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現世:カフェレストラン

15.エストロゲン公爵家の人々(1)

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 そこへ公爵家の使用人が、応接間に飛び込んでくる。ただでさえ、自分が縄付きとなって引っ立てられていく姿を使用人ごときに見られたくないエストロゲン公爵は、不機嫌そうに眉をしかめている。

「ユリアの荷物がありません!」

「は?ユリアとは、誰だ?」

「ステファニーお嬢様の侍女でございますよ」

「なに?それでは、ステファニーとその侍女は手に手を取り合って、家出をしたと申すのか?殿下、お聞きになられたでしょう。私は無実です!」

「お前は、さっきステファニーに対して、勘当すると叫んでいたではないか?それにもし家出したとなれば、それは、お前が常日頃から、そのような言動をとっていたからであろう。非力な令嬢が、家出まで思いつめるほど、お前たち家族や使用人は、ステファニーによほどひどい仕打ちをしてきたものだろうということを裏付けることにもなる」

 ユリアがいないことを告げに来た使用人は、青ざめブルブル震えている。この侍女も、さんざんステファニーとユリアをイジメてきたのであろうということは、顔を見て、すぐに分かったのだ。

「念のため、この侍女も連行しろ!まだまだ知っていることがありそうだからな」

「いいえ。わたくしは何も……」

「殿下に口答えするな!」

 騎士の一人にピシャリと言われ、シュンとしてしまう。そして、今まで他の侍女と一緒にユリアを苛めてきたことを心から反省し、後悔するのだった。

 この侍女が王城に着いてからというもの、芋づる式に公爵邸の侍女が次々にお城へ呼ばれ、投獄される。

 エストロゲン家の家族とともに、ステファニーをバカにし、その侍女までイジメていた事実が明らかになっていく。このことは、社交界で、大きな波乱を呼ぶことになるのだが、それはまた後の話。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-* -*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 一方、異能を発現させた弟や妹も、最近、調子が悪い。特にスザンヌは、聖女様の光を失ってしまい、本人は大慌てしているが、まだ使用人や教会関係者には知られていないので、できるだけ大人しく慎ましく過ごしているつもりでも、今までが今までなので、使用人の間では、「最近、聖女様は体調がすぐれないみたい」と噂されている。

 今までは、少しでも気に入らないことがあれば、使用人の顔や頭を狙って、花瓶や刃物を投げつけていたのだ。

 使用人の中では、大けがを負い、教会から出て行かざるを得ない者までいる。聖女様が荒れ始めると、もう誰も手が付けられなくなるほど狂暴な姿に、「本当に聖女様か?」と疑いを持つ者もいるほどだ。

 そんな被害者たちに治癒魔法を施すわけでもなく、平然と追い打ちをかけるように罵ることは日常茶飯事のこと。

「平民の分際で、生意気だからよ!天罰が当たって、当然のことよ」

 自分は聖女様だから、この世界で一番偉い存在だと本気で信じているようで、その時点で、すでに聖女様の資質を疑われても仕方がないというのに、両親から甘やかされ、溺愛されて育った小娘は、どれほどの人間を傷つけバカにしてきたか、数えられない。

 それと言うのも、長女のステファニーに目に見えるほどの異能が出現していなかったせいでもあるが、そのステファニーに対しても、「あんなの姉でも何でもない」と言い放っていたのだから、なす術がない。

 他の弟たちも然り。弟二人も、ステファニーを姉として敬わないどころか、バカにし、蔑み、悪態の限りをステファニーにぶつけてきた。

 ステファニーはどんなにひどいことをされても言われても、弟たちを叱ったり、責めたりはしない。それを弟たちは、「バカで能なしだから」の一言ですべて片付けていたのだ。

 剣聖と呼ばれた弟は、剣を握ると今までは、どこからともなく自然とオーラが湧き出て、己の剣にそのオーラが纏わりつく感覚があったのに、ステファニーが家出してからというもの、一切オーラを感じ取れなくなり、でも、それが疲れのせいだと大して、気にもしていなかった。

 学園で模擬試合を見せるとき、マナがすっからかんになっていることを初めて気づき、その日の模擬試合を棄権する羽目になったのだ。それでも、ただのスランプぐらいにしか考えていなかったようで、帰宅途中に上級生から、生意気だとコテンパンにやられ、半殺しの状態に陥ってしまった。誰も、治癒魔法をかけてくれるものがいなかったため、この1週間、ずっとベッドの中で過ごし、姉のステファニーが家出したことに気づかないでいたのだ。

 賢者と呼ばれている弟は、今まで本をめくると自然と、最後まで読まなくても、その本に書かれている内容がわかり、すぐに覚えられていたのに、ステファニーが家出した途端に、何を読んでも、頭に入らない日々が続いている。それどころか以前、読んだはずの本の内容まで、すべて忘れてしまっていて、自分が付けていたノートや日記帳の文字も判読できなくなっていく。

 これも単なる疲労の蓄積のせいだと勝手に決めつけ、そのうち治るだろうと放置していたのだが、最近、家族の顔もよくわからないほど、物覚えが極端に悪くなっていく。そして、外出すると、元来た道がわからず、迷子になることもしばしば現れ、まるでアルツハイマー型認知症のような状態に陥ってしまっている。それでも、家族や他の貴族令息から賢者と呼ばれることに心苦しいが、なんとかそれに耐えているものの、いつまで平静を装っていられるのか、正直なところ不安と恐怖に苛まれている。
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