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23.忘れ物
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まどかは、さっき受付であったことの一部始終を話し、海斗にスマホを渡す。海斗はスマホを受け取るも、少し考え込むようなしぐさをしてから、
「ちょっとここで、待っていてくれる?」
いつものようにエッチな海斗ではなく、優しくまどかをソファに座らせて、どこかへ出かけていく。
こんな部屋に通されたから、またまどかは海斗に触られるのでは、と身構えていたけど、それもなくホッとしている。
海斗が部屋を出てすぐ、お義父さんがノックもせず部屋に入ってきた。
「なんだ。また、まどかさんをほったらかしにして、出て行ったのか?本当、呆れたやつだな。まどかさんと結婚してから、少しは落ち着いて、仕事に精を出していたと評価していたのだがな。ったく、どこをほっつき歩いているのやら。まどかさん、すまんな。」
「いいえ、そんな……。」
「それにしても、若い娘がいるというだけで、この殺風景な部屋がずいぶん華やいで見えるのは、気のせいだろうか?できれば、まどかさんには、ちょくちょくここへ来てほしいな。ウチの秘書は、皆むさくるしいだけの男ばかりだからな。蓬フードサービスさんがうらやましくなる。」
「……。」まどかは、ただ愛想笑いをしている。
蓬フードサービスは、ファミレスをはじめ、様々な業態のレストラン展開をしている会社だから、女性と子供を相手にしているような会社だから。
大地川建設のような鉄骨と土木作業員を相手にしている会社と社風が異なることは、当たり前で、どうしても役員室の雰囲気が違う。
そこに一本の国際電話がかかってくる。
広瀬社長が、すぐ電話に出たが、相手が海外からだとわかり、目を泳がせている。
まどかは、私が変わって受けましょうか?といい、受話器を受け取ったのだ。
「Hello.This is Daichigawa’s Hirose……」
社長は、まぶしそうな顔で、まどかを見つめている。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
父と新規契約の話もあったのだが、それよりも海斗の足は自然と受付に向かっていたのだ。
受付に、まだなお広報室長から叱られている女の顔に見覚えがあった。俺に遊びでいいから抱いてくれと言ってきた女、あの女がまどかに嫌がらせを仕掛けてきたとわかった。
あの女とは、あれっきり何もない。でも、あの女からすれば、恥をかかされたと思っているようだ。だから、まどかと張り合うようなことを……。俺は、人事部長に会いに行き、あの受付嬢をクビにするように言う。
まどかをどんな形でも、泣かせるような人間は会社に置いておけない。
俺が言うまでもなく、人事部長はあの女をクビにするつもりでいることがわかり、ホッとして、まどかのいる部屋に戻ったのだ。
すると、そこには親父が先にいて、まどかと談笑している姿にムカつく。
「親父、何やっているんだよ。俺がちょっと目を離した隙に!」
「おうおう。ようやく戻ってきたか。まどかさんを一人にして、どこへほっつき歩いていた?こんな可愛い嫁さんを一人にしてまでもな。」
イヤミったらしい親父の言葉にもムカつく。
「缶コーヒーを買ってきただけだよ。」
海斗は、手に持っていた1本をまどかにくれる。
「そんなコーヒーなど、秘書に言えば、もっと本格的なものを出してくれるだろうに。」
「まどかを見せたくない。」
ボソっと言った海斗の言葉に、親父は固まる。
「お前……そこまで、まどかさんに惚れているのか?」
え?うそ?今、お義父さんが、海斗がわたしに惚れているって言った?うっそー信じられない。わたしは、ただの夜の愛玩動物で、ダッチワイフに過ぎない。海斗は仕方なく相手をしていてくれるだけと思っている。だって、いまだに指輪も愛の言葉もくれないもの。
「……まどかさん、どうだろう前の会社で秘書の経験があるから、その経験をわが社で活かせてみないか?」
「「えっ!!」」
「子供ができるまでの間でいいから、ウチで働いてみませんか?」
「子供って……。」
