上 下
36 / 40
世界へ

36

しおりを挟む
 俺はラブジルについてからは、精力的にサッカーもキーハンターもこなした。あの美人の色っぽいメリッサ女神様に褒めてほしくて。

 その結果、家族にそっぽを向かれる羽目に。

 子供が休みの日、どこかへ行きたがっていても、休みの日はたいていサッカーの試合があるから「行けない。」と断ってばかりいたからである。

 それで家ごと家出されるって、マジか?

 俺はニッポンへ戻り、心当たりを探すも見つからない。

 仕方なく元から建っていた洋館を出し、しばらくここで寝泊まりするつもりでいる。

 羊羹の床をとことん磨き上げ、畳を敷き詰めたら、案外イケル。

 俺は一人暮らしが長かったし、軍での経験もあるから、ほとんどの家事はできるが、今まではまりあに残してやっていただけなんだ。

 まりあが自分の存在意義がわからなくなると困るから。

 上等じゃねぇか!そっちがその気なら、こっちにだって覚悟はある。

 俺たちは結婚してから初めて、いや付き合いだしてから初めての喧嘩をした。一言も言わず、書置きもなしで、勝手に出て行ったんだから、もう金輪際この家には入れてやらない!

 あのニッポン家屋だって、俺がオーナーに気に入られて、下賜されたものを……、まぁ、息子が使う分ならいいけどさ。慰謝料代わりにくれてやるさ。

 俺は長男の大吉が通っているニッポン人学校に問い合わせるも、家出してから一度も通学していないらしい。

 俺はサッカーが終わるとまっすぐ帰宅せずに仲間たちと飲み歩くようになり、久しぶりの独身を謳歌していた。帰れば、あの洋館の和室のベッドに倒れ込むだけの生活が続く。

 そんなある夜のこと、いつものように酔いつぶれて、自宅のベッドへダイヴした後、妙な感覚にとらわれる。なぜか空間が歪んで見える。

 これは少々飲み過ぎたか、と思い俺は立ち上がり洗面所で顔を洗おうと、ふと鏡を見るとそこに大吉の姿が!

 今にも泣き出しそうな大吉の顔に

 「どうした?大吉!」

 「パパ、助けて……。ママが……、ママが……。大安も……。」

 「泣くな!男だろ!」

 安心したのか大吉は俺の腕の中で泣きじゃくった。

 大吉の話によれば、家出したとされる日、まりあは子供たちを連れ、ニッポンのユニバーサルドリームランドへ。正式に出国していないから、泊まる家がないと困るということから、後で俺に言って、合流すればいいと思い、ニッポン家屋を持って行ったそうだ。

 ユニバーサルドリームランドとは、映画のスタジオを再現し、セットの中で遊べる遊園地で、ニッポンでは老若男女を問わず人気がある。

 そこの魔王の館というところへ入ると他の客はいつの間にか消えていて、自分たちだけになり、そこで急に電気が消え、気が付けば館ごと異世界へ娼館?拉致?されていたとか。

 まりあの首には魔法封じの枷?首輪のようなものが嵌められ、両手両足も自由が利かない状態にされているという。

 その召喚された場所には、場所そのものに結界?らしきものが張ってあり、魔法も神通力も使えない。

 大安は、まりあに抱っこされていたから、召喚されたとき、時空の隙間に落っこちてしまって行方不明になっているらしい。

 大吉は、隙を見て逃げ出したらしいが、ラブジルへの帰り道がわからず俺に会いたいという記憶だけで、やっと帰ってこれたというわけ。

 それに時空のはざまに落ちた大安を探すため、あちこち寄ったみたいだった。

 そう子供たちには、まだ自分たちが特殊だということを教えていなかった俺のせいだ。

 俺はとりあえず酔いを醒まし、それからシャワーを浴び着替えてから、神界へ赴き情報収集をする。

 神界では、まりあが攫われたことに気づいていなかったようだ。

 そういえば、聖女様の存在が薄くなっていると後からわかった程度で、これまでは聖女の気配が薄くなることは度々あったので、気にも留めていなかったらしい。

 それは俺と愛し合っているとき、子供を出産しているときなどがそうであったらしく、今度もきっとそうなのだろうと思っていたみたいだ。

 大吉の話では、異世界へ連れていかれたかということだったので、異世界の神へ話を聞きに行くが、まりあは来ていないという。

 ということは催眠術の類か?

