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来世:タータン国宿屋の女将として
70.賃貸
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翌日、国王ご夫妻は帰られるのかと思っていたら、連泊されたいとの意向を伺う。
お風呂にトイレ、食事にベッド、すべてのサービスにご満足いただけたようで、よかったとは思うが、連泊など聞いていない話、でも断るわけにもいかないので、渋々承諾する。
でも、近衛騎士団の中で、アイリーンの宿が気に入り、部屋割りで揉めていることなど、知ったこっちゃない。
2~4階はすべて同じ仕様となっているのに、なぜ、揉めているのかわからない。
よく聞くと、向かいの宿に泊まった連中がクレームを入れてきたらしい。向かいの宿に宿泊した連中は、それなりに満足していたものの、アイリーンの宿との差を聞かされ、憮然とし、「今度は俺たちがアイリーンの宿に泊まる」と騒ぎ出したからだそうで。
部屋も違うし、食事の提供があるかないかも違う。いったん宿を出て、夜ご飯を食べに行き、その後、各自で飲みに行くのと、同じ宿の中で食事ができ、酒も飲めるとあっては、アイリーンの宿に泊まりたがるのも無理がないとは思うが、だいたい、騎士団は、国王陛下御夫妻を警護するために来たのでしょ?遊びに来たわけではないので、そのあたりは、仕事に徹してほしい。
昨日、泊まった騎士のうちの一人は、お城の近くに家を借りて住んでいるらしいが、一生、この部屋で住みたいと言い出した者まで出てきて、ウチは賃貸やってないよ?と言っても、宿泊客としてでいいと言い張られ、困っている。
でも、この前のゴロツキみたいなのが現れたら、と思うと、一人ぐらい用心棒代わりに賃貸でもいいかと思ってしまう。
賃貸なら、部屋の掃除やベッドメーキングは自分でやってもらうことになるけど?それでもいいの?
だけど、それならランドリースペースがないから困るのでは?この世界にコインランドリーなんてないから、毎日のお洗濯ができないと少々不便なのでは?と思ってしまう。
それで裏の洗濯場を自由に使ってもいいという条件で、家賃は朝と夜の食事込みで金貨10枚、一泊当たり金貨1枚なので、賃貸になるとかなりお安くなり、お得感がある。この条件で一応、契約することにした。
なんと言っても、いくら女神さまだとしても、女所帯に変わりがない。だから、もしもの時のための用心棒としての価格設定にしたのだ。
その騎士の名は、ケビン・ウイルソン18歳で、今年学園を卒業したばかりの伯爵家令息だということがわかった。
自分の家のタウンハウスはあるものの、ウイルソン家では、騎士一家で「自立しなければ立派な騎士になれない」という家訓があり、いつまでも家から通うな!という理由で、追い出されてしまったとか?
気の毒ね。貴族のことは、いまだによくわからないわ。変なメンツや見栄があって、本当にわからない世界なのだ。
「俺、前からロビンソン様に憧れていたんだ。だから、この宿に住めることになって本当に嬉しいよ」
「そう。よかったわね。これから、よろしくね」
その日からケビンは、宿で寝泊まりするようになるつもりだったのに、昨日、向かいの宿に泊まったケビンの先輩格に当たる騎士が横やりを入れてきたのだ。
だって、ケビンは宿泊客ではない、賃貸として家賃を支払っている店子だというのに、その騎士はマイケルと名乗るケビンの先輩格と言っても、同じ下士官なのだ。
「お前は、昨夜いい宿に泊まったのだから、今夜はお前の部屋で俺が泊まる番だ。お前は、昨日、俺が泊まった部屋で寝ろ」
なんて横暴な!
「お客様、それは困ります!ケビンは、騎士として、昨夜宿泊したのではございません。店子として、当宿の一室を借りていただいて住まれているのです」
「はあ?下士官が上官の命に従うのは、当然のことだろ?」
いやいや、待って。この人、頭おかしい?上官でもないくせに。騎士の制服のラインが1本しかないのは、下士官だって、昨日、上官の人から聞いたというのに。
「だから、違うと言っているでしょ?ケビンは、宿泊客ではなくて、店子なのです。上官といえども、店子を追い出されるようなことは宿の女将として、許しがたいことで目を瞑る気はございませんし、大家として、また貸しは見過ごせません」
業を煮やしたマイケルは、アイリーンを突き飛ばそうとしたが、あいにくアイリーンは女神の結界で守られている。
突き飛ばそうとしたはずみで、マイケルが後ろへよろよろと倒れ、尻もちをついてしまう。
騒ぎを聞きつけ、駆け付けた騎士団長は事の発端が昨夜、マイケルが向かいの宿屋に泊まったことを不服に思い、1年下の新人団員のケビンに言いがかりをつけ、部屋を交換させようとしていたことに気づく。
「マイケル!お前は、今日も向かいの宿だ。さっさと行け!」
「それとケビン、説明してもらおうではないか?先ほど、女将が言っていた賃貸だとか?店子だとか?という話を」
ケビンは、この宿の一室を借り、ここから騎士団に出仕することを団長に伝えた。
団長の顔色がみるみる変わっていき、最後には大目玉を食らってしまうことになったのだが、アイリーンが用心棒代わりにお願いしたのだと言うと、態度を改め、
「それならば、ケビンのようなひよっこではなく、私が用心棒代わりを務めさせていただきましょう」
「そんな……、団長様にお願いすると言うほどでもございませんし、わたくし共の宿では、こうしたトラブルは滅多に起きないのです。ですから、ケビン様当りがちょうどよろしいかと存じます」
