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世界へ

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 俺はラブジルについてからは、精力的にサッカーもキーハンターもこなした。あの美人の色っぽいメリッサ女神様に褒めてほしくて。

 その結果、家族にそっぽを向かれる羽目に。

 子供が休みの日、どこかへ行きたがっていても、休みの日はたいていサッカーの試合があるから「行けない。」と断ってばかりいたからである。

 それで家ごと家出されるって、マジか?

 俺はニッポンへ戻り、心当たりを探すも見つからない。

 仕方なく元から建っていた洋館を出し、しばらくここで寝泊まりするつもりでいる。

 羊羹の床をとことん磨き上げ、畳を敷き詰めたら、案外イケル。

 俺は一人暮らしが長かったし、軍での経験もあるから、ほとんどの家事はできるが、今まではまりあに残してやっていただけなんだ。

 まりあが自分の存在意義がわからなくなると困るから。

 上等じゃねぇか!そっちがその気なら、こっちにだって覚悟はある。

 俺たちは結婚してから初めて、いや付き合いだしてから初めての喧嘩をした。一言も言わず、書置きもなしで、勝手に出て行ったんだから、もう金輪際この家には入れてやらない!

 あのニッポン家屋だって、俺がオーナーに気に入られて、下賜されたものを……、まぁ、息子が使う分ならいいけどさ。慰謝料代わりにくれてやるさ。

 俺は長男の大吉が通っているニッポン人学校に問い合わせるも、家出してから一度も通学していないらしい。

 俺はサッカーが終わるとまっすぐ帰宅せずに仲間たちと飲み歩くようになり、久しぶりの独身を謳歌していた。帰れば、あの洋館の和室のベッドに倒れ込むだけの生活が続く。

 そんなある夜のこと、いつものように酔いつぶれて、自宅のベッドへダイヴした後、妙な感覚にとらわれる。なぜか空間が歪んで見える。

 これは少々飲み過ぎたか、と思い俺は立ち上がり洗面所で顔を洗おうと、ふと鏡を見るとそこに大吉の姿が!

 今にも泣き出しそうな大吉の顔に

 「どうした?大吉!」

 「パパ、助けて……。ママが……、ママが……。大安も……。」

 「泣くな!男だろ!」

 安心したのか大吉は俺の腕の中で泣きじゃくった。

 大吉の話によれば、家出したとされる日、まりあは子供たちを連れ、ニッポンのユニバーサルドリームランドへ。正式に出国していないから、泊まる家がないと困るということから、後で俺に言って、合流すればいいと思い、ニッポン家屋を持って行ったそうだ。

 ユニバーサルドリームランドとは、映画のスタジオを再現し、セットの中で遊べる遊園地で、ニッポンでは老若男女を問わず人気がある。

 そこの魔王の館というところへ入ると他の客はいつの間にか消えていて、自分たちだけになり、そこで急に電気が消え、気が付けば館ごと異世界へ娼館?拉致?されていたとか。

 まりあの首には魔法封じの枷?首輪のようなものが嵌められ、両手両足も自由が利かない状態にされているという。

 その召喚された場所には、場所そのものに結界?らしきものが張ってあり、魔法も神通力も使えない。

 大安は、まりあに抱っこされていたから、召喚されたとき、時空の隙間に落っこちてしまって行方不明になっているらしい。

 大吉は、隙を見て逃げ出したらしいが、ラブジルへの帰り道がわからず俺に会いたいという記憶だけで、やっと帰ってこれたというわけ。

 それに時空のはざまに落ちた大安を探すため、あちこち寄ったみたいだった。

 そう子供たちには、まだ自分たちが特殊だということを教えていなかった俺のせいだ。

 俺はとりあえず酔いを醒まし、それからシャワーを浴び着替えてから、神界へ赴き情報収集をする。

 神界では、まりあが攫われたことに気づいていなかったようだ。

 そういえば、聖女様の存在が薄くなっていると後からわかった程度で、これまでは聖女の気配が薄くなることは度々あったので、気にも留めていなかったらしい。

 それは俺と愛し合っているとき、子供を出産しているときなどがそうであったらしく、今度もきっとそうなのだろうと思っていたみたいだ。

 大吉の話では、異世界へ連れていかれたかということだったので、異世界の神へ話を聞きに行くが、まりあは来ていないという。

 ということは催眠術の類か?

 それなら大安はどこだ?

 とにかく家へ戻り、大吉と共に事件現場へ行くことにする。

 ニッポンのユニバーサルドリームランドは、混雑していて、どこまかしこも並ばずに入れるアトラクションはひとつもない。

 そしてまりあが行方不明になった魔王の館は何処にも存在していないことに気づく。

 「確かにここにあったんだよ。」

 大吉は嘘を吐いていないと必死になって、説明するものの、そこにはキャンディハウスという別の建物が建っているだけ。

 「とにかく中へ入ってみよう。」

 大吉を促し、中に入ると、女性客と子供で一杯だった。すこし気恥ずかしいが我慢する。

 「ここに魔法陣が書かれてあったんだよ。」

 大吉が指さす床を探索力で透視すると、床下に大安が倒れていることがわかる。ということは、やはりこの場が犯行現場で間違いないようだ。

 俺は大安に、後から迎えに行くからそこで待っているようにと、テレパシーを送る。

 大安は動けないカラダのように見えたが、コクリと頷いていることがわかる。

 そのまま夜になるまで待つことにしたのだ。俺は、大吉にキャンディを買ってやり、大吉にも隠蔽力をかけてやる。これで俺たちは透明人間になったのだ。

 館内に蛍の光が流れ、閉園のメッセージが流れる。

 キャンディの販売をしていた店員も片づけ始め、客がいなくなったことを確認して、電気を消して出て行った。おれは光力で床を照らし、大安の具合を確かめる。

 大安は床と地面との間にかろうじてある空間の中にいて、身動きが取れないようだ。

 建物全体に浮遊力をかけそれで浮かせて、助け出すことも考えたが、目立つ。

 そこで俺は床をめくって、助け出すことにしたのだ。

 息子たちの神通力はまだまだ、パワーが不足している。

 なんでもギフトで重機を買うほどのこともない大安がいる近くの床を少しめくって助け出した。

 「パパ……、ごめんなさい。お仕事で忙しいのにパパが助けに来てくれて。でもママが攫われちゃって。」

 大安はグスグスと鼻水をすすりながら、俺にしがみついてくる。きっと心細かったか?

