前世記憶持ちの悪役令嬢は聖女様呼ばわりされることが嫌で嫌で仕方がない~乙女ゲームのヒロインにゲームクリアしてもらうために奮闘する

青の雀

文字の大きさ
上 下
33 / 76
新しい出会い

33.急患

しおりを挟む
 温室以外の果樹園は、街路樹の代わりに目抜き通りにリンゴ、桃、ミカン、ブドウ、梨、柿、栗、メロン、桜を植えることにした。

 果実は、誰でも好きな時に取って食べてもいいということにして、余れば、保存用としてジャムにするか、ドライフルーツにして各家が保存することになる。

 対して、温室の果実は、出荷用にしたのだ。とはいっても、畑の作物とは違い、1年ですぐ果実にはならない。カカオなどは最低でも収穫できるまでに4年の月日を要する。

 だから、収穫できるとき、ひょっとすれば、またGame Overになり、収穫を見られない可能性もある。

 それでも植えたのは、希望のため、領民に希望を与えることは為政者としての務めであるから。

 夏休みもそろそろ終わりに近づくころ、またブルオード国に戻るため、いったん王都のアナザーライト家に戻るのだが、またマンションを通って戻ろうと思っている。

 レバトリーの領地でジャクリーンのことを聖女様として崇める者が出てきたので、その噂はすでに周辺の領地にまで及んでいることから、大事をとり、マンションから帰ることにしたのだ。

 本物の聖女様なら、堂々としているだろうが、ジャクリーンの場合は、あくまで噂の聖女様であって、本物の聖女様ではない。

 噂の聖女様でも、自分の領地に噂でも欲しいと思う貴族がいる。だから縁談の申し入れならまだまともだが、誘拐や監禁の危険にさらされる。

 ブルオード国でも一度聖女様疑惑を持たれたが、ジャクリーンが頑として否定したから、でなければ王家に召し上げられてしまうところだったのだ。

 オルブライト国でも、聖女様疑惑を持たれつつあるが、シャルマン様の父レバトリー公爵が宰相として、息子の嫁は断じて、聖女様ではないと否定してくださっているから、かろうじて王家に召し上げはされていないだけなのである。

 もし、これが噂の域を出ているという判断が下されれば、シャルマン様と別れさせられ、エドモンドの妾もしくは、妻にさせられるというもの。

 それだけは絶対にイヤだ。2年半後を待っている悲劇が確実にジャクリーンを襲うからで、それまではどうしても聖女様だという噂を否定し続けなければならない。実際に聖女様ではないという自負もある。

 だいたい聖女様というものは、処女でないと慣れないものでしょう?確かにレバトリー家の地下室を見つけた時は聖女様の素質はあったかもしれないけれど、その後すぐにシャルマンさんと関係を持ったから、だから聖女様ではないと思う。

 神様が作った結界からはじき出されると聞く。それは、前々々世さくらの時代の話だけど、さくらは学生時代、近所の神社の巫女のアルバイトをした経験がある。神楽舞を踊る巫女ではない、お守りやおみくじを販売するだけの巫女。それでも処女でなければ、神様の神域に入れなくて、同級生で巫女のバイトを断られた娘がいた。

 それと同じで、ジャクリーンはもう処女ではないから、聖女様ではないという理屈が筋だと思っている。

 シャルマン様が連日激しく抱いてくださるのも、ある意味その不安から逃れるためだとも理解している。

 次女が乗ってきたジャクリーンの馬車をまたドワーフのオジサンが解体してくれる。それをマンションの勝手口キッチンの方のバルコニーに置いて、ご自分の道具箱も一緒にそこに置いている。

 次女や護衛は、どんどんマンションの非常口避難梯子を通って中に入っていき、勝手口の横、広い方のベランダからアナザーライトへ帰っていく。

 領民は、皆、口々にジャクリーンとシャルマンの別れを惜しんで見送りに来てくださったのだが、いかにも簡素な別れ方で申し訳がない。

 シャルマンとともに、別れを告げ、領主の館の執務室から王都のタウンハウスへ帰る。ただそれだけのことに、大勢の領民が別れを惜しんで見送ってくれる。

 ありがたいというか、申し訳ないというか。

 とにかく、その翌日には、もうブルオード国の女子寮に戻ったことだけは、確かなこと。

 夏休みの宿題もあらかた終わっているから、2学期の予習でもしとこうかな。そう思っていると、兄の診療所のベルが鳴る。

 え!急患!?

 慌てて、髪を一つにまとめ、手を洗い白衣に着替えて、往診セットを持ち、診療所の中を走る抜ける。

 「お兄様!」

 「ジャッキー!護衛の騎士が落馬して崖から落ちてしまったのだ。」

 「意識レベルは?」

 「2,いや3と言ったところか?」

 「止血剤は?」

 「圧迫止血しかしていない。すまないが、キャサリンを学園まで送ってくれないか?」

 「そ、そうね。王女様をこんなところにおいておけないわね。とにかく診療所の中へ運びましょう。」

 王女様を見ると、すっかり青ざめてしまっているご様子。情けない。血を見たぐらいでガタガタすんな!と前世なら怒鳴っているところだが、乙女ゲームのお姫様だからしょうがないか?

 「王女様、わたくしと一緒に、学園に戻られますか?」

 「いいえ。わたくしなら、大丈夫ですわ。」

 それだけ言い、その場にぶっ倒れてしまわれた。お付きの侍女がオロオロして、助けをジャクリーンに求めようとしている。ネット通販でストレッチャーを2台買い、1台は騎士を乗せ、もう1台に王女殿下を乗せ診療所の中に運び込む。

 女子寮の中の侍女を2人呼び寄せ、ストレッチャーに乗せたまま、ジャクリーンの部屋で休んでもらえるように指示を出す。

 騎士の頭が割れているため、その場で緊急オペすることになる。一応、輸血の必要があるかもしれないので、その場にいる人全員の血液検査を行う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...