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7.退職手続き

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 やっとのことで、母が差し出した金品を受け取ってくださった広瀬さんに感謝していると、母がまた爆弾発言をしたので、驚いて、母の方を見た。

 「まどかには、明日にでもこのマンションを引き払って実家に帰ってきてもらいますから、オーナー様には今月いっぱいまでの契約ということにしていただきますね。」

 「えっ!お母さん急にイヤよ。それに会社の私物も取りに行かなきゃなんないし。」

 「私物は西尾さんが、送ってくださりますわ。それにもうこれは、お父さんが決めたことなので、私に言われてもね。でもね、考えてもみて頂戴、あの男は、まどかのマンションの部屋番号を知っているのよ。ここにいたら逆恨みでもして、今度はどんな仕返しをしてくるかわからないのよ。同期の女子社員も同じよ。まどかに今度はどんな嫌がらせをしてきてもおかしくないと思うのよ。だって、そうでしょ?同期が結婚するって噂を聞いただけで、相手の男を寝取るような女、いったいどんな育ちをしているのか親の顔が見たいものだわ。」

 「……。」

 そこまで言われると黙るしかない。

 「そしたら、部屋のナンバープレートを隠せばいいのでは?」

 広瀬さんは、オーナーらしく、その提案をしてくれる。

 「嫁入り前の娘に、だいたい一人暮らしをさせることが心配ですの。まぁ、まどかは男の人を部屋に引き入れるような娘ではございませんから、今までは安心しておりましたが……!それよりまどか、あの男とは寝たの?」

 「っもう、お母さんたら広瀬さんの前で何てこと言うの。恥ずかしいわ。浩介とは清い関係よ。お母さんが婚前交渉を許可してくれたけど、タイミングが合わなくて、何もしてないわ。」

 「そう。良かったわ。それだけが不幸中の幸いね。」

 母は広瀬さんに向き直り、

 「とにかく早急に解約手続きをしてください。今、お聞きになられたと思うけど、娘は勤務していた会社の男性と婚約していたのに、その男性が浮気して、それもまどかと同期入社の女の子と。だから一刻も早く、このマンションから出なければ、どんな報復をされるか心配で心配で。会社には、実家の住所を教えていないから、自宅まで押しかけてくることはできないでしょうからね。」

 恐る恐るといった感じで、広瀬さんはまどかの会社のことを聞いてくる。

 「あの差し支えなければ、まどかさんはどういう関係のお務めをされていたのですか?」

 海斗は、このまままどかと別れがたく、まどかのことをもっと知りたいと思い質問してくる。

 「蓬フードサービスという会社で、社長秘書をしておりました。わたしを裏切った男性は、営業部で、その浮気相手は総務に勤めています。」

 「大手ですね。まどかさんの容姿であれば、社長秘書も頷けます。」

 「まどかは、わたしに似て才色兼備ですのよ。こう見えても帰国子女で英語にフランス語、ドイツ語はネイティヴレベルですの。そこらの美人だけで秘書になっている女性とは、格が違いますのよ。ほほほ。」

 なぜか母が自慢たらしく、胸を張っているものだからおかしくて、ついクスクスと笑ってしまう。

 西園寺夫人が笑い、まどかさんが笑うので、海斗もつられて笑ってしまう。

 場が和やかになった時を見計らって、西園寺夫人が暇乞いをする。

 二人が帰られる前に、海斗はどうしてもまどかと付き合いたくて、つい提案してしまう。

 「あの……まどかさん、もしよろしければ、引っ越しされるまでの間、お友達になっていただけないでしょうか?」

 その言葉になぜか、西園寺夫人が嬉しそうに、

 「あら、いいじゃない!ぜひ、ウチのまどかちゃんと仲良くしてやってくださいな。よろしくお願いします。」

 お母さんが勝手に返事をしたので、啞然とするものの、まどかも広瀬さんのルックスを気に入りコクコクと頷く。

 広瀬さんは、身長180センチはあろうかと思うほど背が高く、二重のぱっちりした目、鼻筋が通り、精悍な感じがするイケメンなのだ。

 浩介は、どちらかというと〇ニーズ系の甘いマスクだったけど、広瀬さんの方が断然まどかの好みドンピシャなのだ。

 それは母も同じようで、母娘とも、広瀬さんの申し入れに顔が緩んでしまっている。
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