26 / 46
26.挨拶
しおりを挟む
その夜も穏やかに過ごせ、翌朝も長岡さんのお迎えで会社に着く。
「昨日は、よく眠れましたか?」
「はい、久しぶりにぐっすり眠れました。」
「それは、重畳。ところでまだ、社内の案内がまだでしたね。佐久間さんに頼んで、案内してもらいましょう。」
社長は、佐久間さんに社内の案内を頼むと、机の上の書類に目を落とされる。
一昨日、まどかさんの顔は確かに疲れて見えた。専業主婦が、疲れが顔に出るほどの仕事量はないはずなのに、それにまして新婚で、よく見るとうっすらと目の下にクマができている。
それで、ピンときた。それに海斗のあの発言「まどかを見せたくない。」
海斗のやつ、まどかさんを溺愛しすぎて、夜もロクに寝かせてないということが分かったのだ。
そんなことをしていれば、跡継ぎに恵まれない。健康な母体があってこそ、健康な子供に恵まれるというもの。
儂には、海斗の下に娘がいた。娘は8年前に病死したのだが、妻がその娘を孕んだ時、妻の体調があまりよくないときだったのだ。因果関係は今、もってよくわからない。
当時、儂は大地川建設を立ち上げたばかりで、受注の図面作成に追われ、妻は経理担当で会社の資金繰りに頭を痛め、二人とも毎日残業続きだった。
頭が疲れていると、どうしても妻を抱きたくなる。その時にできた子供が娘だったのだ。娘は生まれた時から、体が弱く、学校も休みがちで、そのうちとうとう発病してしまい、入院と退院を繰り返し、19歳の若さで逝ってしまった。かわいそうなことをした。その時の教訓で、まどかさんには無理させたくない。
立派な孫を産んでもらいたい。
それにあの英語力、実に見事で、鬼に金棒状態。あんな人材が前から欲しかったところ、偶然にも、鴨葱で向こうから来てくれた。それに若葉山も娘の勤務先なら、融資を断れない。
一石二鳥どころか、一石四鳥というところ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
そのころ、佐久間さんの案内で社内を案内してもらっていた。15階は食堂と休憩室で、昨日、社長に連れて行ってもらった。
14階は役員室フロアだけど、ここの案内は折を見てすることになり、13階へと向かう。13階は主に、会議室が主体で、ここは総務部で予約すればだれでも自由に使えるスペースになっている。ランチタイムは、空いていれば、予約なしでもここで弁当を広げることができる。
12階からは、各部署が軒を連ねている。また、部署ごとに簡単な打ち合わせができるスペースも併設されているので、いちいち13階に上がらなくても、ミーティング程度ならここで済ますことができる。
エレベーターを降りると通路側にトイレと給湯室、ミーティングルームが横並びにあり、向かい側は、それぞれの部署のドアはあるが、中の部屋は衝立程度の簡単な仕切りがあるだけで、部屋としての間仕切りはない。
佐久間さんは、一つ目の部屋に入り、パンパンと手をたたき、注目を集める。
「昨日から社長室に配属されました、広瀬まどかさんです。社長秘書として入社されました。皆さんとは、あまり接点がございませんが、よろしくお願いします。広瀬さんからも一言お願いします。」
「初めまして。広瀬まどかです。前職でも、社長秘書の経験があり、外国語が得意です。どうぞ、よろしくお願いします。」
男子社員から、「可愛い」「まどかちゃん」の声が上がる。佐久間さんは、それを聞いていて
「ああ、因みに山崎さんは、副社長の奥様です。くれぐれも言葉遣いに気を付けるようにお願いします。では、次、行きましょうか。」
いったん、廊下に出て、次のドアを開ける。これを2階まで繰り返し、社員全員に周知していく。
女子社員の更衣室は2階にあったが、当分の間、まどかは私服のままでいいそうだ。
そして、問題の1階に来たが、あの受付嬢はもういない、昨日から気になっていたことを思わず聞いてします。
「あの……一昨日、ここにいらっしゃった中川さんという方は、どちらに?」
「中川さんなら、依願退職したわよ。」
「え?」
「あの人、前から評判が悪くて、女性の来客があるとことごとく嫌がらせをするから、その責めをこっちにまでかぶせられ、本当、迷惑してたのよね。」
「それに、若奥様にこんなこと言っていいかどうかわからないけど、あの人3か月ぐらい前だったかなぁ。今日は副社長に抱いてもらうんだって、張り切って出て行ったんだけどフラれちゃったみたいなの。まぁ、そりゃそうよね。若奥様という方がいらっしゃったんだもん。フラれて当然よね。それで意趣返しするために……だと思うわ。自滅してくれたんだから、すっとしたわ。」
へー。そうだったんだ。あらためて聞くと、そういう理由があったなんて、知らなかった。
海斗は、わたしと友達付き合いすることになったから、中川さんを抱かなかったのかな?でも、つくづく海斗がモテることがわかり、ショックを隠せない。
あの調子で抱かれ続けたら、飽きられるのは目に見えているってことね。そう思うと、なんだか悲しくなる。
「昨日は、よく眠れましたか?」
「はい、久しぶりにぐっすり眠れました。」
「それは、重畳。ところでまだ、社内の案内がまだでしたね。佐久間さんに頼んで、案内してもらいましょう。」