アイリーンがそう言い張ったため、渋々ケビンの引っ越しは認められた。ワンルームマンションよりも少し手狭な部屋だったけど、ケビンは、晴れてアイリーンの宿「石湯」の住人となったのである。
お風呂にトイレ、食事にベッド、すべてのサービスにご満足いただけたようで、よかったとは思うが、連泊など聞いていない話、でも断るわけにもいかないので、渋々承諾する。
でも、近衛騎士団の中で、アイリーンの宿が気に入り、部屋割りで揉めていることなど、知ったこっちゃない。
2~4階はすべて同じ仕様となっているのに、なぜ、揉めているのかわからない。
よく聞くと、向かいの宿に泊まった連中がクレームを入れてきたらしい。向かいの宿に宿泊した連中は、それなりに満足していたものの、アイリーンの宿との差を聞かされ、憮然とし、「今度は俺たちがアイリーンの宿に泊まる」と騒ぎ出したからだそうで。
部屋も違うし、食事の提供があるかないかも違う。いったん宿を出て、夜ご飯を食べに行き、その後、各自で飲みに行くのと、同じ宿の中で食事ができ、酒も飲めるとあっては、アイリーンの宿に泊まりたがるのも無理がないとは思うが、だいたい、騎士団は、国王陛下御夫妻を警護するために来たのでしょ?遊びに来たわけではないので、そのあたりは、仕事に徹してほしい。
昨日、泊まった騎士のうちの一人は、お城の近くに家を借りて住んでいるらしいが、一生、この部屋で住みたいと言い出した者まで出てきて、ウチは賃貸やってないよ?と言っても、宿泊客としてでいいと言い張られ、困っている。
でも、この前のゴロツキみたいなのが現れたら、と思うと、一人ぐらい用心棒代わりに賃貸でもいいかと思ってしまう。
賃貸なら、部屋の掃除やベッドメーキングは自分でやってもらうことになるけど?それでもいいの?
だけど、それならランドリースペースがないから困るのでは?この世界にコインランドリーなんてないから、毎日のお洗濯ができないと少々不便なのでは?と思ってしまう。
それで裏の洗濯場を自由に使ってもいいという条件で、家賃は朝と夜の食事込みで金貨10枚、一泊当たり金貨1枚なので、賃貸になるとかなりお安くなり、お得感がある。この条件で一応、契約することにした。
なんと言っても、いくら女神さまだとしても、女所帯に変わりがない。だから、もしもの時のための用心棒としての価格設定にしたのだ。
その騎士の名は、ケビン・ウイルソン18歳で、今年学園を卒業したばかりの伯爵家令息だということがわかった。
自分の家のタウンハウスはあるものの、ウイルソン家では、騎士一家で「自立しなければ立派な騎士になれない」という家訓があり、いつまでも家から通うな!という理由で、追い出されてしまったとか?
気の毒ね。貴族のことは、いまだによくわからないわ。変なメンツや見栄があって、本当にわからない世界なのだ。
「俺、前からロビンソン様に憧れていたんだ。だから、この宿に住めることになって本当に嬉しいよ」
「そう。よかったわね。これから、よろしくね」
その日からケビンは、宿で寝泊まりするようになるつもりだったのに、昨日、向かいの宿に泊まったケビンの先輩格に当たる騎士が横やりを入れてきたのだ。
だって、ケビンは宿泊客ではない、賃貸として家賃を支払っている店子だというのに、その騎士はマイケルと名乗るケビンの先輩格と言っても、同じ下士官なのだ。
「お前は、昨夜いい宿に泊まったのだから、今夜はお前の部屋で俺が泊まる番だ。お前は、昨日、俺が泊まった部屋で寝ろ」
なんて横暴な!
「お客様、それは困ります!ケビンは、騎士として、昨夜宿泊したのではございません。店子として、当宿の一室を借りていただいて住まれているのです」
「はあ?下士官が上官の命に従うのは、当然のことだろ?」
いやいや、待って。この人、頭おかしい?上官でもないくせに。騎士の制服のラインが1本しかないのは、下士官だって、昨日、上官の人から聞いたというのに。
「だから、違うと言っているでしょ?ケビンは、宿泊客ではなくて、店子なのです。上官といえども、店子を追い出されるようなことは宿の女将として、許しがたいことで目を瞑る気はございませんし、大家として、また貸しは見過ごせません」
業を煮やしたマイケルは、アイリーンを突き飛ばそうとしたが、あいにくアイリーンは女神の結界で守られている。
突き飛ばそうとしたはずみで、マイケルが後ろへよろよろと倒れ、尻もちをついてしまう。
騒ぎを聞きつけ、駆け付けた騎士団長は事の発端が昨夜、マイケルが向かいの宿屋に泊まったことを不服に思い、1年下の新人団員のケビンに言いがかりをつけ、部屋を交換させようとしていたことに気づく。
「マイケル!お前は、今日も向かいの宿だ。さっさと行け!」
「それとケビン、説明してもらおうではないか?先ほど、女将が言っていた賃貸だとか?店子だとか?という話を」
ケビンは、この宿の一室を借り、ここから騎士団に出仕することを団長に伝えた。
団長の顔色がみるみる変わっていき、最後には大目玉を食らってしまうことになったのだが、アイリーンが用心棒代わりにお願いしたのだと言うと、態度を改め、
「それならば、ケビンのようなひよっこではなく、私が用心棒代わりを務めさせていただきましょう」
「そんな……、団長様にお願いすると言うほどでもございませんし、わたくし共の宿では、こうしたトラブルは滅多に起きないのです。ですから、ケビン様当りがちょうどよろしいかと存じます」
アイリーンがそう言い張ったため、渋々ケビンの引っ越しは認められた。ワンルームマンションよりも少し手狭な部屋だったけど、ケビンは、晴れてアイリーンの宿「石湯」の住人となったのである。
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