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29 晩さん会

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 セレンティーヌは、それぞれの奥方にドレスを新調することにしたのである。既製服をと思っていたけれど、旦那の冒険者にも誂えて礼服をこしらえることにしたから、その奥様が既製品のドレスでは格好がつかない。

 洞窟やダンジョンでの財宝がたっぷりあるから、晩餐会まで1か月あれば、急がせば、なんとか間に合うだろう。内需拡大をしなければ、経済は回らないし、動かない。

 仕立て屋をマンションのエントランスに呼びつけ、まるで生地の品評会さながら、並べられたドレス生地に奥様方は、うっとりされている。

 ドレスに合わせて、バッグに手袋、小物、靴をそろえる。宝石は、手持ちの中から選んでもらうことにした。

 奥様には、旦那様のお給料からと話しているが、実際のところは、すべてセレンティーヌ持ちなのである。

 旦那の冒険者は、鼻を膨らませて、「好きなものを選べ。支払いは気にするな。」などとえらそうなことを言っているのだ。すべては、奥様にいい恰好を見せたいから。

 男性用の礼服は、すべて黒一色の燕尾服にしたのである。黒は、T.P.Oを選ばなくていいので、楽だから。

 黒染は、ものによって全然色が違う。黒ほど高価なものか安価なものかの見分けがはっきり出るものもない。

 こちらは、日を改めて品評会もどきをすることになったのである。そして、セレンティーヌが一番深い黒色の生地を見つけ、それを200人分発注したのである。

 男性陣は、あまり慣れていないのか緊張した面持ちで仮縫いを受けているのである。

 そうこうしているうちに、勲章授与の日がやってきたのである。

 総勢200人の冒険者が鍛え上げられた肉体に、燕尾服を着こんで並ぶと壮観である。馬子にも衣裳とは、よく言ったものだと思う。

 セレンティーヌは聖女服に着替え、式に臨む。

 「公爵令嬢セレンティーヌ・バーナード聖女様、此度は、大儀であった。」

 勲章を胸に付けてもらう。たったこれだけのために、朝から大騒動してきたのだ。

 晩さん会では、聖女服を脱ぎ、華やかなドレスを身に纏う。アルチザンから公爵邸の侍女が何人も来て、用意を手伝ってくれる。

 男性陣は、そのままの燕尾服で出席するが、奥方様は、また華やかなドレスを着用している。

 王城からは、馬車を仕立てると言ってきたが、200台もあるの?

 この日のため、父バーナード公爵に来てもらったのである。セレンティーヌだけ、エスコートなしというのは、可哀そうだからと、元宰相閣下が手配してくれたのである。

 勲章授与式の時に、王城の大広間の場所を記憶していたから、その玄関口、馬車止めのところまで、一気に転移魔法で行く。冒険者の奥方の中には、8頭立ての馬車に乗ってみたい人もいて、そういう人のため、馬車も一応、頼んでおいたのだ。

 晩さん会では、座る席が決まっている。それぞれの名札と令夫人、という具合に勝手に聖女様の横へ座りたいなどの希望は聞いてもらえないのである。

 セレンティーヌは、テーブルの先頭横並びの一番前でその横は父バーナード公爵、向かい側がアルチザンの元宰相閣下でその横が令夫人、かぎ型の先頭、一番の上座に王族が座られる。

 王族がたがなかなか着席されないので、乾杯も始まらない。

 何かあったのだろうか?と心配していたところ、ようやく国王陛下がお見えになる。

 定刻より少し遅れての晩餐会は、陛下の挨拶から始まる。そして、乾杯。

 それぞれが歓談しながら、和やかなムードで始まったのだ。

 セレンティーヌの斜め横の上座には、王族が座られるはずだが、いまだ空席のままである。

 セレンティーヌからすれば、その席が空席であろうとなかろうと何ら関係がなく、興味もない。

 しばらくすると見目麗しい男性、王子様だろうか?

 「遅れてすまない。今宵は無礼講と行こうではないか?さて、聖女様はどうやって、あの呪われたダンジョンを爆破されたのでございますか?」

 食事中になんてこと聞くの?と思っていたら、向かい側に座っている元宰相閣下が得意げに

 「あれは粉塵爆発を起こしたのでございます。」

 「ほぅ、粉塵とは、どのような粉でもいいのですか?」

 「いえいえ、可燃性の燃えやすい粉を使います。それを10層目にこう振って、充満させたところに、火を放ちます。するとあの通りの大爆発が起きるというわけです。」

 見てきたようなウソを言い、の世界である。セレンティーヌは呆れながら聞いていると、宰相閣下の細君が

 「あなたって、昔から頭脳戦は得意でしたものね。ステキだわ。頼もしいわ。」

 二人でイチャイチャやってろ!ばか!と言ってやりたいところをグッと堪える。

 「それで閣下が火を放たれたのですか?」

 「はっはっは。まさか、そういうことは若い者にさせますよ。年寄りは黙って見ているだけです。はっはっは。」

 「あの時、宰相閣下は、あみだくじに外れて、お手紙の代筆をされていましたものね。」

 ふと、セレンティーヌが漏らした言葉に、

 「しかし考え出したのは、儂だ!」

 顔を真っ赤にしながら、反論している。あとでお仕置きが必要らしいわね。そこまでして、細君の前で格好つけたいのかしらね。

 ななめ横からではあるが見ていると、イケメン王子様の飲み方のピッチがどんどん早くなってきている。前世の夫とそっくりな飲み方に嫌な予感がする。

 前世の夫は、大酒飲みで飲んだ後は必ず暴力をふるいながら、ほのかに跨るのである。

 いくら何でも王子様がここで聖女様に襲い掛かるとは思えない、それに横には、父もいるし、パーティの冒険者もいるから大丈夫だろうとは思うが、それにしてもピッチが速い。

 父に耳打ちして、席を立つ。御不浄(トイレ)に行こうとしたら、いきなり腕を掴まれる。

 「聖女様、無礼ではござらぬか?」

 イケメン王子様は完全に目が座っている。ヤバイ!どうしよう……内心、焦るも……いい解決策が思い浮かばない。

 「聖女様、今宵、私の夜伽を命ずる!」

 「はあ?」

 国王陛下は、完全に目が点になっている。

 前世からの対処法で、こういう時はたじろいでは絶対ダメだ。

 「離しなさいよ!この飲んだくれ!」

 一瞬、イケメン王子がひるんだすきに、横っ面を思い切り張った。往復ビンタしてやろうかと思ったが、咄嗟に父が間に入って止めてくれた。

 同時に冒険者たちから、歓声が上がった。

 「さすがは、俺たちの聖女様だ。」

 「見ろよ。聖女様はそんじょそこらのオンナとは違うんだぜ。」

 「冒険者一家を束ねるリーダーだけのことはある。」

 ヤンヤの歓声にセレンティーヌは照れるが、バーナード公爵は茫然としている。いつから、セレンティーヌはこんなに強い女になったんだ?

 それから若い冒険者からは、セレンティーヌのことを「姐さん」と呼ぶようになった。「お願いだからその呼び方はやめてー」という聖女様の叫び声は届かない。
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