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聖女ビクトリア

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 ビクトリアが聖女として覚醒したことは、すぐに王家に知らされるところとなったのだ。慌てたのが、王家、ストロベリー公爵の進言を無視し、断頭台に送ってしまったのだから、すぐさまビクトリアの処刑中止を申し渡すも、断頭台と連絡が取れずにいる。

 仕方なく怒鳴られることを覚悟で、ストロベリー公爵邸に謝罪に行くと、ビクトリア聖女様は、家に帰っていらっしゃったので、詫びと婚約破棄の違約金をすぐに支払い、ロバートが処刑を見に行ってから、まだ帰ってきていないので、第2王子と婚約するか、ロバートとの婚約破棄の破棄をしてもらえないかと、打診したところ、一笑に付され、けんもほろろに断られるのです。

 それは当然のことだから、王家としては何も言えない。それに聖女様の地位は、国王陛下以上であるのだから、仕方がない。

 今後は、聖女様の気が変わることを気長に待つしかないのである。

 ビクトリアは、聖女に覚醒してから、身体が丈夫になったようだった。あまり熱も出なく、前は少し歩いただけで、息切れしていたのが、今はいくら歩いても走っても疲れない身体となったのだ。

 そして公爵邸の蔵書を読破したことで、今頃、何か困ったことがあれば、昔、読んだ本にこんな魔法があったと思って、念じるとすぐさまそれが実行に移せるのである。

 卒業式で、聖女の浮気相手とされた騎士団長の息子ジェームズ・ファウルは、父親のファウル騎士団長に切り殺されたらしい。聖女に覚醒するということは、純潔の証。純潔なのに、聖女様を、公爵令嬢を陥れ殺そうとしたことは、死によってでしか償えないという理屈らしい。そして、ファウル騎士団長も息子の仕出かしたことに責任を感じ、自ら死を選んだのだ。

 こうして、卒業式の時にビクトリアを断罪した張本人たちは全員死んだのである。

 断頭台発の民衆によるクーデターは、圧倒的な武力による差で鎮圧されたが、国王陛下は、断頭台で変わり果てた息子の姿を目撃したのである。

 自業自得とはいえ、聖女様が殺されるところを見物に行ったのだから、つくづくバカ息子に育ててしまったことを後悔する。

 そして、タイナー国王陛下は、二度とこのようなことを起こすまいと、断頭台そのものの破壊を命じるのである。

 ビクトリアが聖女として覚醒してから、少しずつではあるがタイナー国は落ち着きを取り戻しつつあるが、いまだ第2王子様との婚約に同意しないビクトリアに苛立つ貴族もいたのである。

 そんな時、一部の貴族が暴走し、なんと!ビクトリアを拉致監禁してしまったのである。といっても、ビクトリアは転移魔法を使えるから、拉致監禁に何の意味も持たないのだが、一部の貴族たちは聖女様の力を知らないでいる。

 「ビクトリア聖女様、しばらくの間、ここでおとなしくしてもらえませんかね?なーに、命まで取ろうなんて思ってやしません。第2王子様と婚約さえしてくれたら、いいんですよ。そして第2王子様との結婚式が済めば、公爵邸にお戻りできますよ。」

 ふーん。そういうことか。一部の貴族たちは、第2王子派の貴族たちであったのだ。第2王子は、シトロエン伯爵家の庶子であった二番目の娘が側妃としていた頃に生まれた王子なのである。王太子のように王妃様から、生まれた王子ではないから、王太子亡き後も王位継承権としては弱い立場なのである。

 それで無理やり、ビクトリアと結婚させてしまえば、王位が転がり込んでくるというわけか。

 ビクトリアは、今の会話をすべて録音している。レコーダー魔法を習得しているのである。貴族たちが去った後、ビクトリアは、王城に飛び、父とともに国王陛下に拉致されて、監禁されていたことを告げ、レコーダー魔法を披露するのである。

 タイナー国王は激怒され、第2夫人の側妃共々第2王子とそのシンパであるシトロエン伯爵もろとも、領地財産没収の上、国外追放処分としたのである。

 ちなみにタイナー国の場合、母親の出生がすべて決まるのである。第3王子の母親は男爵令嬢であったから、どんなに人がいなくとも、王位継承権は回ってこない。

 第4王子の母親は侯爵令嬢だったので、王位継承権はある。しかし、第4王子はまだ若干7歳であるから、ビクトリアとは、釣り合いが取れないのである。

 ビクトリアもそろそろ、国を捨てる潮時かもしれないと思い始めていたのである。

 タイナー国は大好きな国だったのに、病弱でほとんど寝たきり生活だったけど、ここには母との思い出の地だったから、ビクトリアが4歳の時、母が他界したのである。母もビクトリアと同じように体が弱く、ビクトリアを産んでから、さらに産後の肥立ちが悪く、結局それで命を落としてしまったのだ。

 母さまとの思い出の地だったから、聖女覚醒してからも公爵邸に戻ってきたのである。今なら母さまの病気ぐらい、少し念じるだけで治してしまう自信はあるが、もう何もかも手遅れなのである。いくら、聖女でも死んだ人間を生き返らせることはできない。

 その日の夜、父が帰宅してから、タイナー国を離れようと思っていると父に伝えるのである。父は、反対してくると思っていたのだが、意外にも賛成してくれて、父ももうタイナー国に未練はないと言い切り、一緒に旅に出ようと言ってくれるのであったのだ。

 こそこそと父と出国の相談をしていると、使用人も何か聞き耳を立てているような?気がする。そして、「お嬢様がこの国を捨てられる時がくれば、私も一緒に着いてまいります。」という嬉しいことを言ってくれる使用人が続出したのである。

 結局、公爵邸の使用人全員で国を捨てることにしたのである。母の墓は領地にあるから、出国する前に最後のお墓参りがしたいと考え、父に言うとお墓の近くの土を持っていけば、いつでも母様と一緒にいられるということであったので、植木鉢にスコップをもって、お墓参りに行ったのである。

 転移魔法でさっと行って、さっと帰るつもりだったのだが、領地にある公爵邸の執事に見つかってしまい、国を捨てることを話すと自分たちを置いていくのか?と詰め寄られ、仕方なく全員で行くことになったのである。

 「では、出発するとき、領地に立ち寄りますから各自ご用意のほどを。」

 「ビッキー(ビクトリアの愛称)が聖女様の魔法を使って、皆を送ってくれるから、家族を連れて行きたいものは遠慮せずに家族を連れて、この公爵邸に集まるようにするんだよ。」

 父がわかりやすく使用人に説明しているのである。その間に、せっせと植木鉢に母さまのお墓の周りの土を入れていると、優しい若い顔をした母そっくりの女性が目の前に立っていらしたのである。

 「え……と、はじめまして?でございますか?」

 「ええ、そうですわね。ビクトリア聖女様。」

 「わたくしのことをご存知なのですか?」

 「ええ、もちろん知っておりますとも。わたくしはあなたのお母様のこともよく存じ上げておりましてよ。」

 「え?母のこともですか?いったい、どういう御方なのですか?」

 「わたくしの名は、ゴールデニア。神界では全知全能の創造神アマテラスの娘、女神をしております。信じてくださらないかもしれませんが、あなたのお母様は亡くなられて、神の国へ行かれたのです。幼かったあなた様のことを大変心配されて、それであなた様は聖女になられたのですよ。」

 「そうなのですか。わたくしが聖女となれたのは、母のおかげだったのですね。」

 「でもそれは、あなた自身の努力の賜物でもあったのですよ。幼い時から蔵書を読み漁ってらっしゃったでしょう。それが力となって、花開いたのです。」

 「そして、あなた様にはそんなお墓の周りの土よりももっといいものを差し上げますわ。」

 それは、髪留めであった。そういえば、母がよく生前していたものと似ている。聞けば、神界で母がしているものと同じものだそうです。

 女神様は、「あなた様さえよければ、あなた様を神界にお連れすることは可能です。」

 でもそれって、死ぬこと?せっかく聖女になったのだから、困っている人たちに寄り添って生きたい。聖女の力があれば、助けられる様々な人たちを助けたいのである。

 「うふふ。死ぬことと神界へ行くことは別物ですよ。お母様に逢いたいとはお思いになられませんか?」

 痛いところをついてくる。でも父に言ってからでないと行けない。困っていると

 「お父上とご一緒なら、行けますか?」

 そうして、父とともに神界へ渡ることになったのである。生きながらにして神の国へ行くとは思っていなかったのである。

 父も神界の様子に驚いたらしく、しばらくは口をポカンと開けたまま、茫然としているところに母がやってきた。死んだときと同じ年齢で若く美しい。

 「ベラトリス!元気だったかい?いや、元気というのは、おかしな言い方だな。」

 目の前にいる母?はクスリと笑って、

 「ビッキー、綺麗になったわね。母は元気で暮らしています。ビッキーも自分が思った通りの人生を歩んでね。ロバート様の死は自業自得よ。気に病んではダメよ。」

 それから母は、父に向き直り

 「ビッキーをこんなに立派に育ててくださって、ありがとうございました。もうわたくしのことを忘れて、再婚なさったらいいのに?」

 「何を言うんだ。ベラトリス愛しているよ。君以外の女性を愛することなんて、ありえない!」

 二人は娘の前であることも忘れて?ちゅっちゅしている。

 その間にゴールデニアという女神様は、神界のあちらこちらを案内してくださいました。空飛ぶお魚の群れ、花の妖精が歌い踊る姿、そして女神様は独り言のようにつぶやかれる。

 「わたくしも幼い時に母を亡くしたの。だから、ビッキー様のことは他人事と思えなくて、いらぬお節介かもしれないけど、もう一度お母様に逢わせてあげたくて、連れてきたのよ。」

 「ありがとう存じます。もうこれで思い残すことなく、祖国を離れられます。」

 「そうだわ。もしどこかの国へ行くのなら、わたくしの息子がアンダルシアというところで王をしているから、アンダルシアを頼っていきなさい。きっと、あなた様のお力になれると思いますわ。」

 そう言って、父とともに転移魔法でアンダルシアへ送ってくれたけど、いったん戻らないと公爵家の使用人をタイナー国へ置いたままだから。

 慌てて、王都へ舞い戻ったら、使用人からは、ぶーぶー文句を言われる。でも行く宛てが決まったので、心は晴れやかである。

 王都の使用人全員とその家族をアンダルシアへ送ってから、再びストロベリー領へ飛び、そこでも公爵邸の使用人とその家族をアンダルシアへ送って、最後に公爵邸などの建物ももらっていくことにしたのである。

 すると領地の領民も我も我もとばかりに、集まってくる。

 「ごめんなさい。そんなにたくさんはいけないと思うのですが。」

 「聖女様となら、どこへでも行く。もうこの国は終わりだ。こともあろうに聖女様を処刑するような国は終わりの始まりだ。」

 言われてみれば、その通りだろうな。母と神界であった時、困っている人に寄り添うような聖女になりたいと思ったんだっけ。

 希望者全員をアンダルシアに送り込むことにしたのである。向こうが受け入れてくれなかったら、その時考えましょう。でも、女神様の息子さんだったら、きっと受け入れてくださるはず。

 希望が確信へと変わった瞬間だったのである。
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