前世記憶持ちの悪役令嬢は聖女様呼ばわりされることが嫌で嫌で仕方がない~乙女ゲームのヒロインにゲームクリアしてもらうために奮闘する

青の雀

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新しい出会い

55.ヒロイン視点

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 私は、男爵令嬢リリアーヌ。この乙女ゲームのヒロインです。

 母が亡くなったので、男爵家に引き取られ、この春から王都にある王立学園へ通うことになります。

 実は、私には秘密があり、それは前世ニッポンという国から転生してきた記憶持ちなのです。

 最初は、全然気づかなかったのだけど、母が亡くなって、男爵家に入ったところで、この世界が乙女ゲームの世界だと気づいてしまったのよ。

 だって、登場人物が全員同じで、よく見るとリリアーヌの顔も、あの乙女ゲームの中で見たヒロインに間違いないというぐらい、そっくりだったから。

 それで男爵家に入ってから、この国の名前、王太子殿下の名前をこっそり聞き出したわ。

 全部、ドンピシャで乙女ゲームの世界だと確信したわ。

 前世社畜OLで恋人いない歴=年齢、この乙女ゲームの中でしか恋愛経験はない。だから何度もクリアしたのよ。だいたいパターンがわかってくるからね。現実では、男性から声をかけられることもなく、過ごしてきた私にとり、乙女ゲームの中では王子様や側近から甘い言葉を聞けることだけで、胸がトキメキ、その日一日は頑張れるというものだっただけに、この世界に転生できたことは至上の喜びに近い。

 だから学園に入ることを一日千秋の思いで待っているの。たとえどんな悪役令嬢がいても、ヒロインには必ず正義が勝つというゲームだから、怖くはない。

 やっぱり推しは、エドモンド王太子殿下よね、その婚約者たる悪役令嬢の名前はジャクリーン・アナザーライト侯爵令嬢だったはず。

 早速、この女から陥れることを計画する。

 ところが、学園に入れば、エドモンド王太子殿下もその側近たちも悪役令嬢のジャクリーンも一人残らずいない。

 おかしい?なぜ?

 確かにこの国のオルブライト国の王太子殿下は、御年17歳で、この学園の劣等生として君臨しているはずなのに。王子であることを除けば、何の取り柄もないバカ男。だから攻略は簡単に行く?今までは、行っていた。

 対して、悪役令嬢のジャクリーンは、美人で優等生を鼻にかけている高飛車な女。

 どうして、誰もいないの?この世界は乙女ゲームの世界なのよ。せっかく転生してきたというのに、これでは一発逆転にならない。

 もう、学園に行くのを辞めちゃおうかと、くじけそうになる。エドモンドがいないのなら、カーネルルートでもいい。と思っていたけど、そのカーネル・ブラウデンもいない。アルフレッド・レバトリーもいない。

 こんなの販促よ。金返せと制作会社に訴えたいが、ここは異世界なので、どこに訴え出ればいいのかもわからない。

 ヒロインとして、転生したはずなのに、完全にモブ扱いではないか!それとも乙女ゲームの世界によく似た別の世界に転生してしまっただけなのかもしれない。

 毎日、現実逃避していたから罰が当たったのだと思い直し、モブでも精いっぱいの幸せを模索することにする。幸い、男爵令嬢と言えども、平民ではないところがよかったかもしれない。

 この世界は、たぶん身分次第だと思う。昔、高校の世界史の教科書に出てきた中世ヨーロッパの時代なのかもしれないし、魔女だと疑いをもたれただけで、火あぶりの刑になったのだから、これからはまじめに目立たないように生きていくことを肝に銘じる。

 もしまた、乙女ゲームの世界に転生するようなことがあれば、地味に目立たないように生きようと思う。よくよく考えれば、誰かの不幸の上には、自分の幸せはないということなのだ。

 だから、悪役令嬢を陥れようとしていたから、自分は悪役令嬢にさえなれないモブとして、転生してしまったのかもしれない。

 そして今度、もしまたニッポンの社畜OLに生まれ変わったとしても、もう二度と乙女ゲームはやらない。三次元のちゃんとした男の人を好きになって、結婚する道を探したい。

 今度は、決して逃げずに普通の男の人を好きになる。つもり。

 現実逃避しているうちは、何も解決しないことを今になって、ようやく気付いたのだ。

 そして1年後、卒業式の日、モブとして卒業していく。結局、卒業するまでエドモンド殿下の顔を拝むことはなかったが、同級生が卒業パーティで話している内容に、愕然としてしまった。それはエドモンド殿下とその側近は、隣国ブルオード国に留学されていて、隣国でそれぞれ結婚相手を見つけられ、そこで婚約して卒業したら、結婚式を挙げる予定だということを。

 悪役令嬢だと思っていたジャクリーン・アナザーライトは、3年も前に婚約して、1年前にアルフレッドの兄のシャルマン・レバトリーと結婚し、いまは、領地で田舎暮らしをしていると聞く。

 やっぱり乙女ゲームと似て非なる別の世界だったことを今更ながら思い知る結果になろうとは、でも早めにそのことを気づいて、誰も傷つけず、松任に暮らしてきてよかったと心から、思っている。

 学園を卒業してからは、子爵家の次男とお見合いで知り合い、そのまま結婚する道を選んだのだ。

 華やかな王城暮らしはできなかったけど、これでよかったと思っている。
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