 「いいんだ。気にするな。あいつはあれでも聖女様なんだから、自分の身ぐらい自分で守れるはずだ。」

 俺は弱っている大安をおんぶして、大吉の手を握り、転移で懐かしい我が家へ帰る。

 「今夜はパパがメシを作るぞ。何が食べたい?」

 「ええー!パパ、料理できるの?」

 「当たり前だっつうの。ママには内緒だぞ。」

 俺はありあわせの材料でハンバーグを作り、子供たちの前へ出す。

 息子は恐る恐るハンバーグを口にした次の瞬間、みるみる顔色が良くなっていく。

 「うまい!」

 とほど腹が空いていたのか、その後は黙ったままでパクパクと口に入れていく。

 「ママとは味付けが違うけど、僕、パパのハンバーグのほうが好きだよ。」

 ハンバーグなど、力仕事は男のほうが上手に決まっているだろ?

 食後、片づけをしてから、子供と一緒にお風呂へ入り、寝かしつけをするがなかなかうまくいかない。

 二人とも今日の出来事が衝撃的であったのか、俺のパジャマを掴んだまま放そうとしないから、一緒に添い寝をすることにしたのだが、子供より先に俺が爆睡してしまい、気づいたら朝になっていた。

 俺は3人分の弁当を作り、朝食後、チームに行く前に、女神ステファニーのところへ寄る。

 子供を見てもらうためで、そのためのお礼の弁当を持ってきた。

 「キャッシーも大変ね。でもあの娘は大丈夫よ。でも変ね。あの娘、いつも自分に結界を張っている癖にその時は結界を取っていたのかしらね?」

 言われてみればその通りで、いくら魔法封じの枷を嵌められたからと言っても、その前に結界がその枷を弾くはず。

 それをすんなり嵌められるなど、まりあとも思えない。

 それとも子供を人質に取られたと思い込み、子供を盾に殺すぞとでも脅されたか?

 俺はその日、アモーレを休み、再びニッポンへ。昨日何か手掛かりを見落としているかも?と思い、再びキャンディハウスへ行くと、そこにはキャンディハウスではなくバルーンドリームという館が建っていたのだ。

 昨夜、帰るまでは確かにキャンディハウスだったのが、わずか数時間でもう別の建物に衣替えしている。

 でも外観だけが変わっただけで、中に入ってみると同じだった。ということは?

 俺は裏口へ回り、そこから覗くと……まりあが手錠を繋がれたまま寝転がらされていた。衣服に乱れがないようなので、乱暴はされていないようだ。

 俺は隠蔽をかけ、中に入り、まりあを抱きかかえ、そのままラブジルへと飛ぶ。

 洋館建ての2階の部屋に降ろし、手錠を外し、頬をペチペチと叩く。

 まりあは薄っすら目を開けると、俺だということがわかり急に俺の胸に飛び込んで泣きじゃくる。

 しばらく泣かせてやり、落ち着いたらお茶を勧める。

 まりあは、そのお茶を一気飲みして、

 「子供たちは?無事?子供を殺すぞと言われて……、大輔君ごめんなさい。勝手なことをして家まで持って行って。」

 「ああ、大吉は自力でここまで帰ってきたよ。それで昨日は仕事を休んで、大安を迎えに行った。あの建物の床下と地面との間のわずかな隙間に身を潜めていたのさ。今日は二人ともステファニーのところへ預けてきた。もういいよ。済んだことさ。」

 何も済んでなどいない。

 俺はまりあの頭を撫でながら、考えていた。いったい誰が何のために?

 「ステファニー様のところなら安心ですわ。」

 なぜかまりあは俺に唇を付き出している。

 ん?なんだ?

 「久しぶりなんですもの……、抱いて。」

 「ハァ?」

 な、何言っている?頭がおかしいのか?この女は、性欲しかないのか?

 まりあはいつの間にか、俺のズボンのチャックを下ろし、中から俺自身を引っ張り出し、もう扱いている。

 「大輔君もしばらくぶりのようで、安心したわ。大輔君とヤらないと、魔力が枯渇してしまうことがよくわかったの。だからぁ、ね。」

 最近は、ヤろうとすると子供たちがウロチョロして、出来なかったことは事実だ。

 幸い、今日はステファニーのところへ預けているから、しばらくは時間がある。いやいや仕事に行かなければ……、でも押し寄せる快感に身動きが取れない。

 迷っている間に、まりあは俺を押し倒し、上に乗ってきた軽妙な腰の動きに俺は自制心を失う。

 気が付けば、組んず解れず、俺が上になったり、まりあが上になったり、対面に、仰臥位、側臥位、バックからと新婚以来の体位に夢中になってしまった。

 まりあは魔力が回復したと喜んでいるが、俺はもうヘトヘトで……、これからは何でもギフトでオモチャを買って渡してやろうかと思う。

 でもそれをまりあは嫌がる。

 「大輔君のでないと、意味がない!」

 その日から俺は寝させてもらえない夜が続く。
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