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現世:カフェレストラン
24.待ち人
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ある朝のこと、店を開けようとして、その前に店の前をいつも掃除するところから始めるアイリーンは、店の前の路上で行き倒れの男性を拾ってしまう。
いつもなら憲兵を先に呼ぶところだが、なぜかその男性を見た途端、胸騒ぎがして堪らない。
それで店の奥へ連れ込み、介抱しておかゆを食べさせた。男性は「シンイー」と名乗り、隣国アムステルダムから来たと言っている。旅の途中で追剥に会い、なんとか命からがら、ここまで逃げてきた途中だとも話してくれた。
身なりはボロボロで……、こんなボロボロ、よれよれの人が盗賊に襲われたりするものかしら?と思いつつも、とにかく風呂と着替えを与え、しばらく様子を見ることにした。
風呂から上がった男性を見ると、ビックリするぐらいイケメンで、それに何か懐かしい感じがする。
どこかで会ったことがあるような?でも、隣国アムステルダムに知り合いはいない。
シンイーは、どこからどう見ても人間にしか見えない。だいたい何かの化身であれば、そう簡単に盗賊にやられたりしない。だから、きっと人間だと思う。
行く当てがないと言われるシンイーを調理補助として雇うことにして、しばらく様子を見てもいいと思えるようになった。
幸いなことに社宅の部屋にまだ余裕がある。
厨房にいる精霊たちも、何も言わないからきっと、悪人ではないのだろうと推察する。
開店45分前になり、サファイアたちが起き出してきて、賄の朝ごはんをみんなで食べることにして、その席でシンイーをみんなに紹介する。
「はじめまして。シンイーと言います。隣国アムステルダムからやってきました。こちらのオーナーさんに拾っていただき感謝の言葉しか出ません。よろしくお願いします」
サファイアは無言で頷き、精霊のデイジーは、なぜか上機嫌でいる。エレモアは、「この店のスタッフになる人はイケメンばかりね」とボソっと呟く。
そういえば、そうだとアイリーンも頷いてしまう。なぜか、この店にスタッフとして働く男性は皆、揃いも揃ってイケメンばかりなのだ。中には、ブサメンの一人や二人いてもおかしくないのに……。
これなら、もしレストランがダメになってもホストクラブとしてなら生き残れるかもしれないと、その時は冗談半分で考えていた。
漠然とではあるが、夜の営業時間が終わってから、1階部分だけをホストクラブにすることもできるかなぁと、この世界ではお金だけがあり旦那に不満を持っている貴族のご婦人方が大勢いる。そのご婦人方をターゲットにすれば、新たなビジネスチャンスがあるかも?と本気で、思ってしまうけど、たぶんサファイアたちに言えば、却下されるだろうな……とは、思っている。
そこで思考を停止して、開店準備に取り掛かることにした。
厨房に入り、業務用の食洗器に賄いで使った食器を入れていく。
タワマンにあった食洗器では、家庭用なので小さすぎるため、新たに大きいものが欲しいと食洗器の前で唸っていたら、業務用の食洗器がなぜか厨房に現れ、それを便利だからという理由だけで、深く考えもせず、使用している。
これも異世界転生者のチートスキルだと本気で考えているところも、アイリーンならではの天然ボケといったところ。
今日の一番乗りのお客様はシンイーだと思っていたけど、開店して、すぐ懐かしい人がお客様として来られた。
その方は、エストロゲン家の侍女長だった人で、確か名前は、ジェニファー・……なんだっけ?忘れた。
いつも役職名でしか呼んでいなかったので、誰も名前を憶えていない。
とにかくジェニファー様が来られたということは、またエストロゲン家をクビになってしまわれたのだろうか?と心配になる。
「いいえ。まだクビというわけでは、ございませんが、もう3か月分ほど、お給金が滞っております。わたくしも手元が不用意になってまいりましたので、どこか別のお屋敷にご奉公したいと思っておりますのですが、なかなか……今まで飛ぶ鳥を落とすような勢いは、もうエストロゲン家にはございませんし、エストロゲン家というだけで、他の貴族から渋い顔をされてしまう始末ですので、どこも雇ってくださるところがございません」
「それで……?」
