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 シトロエンチームでの最初の仕事は、なんと!サイン会、握手会だったのだ。

 俺はこんなことをするためにプロのチームに入ったわけじゃない!と憤慨していると、

 「サインするとき、握手するときに少しだけ神通力を流せばうまくいくわよ。」

 愛する妻が教えてくれたので、言う通りにしてみたら

 女性ファンはモジモジして顔を赤らめる。

 男性ファンは力が漲っているように見える。

 子供は???なぜだかいつも嬉しそうにする。

 よくわからんが、みんなが喜んでいてくれるみたいだから、よしとする。

 握手会は7日間に行われ、延べ10万人が来場したことをシトロエンは快く思い、さらに追加で3日間実施されることになってしまったのだ。

 そのうち来場者から奇妙な噂が広がる。

 その噂は、俺のサインや握手が軽微な病気を治すという噂。持っているだけで運気が多少上がるという噂。

 新型ウィルスで倒産寸前、一家心中の前に大好きなシトロエンのサイン会があるというので、死ぬ前に家族で訪れたところ、宝くじの1等賞が当たり、倒産を免れる。という噂がまことしやかに流れる。

 え?俺って、治癒力、回復力も神通力に備わっていたっけ?運気のほうは考えられなくもない。そういえば、ひどく暗い目をした親子が俺のサイン会に来たことを覚えている。

 そうか、あの親子が1等賞を当てたか、それは良かったと思う。

 それで追加されたサイン会の3日間は、車いすに乗った人がたくさん来られる。聞けばギックリ腰で、医者から見放されたという。

 俺はいつもまりあがやっていることを見よう見まねで真似して、患者さん?の
カラダに触れず、手をかざしてみた。なぜそうしたかというと相手が老婆でも女性だったからで、妊娠した!セクハラ!と騒がれては困るから。

 患者さんの痛がっているところは、掌がピリピリと痺れる。

 ああ、ここか?と言う所に力を込め、神通力を流してみたところ、

 「痛みが消えていく!ありがとうございます。」

 その女性は車いすから立ち上がり、お礼を言う。

 見ていた他の来場者は、自分も自分もと我先に……、それまではきちんと列をなしていたのに、押し合いへし合いの状態になる。

 主催者側は、危険だからと選手が怪我をしては叶わないという理由で、中止をしてしまう。

 俺は背中を押され、控室に戻る。

 主催者側が中止をしたのには、訳があった。それはシトロエンのオーナーが不治の病にかかり明日をも知れぬ重体だったから、もし大輔の力が本物でも偽物でも藁をもすがる気持ちで、治療させたいと思ったから。

 でも医師法違反になるのでは?

 手をかざしただけなら、患者のカラダに触れてはいないので医師法には抵触しないらしい。

 とりあえず並んでいる人には整理券を配り、次、開催したときは優先的にするということを条件にお引き取りを願う。

 俺は訳が分からないまま、ワゴン車に乗せられ、オーナー宅へ向かう。

 オーナー宅は日本家屋で、広い庭に鹿威しがある風情漂う家だった。オーナーが寝ている和室に通され、おれは人払いをする。

 「精神を集中するため」、と言えばすぐみんな出て行ってくれた。

 できもの、おそらく癌だと思うが、身体中に転移していて、かろうじて心臓だけが動いている状態であったのだ。

 俺は転移魔法でまりあの職場に飛ぶ。同じチームの職場だが、あちらはほとんど調理室に籠っているから、めったに会えない。

 まりあは、驚いて俺を見つめるが、すぐに状況を察してくれて、俺と共にオーナー宅へ来てくれ、一緒に治癒魔法を使ってくれる。

 一刻を争うかもしれない虫の息で、呼吸していることが不思議というぐらい衰弱しきっていたからだ。俺一人でもできるかもしれないが、もうここまできたらいつ死んでもおかしくない。だから助っ人として我が妻を呼んだのだ。

 オーナーは長い白髭を生やしたおじいさんで、若い頃靴磨きから財を一代で築き上げた苦労人。

 本来、隠蔽をかけているまりあの姿が見えないはずなのに、まりあを聖女様呼びし、さらに俺のことも聖徳太子様と呼び、両手を合わせる。

 抗がん剤でも効かなかったカラダに神通力を流すと少し顔色が良くなり、やがて癌は消滅する。

 オーナーは、たいそう喜ばれ、その力をどこで入手したかをしつこく聞きただす。

 仕方なく俺は、「神様から与えられた力です。」と正直に話すと、これまた破顔して手を叩いて

 「そうじゃろう。そうじゃろう。儂もそう思ったわ。」

 ふすまの外でオーナーの笑い声や話し声が聞こえたからと言って、そっと家人がふすまを開け、オーナーの元気そうな姿に驚く。

 シトロエンの事務局が呼ばれ、褒美として俺に、この家屋敷、土地を含めてすべて譲渡するとの契約が交わされることになったのだ。

 え?こんな立派なモノもらっちゃって、本当にいいの?

 オーナーは笑いながら「15億円もしないぞ。」
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