前世記憶持ちの悪役令嬢は聖女様呼ばわりされることが嫌で嫌で仕方がない~乙女ゲームのヒロインにゲームクリアしてもらうために奮闘する

青の雀

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新しい出会い

26.アナザーライト侯爵

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 夕食後、散歩がてらにアナザーライト家へ向かう。

 さすがに父は、帰宅して夕食中だったのだが、

 「おお!もう夏休みになって、帰ってきたのか?」

 「いいえ。大事なご相談があって、参りました。」

 「では書斎で聞くことにしよう。」

 ジャクリーンは、父の書斎に先に入って、父が来るのを待つことにする。父の書棚から適当に本を選び、ペラペラとページをめくる。

 ほどなくして、父が現れ、その本を慌てて書棚に戻す。

 「で、話って、なんだい?」

 「あの……実は信じてもらえないかもしれない話なのですが、わたくし前世の記憶を持っていました。そして、前世は医者をしており、当時住んでいた家が持ち運びできるようになっていまして……。ご相談というのは、今日は、その家からこちらに参ったわけでございますが、夏休みに寄生するとき、わたくしだけは、馬車を利用しなくても帰れるけれど、侍女や護衛など使用人だけが馬車を遣うというのも空しいと思い、その転移の穴をアナザーライト家の敷地内に設けたいのでございます。それでお父様のお許しを得て、どこに転移の場所を設けたらいいかというご相談でございます。」

 「ほぅ……。それは、ジャッキーだけか?それともエルモアも前世の記憶持ちなのか?」

 「はい。お兄様もわたくしと同じ医者をしておりましたが、お兄様とわたくしでは医療の専門分野が異なります。お兄様は住んでいた家ではなく、クリニックを持ち運びできる能力をお持ちです。」

 「くりにっくとは?」

 「診療所のことでございます。」

 「ちょっとジャッキーの家を見せてもらってもかまわないか?」

 「ええ。もちろんです。今は仮にわたくしの部屋に置いています。でも、これをそのまま部屋に置いておくと、女性の部屋なので、男性の護衛が部屋に入ってしまうことになるから困っています。」

 「頭が理解に追い付いていないから、とにかく一度部屋を見せてもらってから考えることにしよう。今から行ってもいいかい?」

 「はい。ご案内します。」

 そのままジャクリーンの部屋の前まで来て、扉をガチャリと開ける。そして、クローゼットの奥の梯子を指し、

 「これを上がるとベランダに出ます。」

 率先して、スカートのまま、梯子を3段か4段あがると、見慣れたベランダが見える。

 そのまま梯子を上がりきり、お父様が上がってくるのを待つ。

 「驚いたな。ここがジャッキーの前世の家か?」

 「ええ。」

 「入っていいか?」

 「どうぞ。」

 下まである窓を開け、部屋に入る。そこは書斎でその横に寝室がある。その横がリビングでダイニングキッチン、さらにその句が洗面所とバストイレという間取りになっている。

 「一人暮らしなら十分住める大きさだな。それに同じ敷地内にバスもトイレも洗面所に選択肢妻であるとは、完ぺきではないか?あちらが玄関か?」

 「ええ。でもまずは、学園の女子寮からご覧いただきたいのです。」

 お父様に玄関を開けられると、そこはシャルマン様の部屋だから、勝手に開けられては困る。

 来た道をさかのぼり、非常口が開いたままのベランダへ誘導する。

 「このベランダの向こう側が、ブルオード国なのです。」

 さすがに父は、目を見開いている。そして、そのまま土足の状態で、ベランダを難なく乗り越え、女子寮の中に消えた。

 ジャクリーンは、踏み台を持ってきて、それに乗り、弾みをつけて乗り越える。今度、ドワーフの伯父さんに蝶番で扉を着けてもらおうかしらね。そしたら、またヘネシーを買っときゃなきゃね。などと思いながら女子寮の寝室のクローゼットの中に入った。

 次女は、アナザーライト侯爵が急に現れたので、くつろぎムードからいっぺんにお仕事モードへのシフトチェンジに大わらわしている。

 「だ、旦那様、どうしてここへ?」

 父も、目の前の光景が信じられないと言った様子で、目をパチパチさせている。後ろを振り返り、

 「エルモアの診療所はどこだ?」

 「お兄様には来ていただきましょうよ。診療所は、細菌の問題もありますから、ここのベルを引っ張るとお兄様が来てくださいます。」

 「さいきん?」

 ほどなくして、お兄様が来てくださいましたが、お父様の姿を見てビックリなさっています。

 「お父様にわたくしたちの秘密を話しましたの。夏休みに寄生するときの場所をご相談したくて。」

 「まぁそうだな。ジャッキーだけが馬車に乗らずに先に帰省するなんて、ということだろ?」

 ジャクリーンは黙って頷く。

 「マンションの非常口の避難梯子を遣って出入りするのは、馬がキツイかも?と思って、コーナー横のベランダから出入りしようかとも思っているんだけど、どう思う?」

 「ああ、ジャッキーん家は、確か、角部屋だったからな?いいじゃん、それで。」

 「で、その抜け穴をアナザーライト家のどこに作るかをご相談したいの?」

 「ジャッキー、お前まさか……?聖女様なのか?」

 「はぁ?何言っているの!お父様、わたくしは前世、医者で多くの患者さんの命を救ってきたから、神様がご褒美としてチートスキル?かどうかわからない前世住んでいたマンション……、いや家を持ち運びできるようにしてくださっただけですわ。」

 「……?」

 「だから馬車で帰れって、言ったんだよ。親父にはどう説明したって、理解を超えている話さ。」

 「でもね、また車輪が脱輪でもしたら、そのことを考えるとわたくしだけ、楽な方法で帰省するというのも気が引けるし。」

 「何!? 馬車の車輪が脱輪したのか?」

 「あ、はい。そうです。」
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