転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀

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現世:新たなる旅立ち

43.御用達

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 それからというもの、クリストファー殿下が行かれた店として、名を馳せてしまい、貴族の間で噂が広まり、王宮御用達の店として、箔が付いたことはいいものだけど、庶民がすっかり行きにくい店として、広まってしまったことで、新たな問題になる。

 だいたい銅貨数枚で食べられる店で、庶民から親しまれ、とりわけ家族連れや子供同士の来店がめっきりと減ってしまう。ファミリーレストランなのだから、家族連れで来ても、銀貨3~5枚もあれば、家族全員が充分満腹感を得られるというぐらいリーズナブルなのだ。

 それを豪華な衣装に身を包んだ貴族がわが物顔で来店されると……甚だ迷惑というもの。かといって、力づくで追い出すというのも、どうも憚られる。

 それに、恐れていたあの人たちがついに来てしまったのだ……。

 それは、エストロゲン家の母と妹が、昔の公爵家時代に着ていたドレスを引っ張り出して来店したのだ。

 食券売り場にいるエレモアにいち早く目を止め、

「エレモア!我が家をクビになって、こんな店で働いているの!」

 エレモアを非難されている声にサファイアが慌ててエレモアの近くへ行く。

「お客様、こんな店へわざわざお越しいただきありがとうございます」

「あら、別にそういう意味ではないのよ。ただ、昔の使用人だったものが王都で一番評判の店でよく働けたものだと感心してしまって、つい……」

 そこにジェニファーが女将として、挨拶に行く。

「これはこれは、エストロゲン準男爵夫人と偽聖女様、おそろいで当店へお越しいただきありがとう存じます」

「あなたたち……、まさか!ステファニーがこの店にいるのでしょう?出しなさいよ!私の娘よ!ステファニー!ママが迎えに来てあげたわよ!」

 そこにクリストファー殿下まで、やってきて話がややこしくなる。

「何!?やっぱり、ここがステファニーの店だったのか?おーい!ステファニー!もう一度、俺と結婚してくれ!いや、違った婚約してくれ!」

「何でございますか!騒々しい、わたくし騒々しいのが一番嫌いでしてよ!静かにしないと、石に変えて差し上げますわ」

 アフロディーテの登場に、そのあまりの美しさで目が開けていられないほど眩しい。

「あら、申し遅れましたわね。わたくしは、この店のオーナーのアフロディーテと申しますわ。以後、お見知りおきを」

 エストロゲン夫人と妹の前に姿を現せたくないアイリーンのために、アフロディーテが一芝居打ってくれた。

 クリストファーは、大きく目を見開いて

「美しい……、アフロディーテ嬢、どうか私の妻になってくれ」

「は?殿下はさっきまで、違う女性の名前の方に求婚されるために叫んでおられましたわよね?」

「いや、それは……。アフロディーテ様を目にしたら、あんな田舎臭いステファニーのことなど、どうでもよくなりました。どうか、私の妻に……」

「お断りします!誰が、田舎臭いですって!?わたくしの幼馴染に対して、よくも、そんなことが言えたわね!」

「へ?でも、事実……」

「そんな浮気っぽい男性、こちらから願い下げしますわ!」

 そこへエストロゲン夫人が、

「お取込み中、恐れ入りますが、エレモアや侍女長がこの店で働いていたのと、私の娘であるステファニーとは、まったく無関係ということなのでしょうか?」

「ええ。そうよ。ステファニーとは、古い知り合いだけど、もうずっと会っていないわ。それより、貴族の方が来店されますと、平民のお客様に迷惑が掛かりますの。今後は、もうこの店に来ないでくださいまし!そのことを言うため、今日は店先まで、出向いた次第でございます」

「お客になんて、無礼な物言いを!こんな店、もう二度と来てやんないよ!」

「お母様、ここのところ、まともなモノを食べていないし、それにここは、一等安いお店だということ、わかっている?」

「シッ!おだまり!ここまで愚弄されて、主人が戻ってきたら、ただじゃ済ませないよ」

「そういえば、獄中のエストロゲンは、いかがした?」

「で、殿下まで……。主人は無実なのでございます!一刻も早く、連れ帰りたいのでございます……」

「そういえば、女将、先ほどスザンヌのことを偽聖女様と言っていたが……?」

「ええ。スザンヌ様は、教会から偽聖女の烙印を押され、戻っておいででしたわ」

「なんだと?スザンヌは聖女でもないのに、エストロゲンのやつめ……」

 クリストファー殿下は、急いで王城へ帰ろうとなさっている。その前に、アフロディーテの方を振り返り、

「レストラン・オーナーよ。再び来る日まで、良い返事を用意してくれ!」

 結局、クリストファー殿下は、王妃に美形を望んでいるだけの男だったというわけ。
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