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現世:カフェレストラン

11.愛馬サファイア

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 ステファニーは、愛馬とお別れするため厩舎に向かうと、愛馬はいとも悲しげに、カラダをステファニーにこすりつけてくる。

「ごめんなさい。アナタは連れて行けないのよ」

「行かないで、僕も連れて行ってよ」

 その時、なぜか愛馬の声が聞こえた気がした。これはきっとアレだ。異世界転生をしたものにもらえるチートスキルというものに違いない。

 でも、今まで聞こえなかった愛馬の声が急に聞こえるようになったということは、もしかするとこれが異能なのかもしれないが、こんな異能、特に役立つというわけでもないから、お父様に言っても、きっと一笑に付されるだけに違いないだろうなと思う。

 愛馬を抱きしめるように言い聞かせ、厩舎を出て行こうとしたら、なぜか他の馬たちのおしゃべりも聞こえるようになった。

 他の馬たちも、口々に「女神さまと共に行く」とか、言っているんだけど、女神さまって誰よ?聖女様なら妹のスザンヌが聖女様だけど、あの娘はもうここにいないのに。……変ね。首をかしげるも答えは出てこない。考えても結論が出ないことはいつまでも考えないようにしている。時間の無駄だからね。これは、前世の愛理の癖でもある。

 個々の馬を全員、自由に解き放つことはできるかもしれないけど、そんなことをしたら馬ドロボーの汚名を着せられてしまうからしない。

 だから、たとえ愛馬といえども、公爵家の持ち物に違いはないので、置いておくことにしたと説明をしたら、厩舎の馬たちは、納得してくれたのだ。

 夜が白ばみ始めてきたので、急ぎ、エストロゲン家から離れることにしたのだ。

 大きな荷物を抱えた女の二人連れは、少々危ない。さっきから誰かが物陰から見ていることに気づいている。いくら歩を速めたところで、付かず離れずの位置から品定めをするかのような視線をステファニーとユリアに送っている。

「ねえ、ユリア気づいている?」

「はい。さっきからずっとつけられていますね」

「人攫いかもしれないわね。どうしましょう」

 ステファニーは、こういう時、さっきの愛馬を連れてきたら、すぐ逃げられたのにと後悔する。でも、戦闘能力は何もないけど、戦わなければ、自分についてきてくれたユリアにまで、迷惑をかけてしまう。

 どうしようか悩んでいると、パカパカと蹄の音が聞こえてくる。それも数十棟にも及ぶ音、うーん。野盗の類が馬で襲撃してきた?

 道を空けようと、そしてなるべく目立たないようにと、軒先に入ったら、先ほどエストロゲンでお別れをしたばかりの愛馬が半馬人の姿になり、駆け付けてくれたのだ。それも厩舎にいた馬の全員が、まるでギリシャ神話に出てくるケンタウロスのごとく、上半身が人間の姿で、下半身が馬になって現れ、あっという間に人さらいかも?と恐れていた野盗の集団を一網打尽にしてしまったのだ。

 野盗は、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うが、脚が4本もある馬にはかなわない。

「ひゃぁっ!化け物!」

「アイリーン女神さま、お久しゅうございます。アナタ様が本当の名前を取り戻し、あの愚かな下等動物の元から解放されたことは実に喜ばしいことでございます。また何かございましたら、何なりとお申し付けを」

 愛馬は、元の馬の姿に戻ると、他の馬も次々、馬の姿に変わり、エストロゲンの厩舎に戻っていく。

「……」

 これは、一体どういうことでしょう?さっきから女神さまを連発されるとは……?でも、愛馬のサファイアは、確かにステファニーのことをアイリーン女神さまといった。それにあの半馬人の姿は……、サファイアもタダものではないということを示しているはずなのだけど、どうにも思い出せずにいる。

 だって、ステファニーのミドルネームを呼ばれたからといって、前世の記憶を辿っても、女神さまには行きつくところがない。

 サファイアは、お申し付けを、と言っていたけど、申し付けた覚えもない。う-ん。やっぱり、気のせいということにしておこう。

 それとも、眠すぎて、半分夢を見ていたに過ぎないのかも?どこかでゆっくり休みたいわ。

 ユリアはステファニーの疲労度を知ってか知らずか、ユリアの実家がある子爵家のタウンハウスにひとまずステファニーを案内することにしたのだ。
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