社長は、佐久間さんに社内の案内を頼むと、机の上の書類に目を落とされる。
一昨日、まどかさんの顔は確かに疲れて見えた。専業主婦が、疲れが顔に出るほどの仕事量はないはずなのに、それにまして新婚で、よく見るとうっすらと目の下にクマができている。
それで、ピンときた。それに海斗のあの発言「まどかを見せたくない。」
海斗のやつ、まどかさんを溺愛しすぎて、夜もロクに寝かせてないということが分かったのだ。
そんなことをしていれば、跡継ぎに恵まれない。健康な母体があってこそ、健康な子供に恵まれるというもの。
儂には、海斗の下に娘がいた。娘は8年前に病死したのだが、妻がその娘を孕んだ時、妻の体調があまりよくないときだったのだ。因果関係は今、もってよくわからない。
当時、儂は大地川建設を立ち上げたばかりで、受注の図面作成に追われ、妻は経理担当で会社の資金繰りに頭を痛め、二人とも毎日残業続きだった。
頭が疲れていると、どうしても妻を抱きたくなる。その時にできた子供が娘だったのだ。娘は生まれた時から、体が弱く、学校も休みがちで、そのうちとうとう発病してしまい、入院と退院を繰り返し、19歳の若さで逝ってしまった。かわいそうなことをした。その時の教訓で、まどかさんには無理させたくない。
立派な孫を産んでもらいたい。
それにあの英語力、実に見事で、鬼に金棒状態。あんな人材が前から欲しかったところ、偶然にも、鴨葱で向こうから来てくれた。それに若葉山も娘の勤務先なら、融資を断れない。
一石二鳥どころか、一石四鳥というところ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
そのころ、佐久間さんの案内で社内を案内してもらっていた。15階は食堂と休憩室で、昨日、社長に連れて行ってもらった。
14階は役員室フロアだけど、ここの案内は折を見てすることになり、13階へと向かう。13階は主に、会議室が主体で、ここは総務部で予約すればだれでも自由に使えるスペースになっている。ランチタイムは、空いていれば、予約なしでもここで弁当を広げることができる。
12階からは、各部署が軒を連ねている。また、部署ごとに簡単な打ち合わせができるスペースも併設されているので、いちいち13階に上がらなくても、ミーティング程度ならここで済ますことができる。
エレベーターを降りると通路側にトイレと給湯室、ミーティングルームが横並びにあり、向かい側は、それぞれの部署のドアはあるが、中の部屋は衝立程度の簡単な仕切りがあるだけで、部屋としての間仕切りはない。
佐久間さんは、一つ目の部屋に入り、パンパンと手をたたき、注目を集める。
「昨日から社長室に配属されました、広瀬まどかさんです。社長秘書として入社されました。皆さんとは、あまり接点がございませんが、よろしくお願いします。広瀬さんからも一言お願いします。」
「初めまして。広瀬まどかです。前職でも、社長秘書の経験があり、外国語が得意です。どうぞ、よろしくお願いします。」
男子社員から、「可愛い」「まどかちゃん」の声が上がる。佐久間さんは、それを聞いていて
「ああ、因みに山崎さんは、副社長の奥様です。くれぐれも言葉遣いに気を付けるようにお願いします。では、次、行きましょうか。」
いったん、廊下に出て、次のドアを開ける。これを2階まで繰り返し、社員全員に周知していく。
女子社員の更衣室は2階にあったが、当分の間、まどかは私服のままでいいそうだ。
そして、問題の1階に来たが、あの受付嬢はもういない、昨日から気になっていたことを思わず聞いてします。
「あの……一昨日、ここにいらっしゃった中川さんという方は、どちらに?」
「中川さんなら、依願退職したわよ。」
「え?」
「あの人、前から評判が悪くて、女性の来客があるとことごとく嫌がらせをするから、その責めをこっちにまでかぶせられ、本当、迷惑してたのよね。」
「それに、若奥様にこんなこと言っていいかどうかわからないけど、あの人3か月ぐらい前だったかなぁ。今日は副社長に抱いてもらうんだって、張り切って出て行ったんだけどフラれちゃったみたいなの。まぁ、そりゃそうよね。若奥様という方がいらっしゃったんだもん。フラれて当然よね。それで意趣返しするために……だと思うわ。自滅してくれたんだから、すっとしたわ。」
へー。そうだったんだ。あらためて聞くと、そういう理由があったなんて、知らなかった。
海斗は、わたしと友達付き合いすることになったから、中川さんを抱かなかったのかな?でも、つくづく海斗がモテることがわかり、ショックを隠せない。
あの調子で抱かれ続けたら、飽きられるのは目に見えているってことね。そう思うと、なんだか悲しくなる。
0
お気に入りに追加
339
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
妻の浮気相手の態度は僕の怒りの沸点に達した
ヘロディア
恋愛
愛している妻がとうとう告白した浮気。
さらに、その後浮気相手が家を訪ねてくる。彼はまだ妻を諦めていないようだった。
改めて話し合いをすることになったものの…
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる