転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀

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現世:新たなる旅立ち

53.プロポーズ

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 シンイーは、勝手知ったる店の中なので、どんどん奥に進み、厨房の中へと入っていく。

 つられてオスカルも厨房の中に入ろうとしたら、「STAFF ONLY」の結界が邪魔して入れないでいる。

シンイーの後ろから、「チッ!」と舌打ちしたような音が聞こえるが、一刻も早くアイリーンに会いたいシンイーは、部下の怒りなど放っておくことにする。

 タワマンのリビングでアイリーンは、お茶を淹れながら待っていてくれている。

「済まない。待たせた」

「それよりオスカル・イソフラボンがナターシャの婚約者だと知って驚いたわよ」

「なんだ?オスカーのことを知っているような口調だな?」

「あのね。陛下と出会って、数日後だったかしら?アフロディーテの店の前で、オスカルにナンパされそうになったことがあってね」

「な、なんだと?」

 アイリーンは、以前、オスカルからもらったメモの走り書きをしたものを陛下に見せる。

「それで虫よけのためにジェニファーを女将代行にして、表に立たせるようにしたのよ」

「あいつ。まだ、こんなことをやっているのか?オスカルの女狂いも以前から知っていたが、まさかアイリに手を出すなど、許せん!」

「問題はそこじゃないでしょ?とにかく、逢引きはアイリーンの店を遣わない方がいいと思って。だって、ナターシャが可愛そうですもの。今、戻れば、今頃、スーザンを口説いているはずよ」

「では、いったん戻るとする。でも、後で、俺の執務室へ来てくれ。話がある」

 シンイーは、再び厨房を通り、店内に戻ったら、案の定、食券売り場の前に陣取って、しきりにスーザンを口説いていたのだ。

「オスカル帰るぞ!」

「えっ!?もう?」

 陛下が馬車に乗られるところを見て、慌ててスーザンを口説くことを諦め、馬車へと向かう。

 馬車の中でシンイーは、オスカルに説教を試みることにした。

「オスカル、あのなあ、前から言おうと思っていたことだが、お前、そろそろ実を固めてはどうだ?いつまでも女狂いをするのは、やめておけ!だいたい婚約者殿がかわいそうではないか?」

「……、婚約者のことは愛しています。ですが、私は絶倫なので、今、結婚すれば、ナターシャを抱き潰しかねないのです」

 なんだ?それは、そんなことが言い訳にでもなると本気で思っているのだろうか?

「相手のことを本当に愛していれば、相手を思いやり相手の調子に合わせられ、そんな無茶な抱き方はできないはずだ。それが絶倫のせいにするとは、お前はただ病気なだけだ」

「ですが……陛下より先に結婚す津などとは、恐れ多いことでございますれば……」

「俺には、もう決まった相手がいる」

 そこに走り書きしたメモをはらりと見せる。

「こ、こ、これは……!どこで、これを……?」

「俺の女だ。手出しは許さぬ」

「へ?」

「とにかく分かったら、もう婚約者殿を自由にしてやれ、お前のせいで、誰とも結婚できないのはかわいそうだろ?ただし、婚約破棄はダメだ。婚約の白紙撤回をしろ。いいな?」

「はい」

「ナターシャ嬢だったかな。美しい娘だ。他の男が放っておかないだろう。だから早く自由にしてやれ」

「へ、陛下、なぜナターシャのことをご存知なのですか?」

「俺の妻の友だからだ。ナターシャをこれ以上泣かせることは俺が許さん」






 アイリーンは、頃合いを見計らって、シンイーの執務室へ行く。もちろん転移魔法に隠ぺいをかけて。

「あ、来てくれたか?アイリ」

「ええ。お忙しそうだったから、お声がけをせずにおりました」

「実は頼みがあってな」

「はい、なんなりと」

「俺と結婚してほしい」

「はい。承知しました」

「え?それだけ?前世みたいに嬉しいとか、言って欲しかった」

「うふ。もちろん、嬉しいですわ。でも女神であることを思い出してしまったので……」

「うむ。それで頼みと言うのは、この部屋とタワーマンションの寝室を繋いでもらえたら嬉しい。できれば、もう一度、あの部屋で新婚生活を送りたいと思っていた」
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