みるみるまどかの顔が真っ赤に染まっていく。海斗も同じように、真っ赤になっている。
まどかは海斗がつけるキスマークに困り果てていたから、もしまた新たにお勤めすることになれば、いくら何でも、あんな激しいキスマークの嵐は収まるかも?と思い、義父の申し出をありがたく、受けることにする。
「そうか、よかった。ありがとう。もし、子供ができても少しは働いていた方が胎教にいい。案内するよ。こっちへどうぞ。」
社長は、秘書に机を一つ発注するように言いつける。そして、隣の社長室に入り、ソファを勧める。
「契約書は、明日にでも作るから、まずは条件面を話し合おう。まどかさんも家のことがあるだろうから、最初はパートタイマーでいいかな?平日は朝9時から18時までの間のうちの6時間勤務、だから10時から17時勤務はどうだろうか?時間給で3000円、社会保険の被扶養者にはなれないから、新たにウチで資格取得してもらうことになるよ。それと役員の同居家族だから雇用保険には入れない。ここまでは大丈夫?」
まどかは、コクコクと頷いている。
海斗は、反対するかと思えば、神妙な顔つきをしている。ほかで働かれると、いろいろ問題があるがウチで働く分には安心。それに女子社員へのけん制もある。嫁が一緒に働いているとなれば、おいそれと海斗に粉はかけにくいだろう。あの受付女のような問題は、起こらないに越したことはない。
「さっきのように国際電話を受けてもらえば、別途、語学手当を支給する。わが社は女子社員の制服があるが、まどかさんはパートだから、着ても着なくてもどちらでも構わない。それに来客担当はしてもらわなくていい。もっと、カジュアルな格好でも、全然かまわないよ。スケジュール管理と電話応対、あとはファイリング業務を頼みたい。」
さっき?国際電話?海斗は首をひねる。なんだ?それは?
「わかりました。それでいつから出社すれば、よろしいでしょうか?」
まどかは、さっきまでの家族に対する物言いを改め、ビジネスライクに応える。
「できるだけ早く、明日からでもと言いたいところだが、いつでもかまわんよ。まどかさんの都合がいい時からでいいよ。行くときは、このバカに言伝してもらえれば、十分だ。」
「バカって、ひどいな。」
「なに、言っている?自業自得だろ?」
「ちょっとここで、待っていてくれる?」
いつものようにエッチな海斗ではなく、優しくまどかをソファに座らせて、どこかへ出かけていく。
こんな部屋に通されたから、またまどかは海斗に触られるのでは、と身構えていたけど、それもなくホッとしている。
海斗が部屋を出てすぐ、お義父さんがノックもせず部屋に入ってきた。
「なんだ。また、まどかさんをほったらかしにして、出て行ったのか?本当、呆れたやつだな。まどかさんと結婚してから、少しは落ち着いて、仕事に精を出していたと評価していたのだがな。ったく、どこをほっつき歩いているのやら。まどかさん、すまんな。」
「いいえ、そんな……。」
「それにしても、若い娘がいるというだけで、この殺風景な部屋がずいぶん華やいで見えるのは、気のせいだろうか?できれば、まどかさんには、ちょくちょくここへ来てほしいな。ウチの秘書は、皆むさくるしいだけの男ばかりだからな。蓬フードサービスさんがうらやましくなる。」
「……。」まどかは、ただ愛想笑いをしている。
蓬フードサービスは、ファミレスをはじめ、様々な業態のレストラン展開をしている会社だから、女性と子供を相手にしているような会社だから。
大地川建設のような鉄骨と土木作業員を相手にしている会社と社風が異なることは、当たり前で、どうしても役員室の雰囲気が違う。
そこに一本の国際電話がかかってくる。
広瀬社長が、すぐ電話に出たが、相手が海外からだとわかり、目を泳がせている。
まどかは、私が変わって受けましょうか?といい、受話器を受け取ったのだ。
「Hello.This is Daichigawa’s Hirose……」
社長は、まぶしそうな顔で、まどかを見つめている。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
父と新規契約の話もあったのだが、それよりも海斗の足は自然と受付に向かっていたのだ。