 それなら大安はどこだ?

 とにかく家へ戻り、大吉と共に事件現場へ行くことにする。

 ニッポンのユニバーサルドリームランドは、混雑していて、どこまかしこも並ばずに入れるアトラクションはひとつもない。

 そしてまりあが行方不明になった魔王の館は何処にも存在していないことに気づく。

 「確かにここにあったんだよ。」

 大吉は嘘を吐いていないと必死になって、説明するものの、そこにはキャンディハウスという別の建物が建っているだけ。

 「とにかく中へ入ってみよう。」

 大吉を促し、中に入ると、女性客と子供で一杯だった。すこし気恥ずかしいが我慢する。

 「ここに魔法陣が書かれてあったんだよ。」

 大吉が指さす床を探索力で透視すると、床下に大安が倒れていることがわかる。ということは、やはりこの場が犯行現場で間違いないようだ。

 俺は大安に、後から迎えに行くからそこで待っているようにと、テレパシーを送る。

 大安は動けないカラダのように見えたが、コクリと頷いていることがわかる。

 そのまま夜になるまで待つことにしたのだ。俺は、大吉にキャンディを買ってやり、大吉にも隠蔽力をかけてやる。これで俺たちは透明人間になったのだ。

 館内に蛍の光が流れ、閉園のメッセージが流れる。

 キャンディの販売をしていた店員も片づけ始め、客がいなくなったことを確認して、電気を消して出て行った。おれは光力で床を照らし、大安の具合を確かめる。

 大安は床と地面との間にかろうじてある空間の中にいて、身動きが取れないようだ。

 建物全体に浮遊力をかけそれで浮かせて、助け出すことも考えたが、目立つ。

 そこで俺は床をめくって、助け出すことにしたのだ。

 息子たちの神通力はまだまだ、パワーが不足している。

 なんでもギフトで重機を買うほどのこともない大安がいる近くの床を少しめくって助け出した。

 「パパ……、ごめんなさい。お仕事で忙しいのにパパが助けに来てくれて。でもママが攫われちゃって。」

 大安はグスグスと鼻水をすすりながら、俺にしがみついてくる。きっと心細かったか?

 「いいんだ。気にするな。あいつはあれでも聖女様なんだから、自分の身ぐらい自分で守れるはずだ。」

 俺は弱っている大安をおんぶして、大吉の手を握り、転移で懐かしい我が家へ帰る。

 「今夜はパパがメシを作るぞ。何が食べたい?」

 「ええー!パパ、料理できるの?」

 「当たり前だっつうの。ママには内緒だぞ。」

 俺はありあわせの材料でハンバーグを作り、子供たちの前へ出す。

 息子は恐る恐るハンバーグを口にした次の瞬間、みるみる顔色が良くなっていく。

 「うまい!」

 とほど腹が空いていたのか、その後は黙ったままでパクパクと口に入れていく。

 「ママとは味付けが違うけど、僕、パパのハンバーグのほうが好きだよ。」

 ハンバーグなど、力仕事は男のほうが上手に決まっているだろ?

 食後、片づけをしてから、子供と一緒にお風呂へ入り、寝かしつけをするがなかなかうまくいかない。

 二人とも今日の出来事が衝撃的であったのか、俺のパジャマを掴んだまま放そうとしないから、一緒に添い寝をすることにしたのだが、子供より先に俺が爆睡してしまい、気づいたら朝になっていた。

 俺は3人分の弁当を作り、朝食後、チームに行く前に、女神ステファニーのところへ寄る。

 子供を見てもらうためで、そのためのお礼の弁当を持ってきた。

 「キャッシーも大変ね。でもあの娘は大丈夫よ。でも変ね。あの娘、いつも自分に結界を張っている癖にその時は結界を取っていたのかしらね?」

 言われてみればその通りで、いくら魔法封じの枷を嵌められたからと言っても、その前に結界がその枷を弾くはず。

 それをすんなり嵌められるなど、まりあとも思えない。

 それとも子供を人質に取られたと思い込み、子供を盾に殺すぞとでも脅されたか?

 俺はその日、アモーレを休み、再びニッポンへ。昨日何か手掛かりを見落としているかも?と思い、再びキャンディハウスへ行くと、そこにはキャンディハウスではなくバルーンドリームという館が建っていたのだ。

 昨夜、帰るまでは確かにキャンディハウスだったのが、わずか数時間でもう別の建物に衣替えしている。

 でも外観だけが変わっただけで、中に入ってみると同じだった。ということは?

 俺は裏口へ回り、そこから覗くと……まりあが手錠を繋がれたまま寝転がらされていた。衣服に乱れがないようなので、乱暴はされていないようだ。

 俺は隠蔽をかけ、中に入り、まりあを抱きかかえ、そのままラブジルへと飛ぶ。

 洋館建ての2階の部屋に降ろし、手錠を外し、頬をペチペチと叩く。

 まりあは薄っすら目を開けると、俺だということがわかり急に俺の胸に飛び込んで泣きじゃくる。

 しばらく泣かせてやり、落ち着いたらお茶を勧める。

 まりあは、そのお茶を一気飲みして、

 「子供たちは?無事?子供を殺すぞと言われて……、大輔君ごめんなさい。勝手なことをして家まで持って行って。」

 「ああ、大吉は自力でここまで帰ってきたよ。それで昨日は仕事を休んで、大安を迎えに行った。あの建物の床下と地面との間のわずかな隙間に身を潜めていたのさ。今日は二人ともステファニーのところへ預けてきた。もういいよ。済んだことさ。」

 何も済んでなどいない。

 俺はまりあの頭を撫でながら、考えていた。いったい誰が何のために?

 「ステファニー様のところなら安心ですわ。」

 なぜかまりあは俺に唇を付き出している。

 ん?なんだ?

 「久しぶりなんですもの……、抱いて。」

 「ハァ?」

 な、何言っている?頭がおかしいのか?この女は、性欲しかないのか?

 まりあはいつの間にか、俺のズボンのチャックを下ろし、中から俺自身を引っ張り出し、もう扱いている。

 「大輔君もしばらくぶりのようで、安心したわ。大輔君とヤらないと、魔力が枯渇してしまうことがよくわかったの。だからぁ、ね。」

 最近は、ヤろうとすると子供たちがウロチョロして、出来なかったことは事実だ。

 幸い、今日はステファニーのところへ預けているから、しばらくは時間がある。いやいや仕事に行かなければ……、でも押し寄せる快感に身動きが取れない。

 迷っている間に、まりあは俺を押し倒し、上に乗ってきた軽妙な腰の動きに俺は自制心を失う。

 気が付けば、組んず解れず、俺が上になったり、まりあが上になったり、対面に、仰臥位、側臥位、バックからと新婚以来の体位に夢中になってしまった。

 まりあは魔力が回復したと喜んでいるが、俺はもうヘトヘトで……、これからは何でもギフトでオモチャを買って渡してやろうかと思う。

 でもそれをまりあは嫌がる。

 「大輔君のでないと、意味がない!」

 その日から俺は寝させてもらえない夜が続く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

烙印騎士と四十四番目の神

赤星 治
ファンタジー
生前、神官の策に嵌り王命で処刑された第三騎士団長・ジェイク=シュバルトは、意図せず転生してしまう。 ジェイクを転生させた女神・ベルメアから、神昇格試練の話を聞かされるのだが、理解の追いつかない状況でベルメアが絶望してしまう蛮行を繰り広げる。 神官への恨みを晴らす事を目的とするジェイクと、試練達成を決意するベルメア。 一人と一柱の前途多難、堅忍不抜の物語。 【【低閲覧数覚悟の報告!!!】】 本作は、異世界転生ものではありますが、 ・転生先で順風満帆ライフ ・楽々難所攻略 ・主人公ハーレム展開 ・序盤から最強設定 ・RPGで登場する定番モンスターはいない  といった上記の異世界転生モノ設定はございませんのでご了承ください。 ※【訂正】二週間に数話投稿に変更致しましたm(_ _)m

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

処理中です...