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44.久しぶりのデート

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 ヒルトンホテルの最上階スカイレストランを予約していてくれたみたいで、嬉しい。

 席を案内されると、すでにコース料理で、ワインだけは、当日に注文するということで、今、海斗がテイスティングをしている。

 テイスティングが終わると、さっそくワイングラスに注がれる。

 まずは、乾杯ということで、グラスを合わせる。

 「カチャリ」

 「記憶が回復して、おめでとう。」

 「海斗に迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。」

 「いいよ。まどかさん、僕と結婚してくださいませんか?」

 「え?離婚が成立しているの?」

 「もう一度最初から、やり直したいのだよ。これはエンゲージリングと結婚指輪だ。左手を出して、」

 まどかの左の薬指に結婚指輪とエンゲージリングの二つを嵌めてくれる。

 時価500万円総額の指輪は、今度こその願いを込めて、輝きを放っている。

 「綺麗ね。ありがとう。」

 しばらく、まどかは指輪に見とれている。

 「結婚の承諾をもらったと解釈していいかな。」

 海斗は、微笑みながら、まどかを見る。

 「ええ。問題ないわ。」

 「新居のことだが、あのマンション以外のところを探しているけど、いいか?できれば、田園調布に住みたいと思っている。」

 ああ、それで。あのシボレーが最近、よく見かけると思ったのかと妙に納得する。

 まどかの家も田園調布にあるし、海斗のご両親も田園調布に住んでいる。実家と婚家が近いと何かとやりづらいということを心配するも、今までは、あのマンション暮らしだったから、そんなこと考えることはなかったのだ。

 「親父やおふくろが、田園調布の家を俺たち夫婦に明け渡してもいいと言っている。自分たちは、そろそろ年をとって来たから、マンション暮らしが便利だともね。」

 確かにそれは言える。都心のマンションの方がはるかに利便性はある。ホテル感覚で、部屋に鍵さえかければ、すぐに出られる。田園調布よりは、交通の便もかなりいい。近くにコンビニも、スーパーマーケットも学校も公園も医者もそろっている。

 1戸建てや豪邸は、意外と不便で用心が悪い。セキュリティ会社に頼むと言っても、警察ではないから、ただ頼んでいるだけで、実際はほとんど役立たずなのだ。泥棒が入っても、警察に通報することぐらいしかしてくれない。

 逮捕権も捜査権もないからで、しいて言えば、非常ベルが鳴ることぐらいしか用はない。それにセキュリティ会社と契約していると。かえって狙われてしまうことがある。特に外国人の犯罪者集団からは、目印となりやすい。

 でも、実家の近くに居を構えることは、まどかにとってはありがたい。

 これから子供を産み、育てるとなれば、実家が近い方が何かと便利だから。

 でも、今はそんなこと言えない。抱いてほしいと言っているようなものだから。

 このホテルに部屋をとっているのだろうか?さっき、今日は泊まれる?って聞かれたよね。それって、やっぱりアレをするため?

 抱いてほしいけど、すぐにカラダだけの関係になることは、まだ躊躇する。

 思えば、海斗との1か月半の結婚生活はセックスしかなかった。二人で何も思い出作りをしてこなかったから、記憶を失くしてしまったとき、不安になったものだ。

 できれば、次の結婚は、思い出作りが一番、セックスは二番にしてもらえないだろうか?

 海斗のことは嫌いではないが、あの異常なセックスへの執念だけはやめてもらいたい。そんなことを考えながら、食事は進んでいき、残すところデザートとコーヒーになってしまっている。

 「結婚式と新婚旅行にも行きたいと思っているのだけど、どうかな?まどかは、綺麗だからお色直しは何度でもやっていいよ。新婚旅行では、写真をいっぱい撮ろう。」

 本当に、海斗は生まれ変わろうとしてくれているのだろうか?嬉しさと困惑が交差する。
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