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新しい出会い
33.急患
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温室以外の果樹園は、街路樹の代わりに目抜き通りにリンゴ、桃、ミカン、ブドウ、梨、柿、栗、メロン、桜を植えることにした。
果実は、誰でも好きな時に取って食べてもいいということにして、余れば、保存用としてジャムにするか、ドライフルーツにして各家が保存することになる。
対して、温室の果実は、出荷用にしたのだ。とはいっても、畑の作物とは違い、1年ですぐ果実にはならない。カカオなどは最低でも収穫できるまでに4年の月日を要する。
だから、収穫できるとき、ひょっとすれば、またGame Overになり、収穫を見られない可能性もある。
それでも植えたのは、希望のため、領民に希望を与えることは為政者としての務めであるから。
夏休みもそろそろ終わりに近づくころ、またブルオード国に戻るため、いったん王都のアナザーライト家に戻るのだが、またマンションを通って戻ろうと思っている。
レバトリーの領地でジャクリーンのことを聖女様として崇める者が出てきたので、その噂はすでに周辺の領地にまで及んでいることから、大事をとり、マンションから帰ることにしたのだ。
本物の聖女様なら、堂々としているだろうが、ジャクリーンの場合は、あくまで噂の聖女様であって、本物の聖女様ではない。
噂の聖女様でも、自分の領地に噂でも欲しいと思う貴族がいる。だから縁談の申し入れならまだまともだが、誘拐や監禁の危険にさらされる。
ブルオード国でも一度聖女様疑惑を持たれたが、ジャクリーンが頑として否定したから、でなければ王家に召し上げられてしまうところだったのだ。
オルブライト国でも、聖女様疑惑を持たれつつあるが、シャルマン様の父レバトリー公爵が宰相として、息子の嫁は断じて、聖女様ではないと否定してくださっているから、かろうじて王家に召し上げはされていないだけなのである。
もし、これが噂の域を出ているという判断が下されれば、シャルマン様と別れさせられ、エドモンドの妾もしくは、妻にさせられるというもの。
それだけは絶対にイヤだ。2年半後を待っている悲劇が確実にジャクリーンを襲うからで、それまではどうしても聖女様だという噂を否定し続けなければならない。実際に聖女様ではないという自負もある。
だいたい聖女様というものは、処女でないと慣れないものでしょう?確かにレバトリー家の地下室を見つけた時は聖女様の素質はあったかもしれないけれど、その後すぐにシャルマンさんと関係を持ったから、だから聖女様ではないと思う。
神様が作った結界からはじき出されると聞く。それは、前々々世さくらの時代の話だけど、さくらは学生時代、近所の神社の巫女のアルバイトをした経験がある。神楽舞を踊る巫女ではない、お守りやおみくじを販売するだけの巫女。それでも処女でなければ、神様の神域に入れなくて、同級生で巫女のバイトを断られた娘がいた。
それと同じで、ジャクリーンはもう処女ではないから、聖女様ではないという理屈が筋だと思っている。
シャルマン様が連日激しく抱いてくださるのも、ある意味その不安から逃れるためだとも理解している。
次女が乗ってきたジャクリーンの馬車をまたドワーフのオジサンが解体してくれる。それをマンションの勝手口キッチンの方のバルコニーに置いて、ご自分の道具箱も一緒にそこに置いている。
次女や護衛は、どんどんマンションの非常口避難梯子を通って中に入っていき、勝手口の横、広い方のベランダからアナザーライトへ帰っていく。
領民は、皆、口々にジャクリーンとシャルマンの別れを惜しんで見送りに来てくださったのだが、いかにも簡素な別れ方で申し訳がない。
シャルマンとともに、別れを告げ、領主の館の執務室から王都のタウンハウスへ帰る。ただそれだけのことに、大勢の領民が別れを惜しんで見送ってくれる。
ありがたいというか、申し訳ないというか。
とにかく、その翌日には、もうブルオード国の女子寮に戻ったことだけは、確かなこと。
夏休みの宿題もあらかた終わっているから、2学期の予習でもしとこうかな。そう思っていると、兄の診療所のベルが鳴る。
え!急患!?
慌てて、髪を一つにまとめ、手を洗い白衣に着替えて、往診セットを持ち、診療所の中を走る抜ける。
「お兄様!」
「ジャッキー!護衛の騎士が落馬して崖から落ちてしまったのだ。」
「意識レベルは?」
「2,いや3と言ったところか?」
「止血剤は?」
「圧迫止血しかしていない。すまないが、キャサリンを学園まで送ってくれないか?」
「そ、そうね。王女様をこんなところにおいておけないわね。とにかく診療所の中へ運びましょう。」
王女様を見ると、すっかり青ざめてしまっているご様子。情けない。血を見たぐらいでガタガタすんな!と前世なら怒鳴っているところだが、乙女ゲームのお姫様だからしょうがないか?
「王女様、わたくしと一緒に、学園に戻られますか?」
「いいえ。わたくしなら、大丈夫ですわ。」
それだけ言い、その場にぶっ倒れてしまわれた。お付きの侍女がオロオロして、助けをジャクリーンに求めようとしている。ネット通販でストレッチャーを2台買い、1台は騎士を乗せ、もう1台に王女殿下を乗せ診療所の中に運び込む。
女子寮の中の侍女を2人呼び寄せ、ストレッチャーに乗せたまま、ジャクリーンの部屋で休んでもらえるように指示を出す。
騎士の頭が割れているため、その場で緊急オペすることになる。一応、輸血の必要があるかもしれないので、その場にいる人全員の血液検査を行う。
果実は、誰でも好きな時に取って食べてもいいということにして、余れば、保存用としてジャムにするか、ドライフルーツにして各家が保存することになる。
対して、温室の果実は、出荷用にしたのだ。とはいっても、畑の作物とは違い、1年ですぐ果実にはならない。カカオなどは最低でも収穫できるまでに4年の月日を要する。
だから、収穫できるとき、ひょっとすれば、またGame Overになり、収穫を見られない可能性もある。
それでも植えたのは、希望のため、領民に希望を与えることは為政者としての務めであるから。
夏休みもそろそろ終わりに近づくころ、またブルオード国に戻るため、いったん王都のアナザーライト家に戻るのだが、またマンションを通って戻ろうと思っている。
レバトリーの領地でジャクリーンのことを聖女様として崇める者が出てきたので、その噂はすでに周辺の領地にまで及んでいることから、大事をとり、マンションから帰ることにしたのだ。
本物の聖女様なら、堂々としているだろうが、ジャクリーンの場合は、あくまで噂の聖女様であって、本物の聖女様ではない。
噂の聖女様でも、自分の領地に噂でも欲しいと思う貴族がいる。だから縁談の申し入れならまだまともだが、誘拐や監禁の危険にさらされる。
ブルオード国でも一度聖女様疑惑を持たれたが、ジャクリーンが頑として否定したから、でなければ王家に召し上げられてしまうところだったのだ。
オルブライト国でも、聖女様疑惑を持たれつつあるが、シャルマン様の父レバトリー公爵が宰相として、息子の嫁は断じて、聖女様ではないと否定してくださっているから、かろうじて王家に召し上げはされていないだけなのである。
もし、これが噂の域を出ているという判断が下されれば、シャルマン様と別れさせられ、エドモンドの妾もしくは、妻にさせられるというもの。
それだけは絶対にイヤだ。2年半後を待っている悲劇が確実にジャクリーンを襲うからで、それまではどうしても聖女様だという噂を否定し続けなければならない。実際に聖女様ではないという自負もある。
だいたい聖女様というものは、処女でないと慣れないものでしょう?確かにレバトリー家の地下室を見つけた時は聖女様の素質はあったかもしれないけれど、その後すぐにシャルマンさんと関係を持ったから、だから聖女様ではないと思う。
神様が作った結界からはじき出されると聞く。それは、前々々世さくらの時代の話だけど、さくらは学生時代、近所の神社の巫女のアルバイトをした経験がある。神楽舞を踊る巫女ではない、お守りやおみくじを販売するだけの巫女。それでも処女でなければ、神様の神域に入れなくて、同級生で巫女のバイトを断られた娘がいた。
それと同じで、ジャクリーンはもう処女ではないから、聖女様ではないという理屈が筋だと思っている。
シャルマン様が連日激しく抱いてくださるのも、ある意味その不安から逃れるためだとも理解している。
次女が乗ってきたジャクリーンの馬車をまたドワーフのオジサンが解体してくれる。それをマンションの勝手口キッチンの方のバルコニーに置いて、ご自分の道具箱も一緒にそこに置いている。
次女や護衛は、どんどんマンションの非常口避難梯子を通って中に入っていき、勝手口の横、広い方のベランダからアナザーライトへ帰っていく。
領民は、皆、口々にジャクリーンとシャルマンの別れを惜しんで見送りに来てくださったのだが、いかにも簡素な別れ方で申し訳がない。
シャルマンとともに、別れを告げ、領主の館の執務室から王都のタウンハウスへ帰る。ただそれだけのことに、大勢の領民が別れを惜しんで見送ってくれる。
ありがたいというか、申し訳ないというか。
とにかく、その翌日には、もうブルオード国の女子寮に戻ったことだけは、確かなこと。
夏休みの宿題もあらかた終わっているから、2学期の予習でもしとこうかな。そう思っていると、兄の診療所のベルが鳴る。
え!急患!?
慌てて、髪を一つにまとめ、手を洗い白衣に着替えて、往診セットを持ち、診療所の中を走る抜ける。
「お兄様!」
「ジャッキー!護衛の騎士が落馬して崖から落ちてしまったのだ。」
「意識レベルは?」
「2,いや3と言ったところか?」
「止血剤は?」
「圧迫止血しかしていない。すまないが、キャサリンを学園まで送ってくれないか?」
「そ、そうね。王女様をこんなところにおいておけないわね。とにかく診療所の中へ運びましょう。」
王女様を見ると、すっかり青ざめてしまっているご様子。情けない。血を見たぐらいでガタガタすんな!と前世なら怒鳴っているところだが、乙女ゲームのお姫様だからしょうがないか?
「王女様、わたくしと一緒に、学園に戻られますか?」
「いいえ。わたくしなら、大丈夫ですわ。」
それだけ言い、その場にぶっ倒れてしまわれた。お付きの侍女がオロオロして、助けをジャクリーンに求めようとしている。ネット通販でストレッチャーを2台買い、1台は騎士を乗せ、もう1台に王女殿下を乗せ診療所の中に運び込む。
女子寮の中の侍女を2人呼び寄せ、ストレッチャーに乗せたまま、ジャクリーンの部屋で休んでもらえるように指示を出す。
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