受付に、まだなお広報室長から叱られている女の顔に見覚えがあった。俺に遊びでいいから抱いてくれと言ってきた女、あの女がまどかに嫌がらせを仕掛けてきたとわかった。
あの女とは、あれっきり何もない。でも、あの女からすれば、恥をかかされたと思っているようだ。だから、まどかと張り合うようなことを……。俺は、人事部長に会いに行き、あの受付嬢をクビにするように言う。
まどかをどんな形でも、泣かせるような人間は会社に置いておけない。
俺が言うまでもなく、人事部長はあの女をクビにするつもりでいることがわかり、ホッとして、まどかのいる部屋に戻ったのだ。
すると、そこには親父が先にいて、まどかと談笑している姿にムカつく。
「親父、何やっているんだよ。俺がちょっと目を離した隙に!」
「おうおう。ようやく戻ってきたか。まどかさんを一人にして、どこへほっつき歩いていた?こんな可愛い嫁さんを一人にしてまでもな。」
イヤミったらしい親父の言葉にもムカつく。
「缶コーヒーを買ってきただけだよ。」
海斗は、手に持っていた1本をまどかにくれる。
「そんなコーヒーなど、秘書に言えば、もっと本格的なものを出してくれるだろうに。」
「まどかを見せたくない。」
ボソっと言った海斗の言葉に、親父は固まる。
「お前……そこまで、まどかさんに惚れているのか?」
え?うそ?今、お義父さんが、海斗がわたしに惚れているって言った?うっそー信じられない。わたしは、ただの夜の愛玩動物で、ダッチワイフに過ぎない。海斗は仕方なく相手をしていてくれるだけと思っている。だって、いまだに指輪も愛の言葉もくれないもの。
「……まどかさん、どうだろう前の会社で秘書の経験があるから、その経験をわが社で活かせてみないか?」
「「えっ!!」」
「子供ができるまでの間でいいから、ウチで働いてみませんか?」
「子供って……。」
みるみるまどかの顔が真っ赤に染まっていく。海斗も同じように、真っ赤になっている。
まどかは海斗がつけるキスマークに困り果てていたから、もしまた新たにお勤めすることになれば、いくら何でも、あんな激しいキスマークの嵐は収まるかも?と思い、義父の申し出をありがたく、受けることにする。
「そうか、よかった。ありがとう。もし、子供ができても少しは働いていた方が胎教にいい。案内するよ。こっちへどうぞ。」
社長は、秘書に机を一つ発注するように言いつける。そして、隣の社長室に入り、ソファを勧める。
「契約書は、明日にでも作るから、まずは条件面を話し合おう。まどかさんも家のことがあるだろうから、最初はパートタイマーでいいかな?平日は朝9時から18時までの間のうちの6時間勤務、だから10時から17時勤務はどうだろうか?時間給で3000円、社会保険の被扶養者にはなれないから、新たにウチで資格取得してもらうことになるよ。それと役員の同居家族だから雇用保険には入れない。ここまでは大丈夫?」
まどかは、コクコクと頷いている。
海斗は、反対するかと思えば、神妙な顔つきをしている。ほかで働かれると、いろいろ問題があるがウチで働く分には安心。それに女子社員へのけん制もある。嫁が一緒に働いているとなれば、おいそれと海斗に粉はかけにくいだろう。あの受付女のような問題は、起こらないに越したことはない。
「さっきのように国際電話を受けてもらえば、別途、語学手当を支給する。わが社は女子社員の制服があるが、まどかさんはパートだから、着ても着なくてもどちらでも構わない。それに来客担当はしてもらわなくていい。もっと、カジュアルな格好でも、全然かまわないよ。スケジュール管理と電話応対、あとはファイリング業務を頼みたい。」
さっき?国際電話?海斗は首をひねる。なんだ?それは?
「わかりました。それでいつから出社すれば、よろしいでしょうか?」
まどかは、さっきまでの家族に対する物言いを改め、ビジネスライクに応える。
「できるだけ早く、明日からでもと言いたいところだが、いつでもかまわんよ。まどかさんの都合がいい時からでいいよ。行くときは、このバカに言伝してもらえれば、十分だ。」
「バカって、ひどいな。」
「なに、言っている?自業自得だろ?」
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