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大学時代

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 東都大学のサッカー部の連中があおり運転で、選手生命を絶たれるほどの大けがをしたのは、つい先週のこと。

 そして昨日も、オートバイを走らせている仲間があおり運転で亡くなってしまった。セダンを運転していた男は、そう年齢的に変わらない。

 10分間4kmに及ぶあおりの上、フェンスに激突して死亡してしまったのだ。

 警察は危険運転致死罪で逮捕し、殺人罪で起訴することになった男は、自身の車にドライブレコーダーを装備していたが、データが現場周辺で遺棄されているものが見つかる。

 本人からの自白が得られず、このままでは無罪を勝ち取られそうな勢いだそうだ。

 それで検察は訴因を変更しようかどうしようか思案中らしい。未必の故意ということではダメなのか?と思う。

 そこで大輔君の登場なのだ。大輔君が煽られて選手生命を絶たれるほどの大けがをした人、亡くなってしまった人に化けて、夜な夜な犯人の夢枕に立つ。

 最初は、強気だった犯人も、大輔君の「うらめしや~」が効果を奏し、次第に自供していく。

 検察も警察もなぜ?と思うぐらいスムーズな自供が取れる。ただ夜中に留置場や拘置所を覗くと犯人の独房から奇妙な声?が聞こえるらしい。

 突発的にカっとして犯行に及んでしまう、ほとんど精神疾患が原因であるものが大半らしい。

 罪を認めるが、心神耗弱で一生刑務所ではなく精神病院暮らしになるのだ。

 でも世の中には、狙って煽りをした奴もいる。これは確信犯だから、そう簡単に自供はしない。

 どこの誰かもわからない人に煽って、殺して何が楽しいのか?

 どこの誰かわからない見ず知らずの人間ならまだいい方で、最初から殺すことを目的として煽る奴もいる。

 それと自分のストレス発散のために、前を運転している人間が若い女性の場合、さんざん煽って怖がらせておいて、後からクビになる場合がある。自分の会社の社長令嬢を煽ったからだ。また取引相手の社長令嬢の場合もある。これは本当にあった話。

 さて、殺し目的で煽った場合、その後は知らぬ存ぜぬで黙秘する。

 委託殺人の場合がある。

 頑として口を割らない被疑者。ここは夢作戦にしよう。

 大輔君が化けて夢枕に立つのではない。

 潜在意識を少し刺激するだけ。

 被疑者に殺人を依頼した人物から高速道路で、煽られる夢を何度も見せる。

 「てめぇはもう用済みなんだよ。余計なことを喋られる前にこうしてやる。」

 実際は、後ろを走っている車の会話など聞こえないものだが、『夢』だから聞こえる。

 そして依頼者が後ろの車から降りてきて、金属バットでフロントガラスをたたき割る。

 この夢を何度もループさせて見せる。すると夢の中で起こった出来事が本当にあったことのように思えてくる。

 やがて夢を見ながら「ふざけんじゃねぇ!」と叫び出す。

 次の日は取調室でメモを取るだけ、効かれもしないことをベラベラ喋ってくれる。

 そして、今回も無事任務は完了。
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