「エレモアがこちらで、ご厄介になっているという話を人伝に聞いておりましたので、今日は懐かしい同輩の顔を見に寄らせていただいた次第でございます」
いつもなら憲兵を先に呼ぶところだが、なぜかその男性を見た途端、胸騒ぎがして堪らない。
それで店の奥へ連れ込み、介抱しておかゆを食べさせた。男性は「シンイー」と名乗り、隣国アムステルダムから来たと言っている。旅の途中で追剥に会い、なんとか命からがら、ここまで逃げてきた途中だとも話してくれた。
身なりはボロボロで……、こんなボロボロ、よれよれの人が盗賊に襲われたりするものかしら?と思いつつも、とにかく風呂と着替えを与え、しばらく様子を見ることにした。
風呂から上がった男性を見ると、ビックリするぐらいイケメンで、それに何か懐かしい感じがする。
どこかで会ったことがあるような?でも、隣国アムステルダムに知り合いはいない。
シンイーは、どこからどう見ても人間にしか見えない。だいたい何かの化身であれば、そう簡単に盗賊にやられたりしない。だから、きっと人間だと思う。
行く当てがないと言われるシンイーを調理補助として雇うことにして、しばらく様子を見てもいいと思えるようになった。
幸いなことに社宅の部屋にまだ余裕がある。
厨房にいる精霊たちも、何も言わないからきっと、悪人ではないのだろうと推察する。
開店45分前になり、サファイアたちが起き出してきて、賄の朝ごはんをみんなで食べることにして、その席でシンイーをみんなに紹介する。
「はじめまして。シンイーと言います。隣国アムステルダムからやってきました。こちらのオーナーさんに拾っていただき感謝の言葉しか出ません。よろしくお願いします」
サファイアは無言で頷き、精霊のデイジーは、なぜか上機嫌でいる。エレモアは、「この店のスタッフになる人はイケメンばかりね」とボソっと呟く。
そういえば、そうだとアイリーンも頷いてしまう。なぜか、この店にスタッフとして働く男性は皆、揃いも揃ってイケメンばかりなのだ。中には、ブサメンの一人や二人いてもおかしくないのに……。
これなら、もしレストランがダメになってもホストクラブとしてなら生き残れるかもしれないと、その時は冗談半分で考えていた。
漠然とではあるが、夜の営業時間が終わってから、1階部分だけをホストクラブにすることもできるかなぁと、この世界ではお金だけがあり旦那に不満を持っている貴族のご婦人方が大勢いる。そのご婦人方をターゲットにすれば、新たなビジネスチャンスがあるかも?と本気で、思ってしまうけど、たぶんサファイアたちに言えば、却下されるだろうな……とは、思っている。
そこで思考を停止して、開店準備に取り掛かることにした。
厨房に入り、業務用の食洗器に賄いで使った食器を入れていく。
タワマンにあった食洗器では、家庭用なので小さすぎるため、新たに大きいものが欲しいと食洗器の前で唸っていたら、業務用の食洗器がなぜか厨房に現れ、それを便利だからという理由だけで、深く考えもせず、使用している。
これも異世界転生者のチートスキルだと本気で考えているところも、アイリーンならではの天然ボケといったところ。
今日の一番乗りのお客様はシンイーだと思っていたけど、開店して、すぐ懐かしい人がお客様として来られた。
その方は、エストロゲン家の侍女長だった人で、確か名前は、ジェニファー・……なんだっけ?忘れた。
いつも役職名でしか呼んでいなかったので、誰も名前を憶えていない。
とにかくジェニファー様が来られたということは、またエストロゲン家をクビになってしまわれたのだろうか?と心配になる。
「いいえ。まだクビというわけでは、ございませんが、もう3か月分ほど、お給金が滞っております。わたくしも手元が不用意になってまいりましたので、どこか別のお屋敷にご奉公したいと思っておりますのですが、なかなか……今まで飛ぶ鳥を落とすような勢いは、もうエストロゲン家にはございませんし、エストロゲン家というだけで、他の貴族から渋い顔をされてしまう始末ですので、どこも雇ってくださるところがございません」
「それで……?」
「エレモアがこちらで、ご厄介になっているという話を人伝に聞いておりましたので、今日は懐かしい同輩の顔を見に寄らせていただいた次第でございます」
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