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36.温泉

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 まどかは、裁判が始まるまで、しばらく外国で暮らすことになった。日本にいても何も進展しないのであれば、留学していた時の国へ行った方が気分も晴れるというもの。

 まずは、ロンドン、パリ、それからニューヨークにも足を延ばすつもり。でも、今回はお母さんと一緒なの。お母さんとは、結婚前も結婚してからもロクに一緒に旅行へも行ったことがない。だから、まどかが案内する形で、外国へ行くと決めた時に、母に提案したのだ。

 母は、元AMAのキャビンアテンダントだったから、客室乗務員時代は、さんざん海外へ行ったものの、ほとんどとんぼ返りが常だから、あまり観光旅行をしたことがないらしく、今回の申し出に飛びついた。

 搭乗手続きを済ませ、ゲートに向かって歩いていく。

 「お母さん、本当はね。まどかちゃんと国内の温泉へ行きたかったわ。今まで、仕事で海外には何度も足を運んでいるからかしら、日本で、のんびり温泉に浸かる方が楽。年を取ってしまったってことなのかもしれないわね。」

 「それならキャンセルして、温泉旅行へ行きましょうよ。日本中の温泉を回るの。素敵よね?」

 「え?でも、いいの?ホストファミリーに会うのが楽しみだって、言っていたじゃない?」

 「離婚したら、いつでも会えるわ。お母さん、まだ言っていなかったけど、離婚が成立したら、外国で暮らそうと思っているのよ。外国なら、バチイチでも関係ないでしょ?」

 「その方が、まどかに合っているかもしれないわね。」

 国際線のフロアから、急遽、国内線へと移動して、とりあえず名湯百選の中から、行先を選ぶことにする。

 せっかく空港にいるのだから、北海道に行こうよ。ということになり、新千歳空港に行くことにする。

 登別温泉、湯の川温泉、洞爺湖温泉、定山渓温泉、有名どころを回るだけでも大変な上、今は冬真っ盛り、ちょっと北海道は失敗かも?と思い始める。

 「いいじゃない?寒い時に寒い所へ行くことは悪いことではないわよ?雪を見ながら温泉に入るのもおつなものよ。」

 もう、ほとんど強がりというべきか?我慢大会のような温泉旅行の幕が切って落とされたのである。

 手始めに行ったのは、登別温泉、よく入浴剤で見かける乳白色の温泉で寒いながらも、カラダの芯から温まり心地がいい。

 夕食は部屋食で、お母さんは、お酒を注文し、少し頬に赤みをさしている。

 「ああ、いい気持ちっ!わたしね。大人になったまどかちゃんとこういう旅行がしてみたかったのよ。だから、今日は幸せだわ。あ!そうだ。忘れないうちに、お父さんに電話しとかなきゃ。ロンドンに着いたら、電話するって言っていたのよ。ロンドンじゃないけどね。」

 「トゥルルルルル……。ガチャっ。もしもし西園寺ですが。」

 「Hello. お父さん、無事に着きましたぁ。」

 「なんだ。お母さんか……早いな。ロシアの上空を通っていくのだからな、10時間ほどで到着するとしても、ずいぶん早くないか?」

 「えへへ。今ね。登別に来ているのよ!まどかちゃんと二人で温泉入って、気持ちいいの。」

 「なに!? 明日も登別にいるのか?」

 「うーん。それはわからないけど、明日は湯の川か、定山渓か洞爺湖かもしれないけど、とにかく北海道の温泉巡りをすることにしたのよ。」

 「いや、待て。それなら、俺もこれから、そっちへ行く。」

 「はぁ?何、言っているのよ。明日は、ゴルフへ行くのでしょ?」

 「ああ、それは誰かほかの人間に代わってもらう。だから、明日は俺も北海道へ行くぞ。」

 「ダメよ。せっかく、まどかちゃんと水入らずで楽しんでいるのに。母娘というものは、こういう時間が必要なのよ。」

 「いや。俺も行く。」

 「はーっ。仕方ないわね。新千歳に着いたら、連絡してね。」

 お母さんは、ほとほといやそうな顔をして、「明日、お父さんも合流するんだって。」
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