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現世:カフェレストラン

16.エストロゲン家の侍女エレモア

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 連行された侍女のほとんどは、貴族令嬢で嫁入り前の行儀見習いとして、腰掛的に働いていた者たちばかりであったのだ。

 最も長くまで受牢されてしまった侍女の名前はエレモア・フランドル伯爵令嬢、ステファニーとユリアを苛めていた首謀者と言っても過言ではない。

 エレモアは、ステファニーが異能を持たず、容姿もそれほど別嬪というわけでもないのに、公爵令嬢というだけで王太子殿下が婚約者にと、望まれていることが許せないほど我慢できなかった。

 そして子爵令嬢のユリアに対しても、何度言っても、ステファニーへ嫌がらせをせず、いつもヘラヘラ笑っているところが気に食わなかったのだ。

 ステファニーよりも自分の方が圧倒的に美人だという思い、自信が彼女を凄惨ないじめへと駆り立てた。

 スザンヌ聖女様付きの侍女だったのだが、スザンヌが教会へ上がる時、同行を赦してもらえなかったことも、ステファニーへの嫌がらせを加速させる一端となる。

 スザンヌお嬢様のことは、可愛らしく美しい。少々気が強く、ワガママなところもあるが、何といっても聖女様であるから、スザンヌの筆頭侍女に任命されたことは、エレモアの自己顕示欲を満足させることに申し分がなかったのである。

 それなのに、二人いる王子様のいずれも、ステファニーの方ばかりを見ていて、エレモアの聖女様に気がない素振りが、またまたステファニーへの嫌がらせ欲に火を点けてしまう。

 牢を出て冷静に考えると、王子様は単に年齢が近いステファニーだからこそ、気に入っていらっしゃったということかもしれない。スザンヌ様とではマリオット殿下で5歳年下、クリストファー殿下とは7歳も年齢差があり、とても結婚相手には相応しくなかったのであろう。

 連行された侍女のほとんどは、一通りの事情聴取の後、地下牢に1泊から数泊したのち、釈放されるも、エストロゲン家に戻るも、戻れない。解雇されてしまったのだ。

 エレモアも、いったんエストロゲン家に戻るも、

「お前のせいで、エストロゲン家は家ごとステファニーにいじめを働いていたと認定されてしまった。お前はもう解雇だ。とっとと出ていけ」

 あの絢爛豪華だったエストロゲン家が、見る影もないほど落ちぶれている。聞くところによると準男爵家まで、家格を落とされているという。エストロゲンの領地、私財はすべて没収され、国有になってしまったらしい。現在居住しているタウンハウスのみが、残された財産というところか……。

 それも次、何かがあれば、それすらも没収になってしまう危機にあると言うことも聞いた。平民落ちになるか?死罪になってしまうのかはわからない。

 私物を取りに私室に行っても実家から持ってきたはずの高価なドレスや宝石類がことごとく見当たらない。金に困ったエストロゲン家に私物化され、盗まれて、すでに売却されてしまった後のことだった。

 文句を言うと、今まで働いていた未払いの賃金ももらえず、たたき出されてしまい、おまけに次の働き口への紹介状も書いてもらえなくなってしまったのだ。

 仕方なく実家のフランドルに戻るも、婚約者との縁談はすでに解消されている。縄付きになったような女など嫁として家に入れるわけにはいかないという理由で。

 しかも、主人の娘で王太子殿下(マリオット)の婚約者、現王太子殿下(クリストファー)の婚約者候補を苛めていたとあっては、関りを持ちたくないと毛嫌いされてしまうのも納得が行く話。

 それにフランドル家からも勘当を言い渡され、もはやどこにも行く当てがなくなってしまったのだ。ひとりで生きていけるわけでもない。侍女の仕事ができると言っても、それは誰にでもできる単純作業に等しい。

 エレモアは、仕方なく手荷物一つで、家を出て、かつての同輩の実家を訪ね歩くが、門前払いばかりをされてしまう。

「当家では、カトリーヌという名のご令嬢は、存在致しません」

 きっと同輩たちも、エレモアと似たように実家から追い出されてしまったのだろう。
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