前に寄付をしたかしていないかで、勝手に格付けがされているに過ぎない。
実際、福増堂は戦後、祇園祭の稚児を出している。いわば由緒正しき「餅菓子屋」なのだ。
その福増堂の一人娘として生まれたまつりは、同じ大学の同級生と20歳で学生結婚し、卒業式目前で、夫に死なれ寡婦となる。
バイクでアルバイト先から帰宅途中に高齢者運転の車にはねられて亡くなってしまった。その高齢者は、たまたま上級官僚だった人で、上級公務員の犯罪は大目に見てもらえるとか言うことで、禁固刑という軽い罪だけで終わった。
同じ人間なのに、たまたまいい大学を出て、官僚になっただけで、命の尊さに違いがあるなど、司法の欠陥としか言いようがない。
まつりは、シングルマザーとして、店を切り盛りしながら、その生涯を閉じたことに悔いはない。
夢で、前世の記憶を取り戻したバレンシアは、お腹の中の赤ちゃんを一人で産み、育てる決心をする。
前世でも、できたのだから、今世も同じでしょ?やるっきゃない!しかも、今世は前世で寡婦になった時より若い!お金もある。製菓衛生師の資格も前世持っていた。公爵令嬢という肩書もある。それに何と言っても、未来の国王を産むわけだから、他の誰でもない!
決意してから、がぜん勇気が湧いてきた。
将来、レオンハルトに逃がした魚がデカかったというところを見せつけてやる!と意気込み、まずはセレナーデ公爵家にお手紙を書くところから始めるとする。
当然のことながら、父セレナーデ公爵は烈火のごとく怒り、王家に抗議に行くと言い出す始末で、宥めるのに苦労をした。
下手をすれば、お腹の赤ちゃんまでも暗殺されかねない。だから慎重に。と言ったでしょ!?
このことは、両親以外緘口令を敷き、マドリードで隠密裏に出産することにした。幸いにも、宿屋の主人は好意的で、レオンハルトが2年間もの宿賃を前払いしていたおかげで。学園も、マドリードの学園に転入願いを出し、マドリードで卒業するまでの単位を取得した。
バレンシアは、卒業シーズンに産気づき、無事、金髪金眼の元気な王子を産んだ。レオンハルトにちなんで、レオナルドと名付けられたのは、ご愛嬌と言ったところ。
バレンシアは、フランチェスカを拠点とし、前世の知識を利用して、手始めにお菓子を作って売ることにした。
フランチェスカの主人も、快く厨房を貸してくれ宿屋の受付カウンターに商品を置かせてくれた。
最初のうちは、バルセロナから母が子守をしに来てくれていたが、首が座るようになってからは、おんぶ紐で背中に背負うようになって、レオナルドもあまりぐずらず、泣かなくなり、いい子で過ごしてくれるようになった。
背中からレオナルドの温かさがじんわりと伝わってくる。
レオナルドの方も、ベッドに寝かせきりにされるより、母の背中の温かさを感じるようになり、心穏やかに成長していく姿が見えるようになった。
レオナルドは、何か楽しいことを見つけては、一人できゃっきゃっと笑うようになった。足をバタつかせ、お腹をバレンシアの背中に押し付けるようになったので、すぐわかる。
「レオ!なーに?何か楽しいことでもあった?」
レオは、キャッキャッと楽し気に足をバタつかせているだけで、まだ返事はできない。後ろを振り返っても、誰もいない。
あれ?てっきり宿屋の女中さんがあやしてくれているものだとばかり思っていたが、誰もいないとは……?
しばらくすると、またレオナルドがキャッキャッと笑い出す。
普通なら、薄気味悪いと感じるところだけど、レオナルドがいかにも楽し気に笑うものだから、悪いものではないと信じることにして、そのまま作業を続けることにした。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
一方、血の呪い魔法で、強制的にバルセロナに帰還したレオンハルトは、母の死に目には間に合わなかった。
それよりも驚いたことは、今や遅しと隣国の王女アレキサンドラが結婚式の用意をして、待ち構えていたこと。
結婚式さえ挙げてしまえば、両国の友好条約は成立し、安泰となる。ただそれだけのことなのだが、アレキサンドラはレオンハルトの気持ちを無視して、勝手に嫁入り支度を整え、乗り込んできたのだ。
「私には、好きな女性がおります」
「そんなもの、いくらいたってもかまいませんわ。側妃として、召し上げればよろしいのでは?わたくしは、そんな女性には負けないぐらいの魅力がございましてよ」
聞く耳を持たない女性は、男性を不愉快にさせるだけということを気づいていない。また、人によっては萎えるということも。
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