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大学時代

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 安林大輔は、今日も今日とて、サッカー部の練習が終わるとロッカールームからまっすぐ帰宅しようとしているとき、突如、耳の奥で「助けてくれー!」の声を聞く。

 この声は確か、743番目にいじめられっ子のカラダに転移したときの親父さんの声に違いない!

 いったい、何があったというのだろうか?

 すぐさま、隠蔽をかけ転移魔法で声の主の元へ急ぐ。ユニフォームは着たままだが、そんなこと構っていられない。

 駆けつけた場所は、どこか倉庫の中のようだ。親父さんの顔を見て、その時のいじめられっ子の名前を思い出した。矢部大地、いじめっ子グループに連れられ、ハイキングに行ったとき滝つぼに突き落とされ、死亡したのだ。

 アンリはその時、目には目を、歯には歯を。の例に従い、不良グループを全員ボコボコにしたうえで、1人ずつ滝つぼに向かって投げ落としたのだ。中には死んだ奴もいる。

 親父さんの顔を見ると殴られたような大きな痣があり、両手両足は縛られたまま、寝転がらされている。

 ヤクザと思われる男たちが何人もいて、

「株で損をさせられたのに、賠償してくれないから、このまま生きたまま山に埋めてやろうか?それとも、海の底に沈みたいか?」

 そういえば、矢部の親父さんは、中小の証券会社の営業マンだったように記憶している。

 大手の証券会社みたいに、反社会的勢力に損失補填し、うまく儲けられるように相場を操作してヤクザのご機嫌取りをするような余裕は中小にはない。

 たいていは秩父の山奥、山陰の山奥に埋める。まず死体が出てこないからだ。海に重りを付けて沈めるとなんかした拍子に浮き上がってきて、底引き網に引っかかり、すぐ露見してしまうから。

 海に沈めるのは、素人のチンピラ。山に埋めるのがプロ。と言われている。

 アンリはもうまりあに知らせるには時間的に無理だろうと判断し、1人でやることにした。

 親父さんは、恐怖のためか真っ青な顔をしている。親父さんの耳元に近づき、「大地です。助けに来ました。」と言うと、親父さんは恐怖心のあまり幻聴が聞こえたと勘違いする。

 3年前に死んだはずの息子が助けに来てくれることなんて、ありえないから。

 倉庫に保管してある袋の中身は小麦粉であることがわかる。

 そこでアンリは粉塵爆発を起こさせることを思いつく、だがやはり一人では人手が足りないから、まりあに緊急連絡用のテレパシーを送る。同時に女神様にも。

 女神様はさすがに感度がいい。すぐさま浦島桃太郎神様に連絡を取り、まりあと合流してくれる。

 ヤクザは気づいていないが、倉庫に2人の半神と2人の神様がそろう。

 まりあは親父さんのところで治癒魔法と回復魔法をかけると、すっかり顔色は戻ったのだがまだ縛られたままにしている。

 縄を解いて逃げ出されたら、あっという間にヤクザに見つかり殺されてしまうから。

 準備が整ったので、小麦粉の袋に穴を開けていく。まず、倉庫を密閉にしなければならないから、途中でヤクザに逃げられないように厳重に鍵をかける。倉庫の窓も2階部分の鍵を厳重にかける。

 浦島桃太郎神様はどこから持ってきたかと思われるような機関銃を手にして、1丁をアンリに渡し、二人して撃ちまくる。女神様とまりあはそれを風魔法で小麦粉を充満させる。

 爆発する瞬間、親父さんをまりあの異空間に放り込み、それぞれ転移魔法で脱出したのだ。

 0.1秒後、すさまじい爆発音が轟く。

 周辺に住んでいる人々は、ついに赤い国がニッポンに向けて核を放ったかと思えるような爆発音であったのだ。

 矢部の親父さんは、矢部家の玄関で発見されるが、両手両足を縛られていることを除き、どこも怪我をしているところはない。

 倉庫の中から、ヤクザの死体がバラバラになって見つかったが、それと矢部の親父さんとは、何の関係もない。

 ヤクザ同士の抗争で、爆死したのだろうと処理されたのだ。

 でも親父さんは、あの時確かに息子の声を聞いた。きっと本当に息子が助けに来てくれたのかもしれないと、仏壇に手を合わせた。

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