前世記憶持ちの悪役令嬢は聖女様呼ばわりされることが嫌で嫌で仕方がない~乙女ゲームのヒロインにゲームクリアしてもらうために奮闘する

青の雀

文字の大きさ
上 下
8 / 76
悪役令嬢として転生

8.GAME OVER

しおりを挟む
 その日の夜、攻略対象者5人がジャクリーンの店に来る。

 別に来店予約があったわけではない。たぶん、アナザーライトから王家にリリアーヌが魅了魔法の使い手だということを知らされ、クリニックを出た途端、身柄を拘束されたのだろう。

 そして5人は、いつまで待ってもリリアーヌが帰ってこないことから、今日の晩御飯を食べにレストランに立ち寄ったのだ。

 なかなか元貴族令息の口に合う店はほかにないからで、アナザーライトを選んだというほかない。

 ジャクリーンは、外聞が悪いので、5人を奥の個室へと案内する。元王子が、元婚約者の店に来ていることなど、市井の庶民に知られたくはない。

 「お待たせいたしました。先ほど、リリアーヌ様もお召し上がりいただいた薬膳定職になります。」

 「え?リリアーヌがこの店に立ち寄ったのか?して、どこへ参った?」

 「さぁ?体に優しい味がすると言って、出られたあとのことは存じ上げませんわ。」

 「ったく、メシの支度もせずにどこ、ほっつき歩いているのやら。」

 「やはり身分が卑しい女というものは……。」

 心配しているのかと思えば、リリアーヌ様に対しての不満ばかりを口にする。王位を捨ててまで選んだ相手なのでしょう。と言ってやりたいが口を噤む。

 「これ全部、ジャッキーが作ったのか?大したものだな。」

 エドモンドはいまだにジャクリーンのことを愛称呼びする。

 「エドモンド様、もうわたくしたちの婚約は破棄されたのでございますわよ。いつまでも愛称呼びは止めてくださいませ。」

 「ああ。そうであったな、すまない。」

 そこへアナザーライト家の使用人が困り果てた顔をして、ジャクリーンを呼びに来た。

 「お嬢様、冒険者の方が、けがをされたからとエルモア坊ちゃまの診療所に行かれたのですが、坊ちゃまがお嬢様を呼ぶように申されまして……。」

 エルモアは、アナザーライト家の使用人を受付や看護師代わりに浸かっているが、彼女たちは医療に詳しくない。それで人手が足りないときに、時々ジャクリーンが呼ばれるというわけ。

 「わかったわ。すぐ行くと伝えて。お店の方は、よろしくね。」

 エドモンドが心配そうに、「大丈夫か?」と聞いてくる。

 「たぶん。内科的なことで呼ばれているのだと思いますわ。」

 「ないか??」

 「わたくし、医者ですから。兄のエルモアは外科医で、わたくしは内科医ですの。」

 「……。」

 ひとまず、奥の階段を通って、兄のクリニックへ行く。

 「お兄様、どうかされまして?」

 「ああ、静脈から血液を採取して、分析してくれ。」

 ジャクリーンの姿を見た冒険者たちは、口々に「女神さまだ!」と褒めているようだけど、今はそれどころではない。患者さんの出血がひどい。

 タッパーに、アルコール綿を大量に作っていく。

 「緊急オペするから、用意してほしい。」

 ジャクリーンは、光魔法で、兄の手元が暗くならないように目いっぱいして、前世通販からモニターディスプレイや消毒薬、オペ用の手袋、手術台などを買って、急ごしらえの手術室を作る。

 忙しく動き回っているエルモアとジャクリーンをしり目に、いつの間にか奥の階段を通って、5人の元貴族令息がやってくる。

 目の前では、今まで見たこともない施設の中で作業に追われている二人がいる。何か手伝いでも、と思ってやってきた5人は、何もできずにただ茫然と立ちすくみ、完全な傍観者となっているのだ。

 ひょっとすれば、輸血が必要となるかもしれないので、その場にいた全員の血液型を調べる。

 ドナーの血液型は、RH(-)B型

 幸いにも冒険者たちは、ほとんどがB型で、歯医者の診察台に寝てもらいながら、輸血の準備をしていく。

 「女神さま、この水を飲んでもいいでしょうか?緊張していたら喉がカラカラになっちまって。」

 「もちろん、その水は富士山のミネラルウォーターだから美味しいですよ。」

 うがい用の紙コップを複数持ち、他の冒険者や5人の攻略対象者にふるまう。

 「美味い!」

 「臭みがなく、よく冷えている。」

 「どうやって、ここまで冷やしたのだ?」

 だから、それは……。説明するのがめんどくさくなり、兄のオペの準備を手伝う。

 冒険者やエドモンドは、診察台の上に紙コップを置き、ミネラルウォーターのお代わりを楽しんでいる様子。

 ったく。何しに来ているのだか?

 エルモアは冒険者の手術に際して、同意書に本人がサインできないので、一緒にいた冒険者の同意を求める。

 「命だけでも、助けて下せえ。」

 「止血と内臓損傷の可能性があるので、それはジャクリーンの担当だが、神経もできるだけつなげようと思っています。神経さえつなぐことができたら、手足にマヒが残らず生活できると思いますよ。」

 「ははぁ。どうかお願いしますだ。」

 患者さんに麻酔をかけて、「1,2,3……。」順番に数を数えてもらう。

 なんだかんだ言っても、輸血を必要とすることなく、手術は成功する。

 外科医と内科医の連携が抜群だから。この乙女ゲームの世界では、今のところ現代医療の知識があるのは、二人だけなので、ツーカーで通じる。

 冒険者からは、女神様呼びだったものが、いつの間にか聖女様呼びになっている。

 いやいや女医ですから、聖女様ではありません。ふと後ろを向くと、真剣な表情をしたエドモンドと目が合う。

 おもむろにエドモンドが跪いて、ジャクリーンのスカートの裾に口づけをしながら

 「ジャクリーン・アナザーライト、同化私の妻になっていただけませんか?」

 「は?愛し野、麗しのリリアーヌ様は?エドモンドと結婚なんてするはずふぁございませんでしょ?そもそも婚約破棄されましたからね!」

 「いやまぁそうなのだが。なんだかリリアーヌのことなど、今はどうでもいいという気分なのだ。だからもう一度俺にチャンスをくれ。今度こそよそ見しないでジャッキーだけしか見ないことを誓うよ。」

 「いやです。きっぱりお断りいたしますわ。リリアーヌ様のことをどうでもいいだなんて、そんな浮気者の旦那様を持つ気になれません。」

 それからほどなくして、リリアーヌの処刑が決まった。あの時、エドモンドが急にプロポーズしてきた頃、リリアーヌに魅了を封じ込める魔道具が渡された時刻と符合する。

 5人の攻略対象者は、それぞれ国外追放の処分が決まり、それぞれ別々の国へ行くことになったようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...