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45.快気祝い

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 食事が終わるとシボレーを駐車場から出してきて、田園調布の自宅まで送り届けてくれた。

 両親は、目を丸くして、

 「今日はお泊りではなかったの?」

 なんか調子が狂う。

 海斗の方が記憶喪失になったような気分。以前の海斗と同じ人格だとはとても信じられない。

 やっぱり離婚しちゃおかな?

 溺愛してくれるのは気持ち悪いけど、慣れないことはしないで。と言いたい。

 要するに、まどかが慣れればいいのだけど、そう簡単にはいかない。

 つい最近まで、海斗との結婚生活を受け入れられなかったのだから。

 翌日から大地川建設へ出社を決めて、佐久間さんにその旨を伝える。

 会社内での事故だったことから、労災保険を遣わず、社長が全額、給料を立て替えて?支払ってくれていた。

 記憶を失っている間じゅうずっと、通帳の「フリコミ ダイチガワ」に疑問はあったが、もらえるものはもらっておこうと、そのままにしていたが記憶が戻ってからは、今まで以上に働かなければと思う。

 長岡さんは、翌朝9時半に田園調布の実家に迎えに来てくださりました。

 社内での会話は、いつも通り当たり障りがない会話が、心地いい。ロータリーに到着すると、これまた休職している間がなかったかのような、受付嬢がズラリと並び、声をそろえて、

 「おはようございます。若奥様。」

 今日は、佐久間さんまで出迎えてくださる。

 「お待ちしておりました。若奥様。」

 14階までエレベーターで、上がり、佐久間さんが社長室のドアをノックされる。社長は、立ち上がって、昨年の事故を詫びてくる。

 「まどかさん、すまなんだ。本来なら、倅と夫婦別れになってもおかしくなかったことなのに、訴えを取り下げてもらったうえに、秘書として復帰してくれる気になったことに感謝する。仕事は、前回と同じ。ここでの出来事すべてを記録してくれたらいい。」

 まどかは、まず初めに事故の経緯から記入することにして、ブランクの間の記載は?と伺うと「それはいい」ということになり、作業を始める。

 昼休みに社食へ行くと、総務の佳代子がお見舞いを言ってくれ、ささやかなプレゼントもくれる。

 プレゼントは花束だった。仕事復帰のお祝いとお見舞いを兼ねた花束は華やかに美しい。

 「ありがとう、嬉しいわ。」

 社食にちょうどいた社員全員が拍手をしてくれ、恥ずかしいのと嬉しいのとで、晴れがましい気分になった。

 やっぱり、お仕事に復帰してよかったと心から思う。

 佳代子の真意を知りつつ、笑顔で感謝の意を述べる、

 佳代子の真意とは、海老鯛を狙っている。まどか自身も蓬でさんざん経験してきたことだから。同僚とはいえ、上司の奥さんで、社長の一族だから、ここで媚を売っておいて損することはない。

 そのことを重々承知の上での笑顔なのだ。

 ただ困ることがあるとすれば、お返しをどうしようかと思案することだけ。花束の値段以上のものを全員にしなければいけないから。

 これが普通のOLなら、花束相当額を人数分で割って一人当たりの金額を出せば、紅茶セットなどを贈るか、菓子の詰め合わせなどにすれば、いいのだが。

 カーネーションにガーベラとカスミソウとミニローズの花束だから、そう高くはないはずなのだけど、帰りに花屋へ寄り、値段を聞いてくることにしよう。

 結局、女子社員有志に紅白ワインの詰め合わせを贈ることにしたのだが、なんせ重いから自宅に送った方がいいかどうか、佳代子に聞くことにする。

 「紅白ワインもありがたいのですけど、飲めない娘もいるから、それならカタログギフトの方がありがたいです。カタログなら自分で好きなもの選べるので。」

 ひゃぁっー!佳代子の方が一枚上手だわ。

 カタログギフトなら、あの花束どう見ても、5000円程度のものだけど、副社長令夫人が5000円のギフトしか返さないとなるとマズイ。カタログは5000円コース、1万円コース、15000円コースと別れていて、贈り主側が設定して、相手に送るので、値段がバレバレになる。

 仕方ないわ。全員に15000円コースを注文してギフト券にして渡すことにしたのだ。
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