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 セレンティーヌが返事に窮していると、毎月来られる聖職者の修道士様が、

 「無礼ではございませんか、たかがリード公爵令息ごときが、聖女様に詰め寄るとは?」

 「なんだとぉ?貴様は正教会の修道士だな、貴様が聖女様にあることないこと吹き込んだのか?」

 「おや?アラン様が、夜な夜な、別の令嬢を屋敷に引き込み、お楽しみをされていることのどこが、あることないことなのでしょうか?私は、事実を聖女様に申し上げただけでございますれば、なんらやましいことなどありません。」

 そんなこと、聞いてない!セレンティーヌの顔色がますます怒りで変わっていく。これでは、ベンジャミンよりひどい男ではないか!

 「本日のことは、御父上のリード公爵様と国王陛下にも進言します。どうぞ、お引き取りを。まだ、我が国の宝である聖女様にちょっかいを出されるおつもりですか?」

 「ぐぬぬ……。修道士、貴様の顔を覚えたぞ!夜道を一人で歩けると思うな!」

 捨て台詞を吐いて、いったんはその場から帰ったふりをしたのだが、近くに潜んで、修道士が帰ってくるのを待つ。襲うつもりなのである。

 そんなことは聖女であるセレンティーヌにはお見通しで、修道士を王都の正教会まで転移魔法で送ることにしたのである。

 いつまで経っても戻ってこない息子の安否を心配したリード公爵が、バーナード公爵領に問い合わせるも、「ご子息のアラン様は、もう一月も前に帰られて、その後の所在はわかりません。」としか、返事がない。

 公爵家の騎士と使者をバーナード領に向かわせるも、その途中の道の端にアランのものと思われる剣が落ちていただけで、消息は不明であった。おそらく、魔物か獣、あるいは盗賊にでも襲われ、連れ去られたか、その場で亡き者にされたのであろう。

 修道士を殺してやろうという悪心が自らの死を招いたのであろうか。

 それ以降、アラン・リードの消息を知る者は一人として、現れなかったのである。

 「それにしても修道士様、助かりましたわ。もしあの時、ダンスパーティに行っていたら、と思うとゾッといたしますわ。」

 「当然のことをしたまででございます。聖女様は、今やオランド国の至宝なのですから。無用な悪い虫に引っかかられては、困りますから。」

 「そういえば、このオランドには、年頃の王太子殿下はいらっしゃらないのでしょうか?」

 「いらっしゃいますよ。ただ少々、お身体が弱いのです。第2王子様もいらっしゃるのですが、政局になることを心配された国王陛下が、他国へ養子に出してしまわれたのです。」

 はぁ、なるほど。それで今まで一度も王子様に会えなかったわけか。

 「そうだ!もしよろしければ、一度聖女様が診立てていただけないでしょうか?陛下には、私のほうから申し上げておきます。きっと、お喜びになられるでしょう。」

 ええ?セレンティーヌは医者ではない。セント・クリスティーナ修道院でも一度も治癒魔法を実践したこともなく、理論もわからないのである。修道院長から教わる前に、ドーランド国を脱出してしまったから、何もわからない。ただ、神に祈ることしかできないのである。

 どうしよう?まぁ、一度王子様の顔だけ見るつもりで行っていいのだろうか?それとも、王子様に会う前にあの修道院長を探し出して、治癒魔法を教えてもらった方がいいのか?
  
 悩んでいると、あの修道院長のほうから、訪ねてこられたのである。

 「聖女様の噂を聞きつけ、ようやくオランドの土を踏むことが叶いました。」

 「院長先生、その節の不義理をお許しくださいませ。実は、この国の王子様の容態が悪いらしく、今度診立てを頼まれましたものの、わたくし治癒魔法を全然教えていただいておらず、困り果てていましたの。」

 「そんなことなら、ご心配には及びません。聖女様の聖魔法はすべてに通じて、おられています。」

 ということは……?できるってことなのかしらね。それなら、一安心と思っていたら、なんと!他国へ行かれた第2王子様から縁談が舞い込むことになったのである。

 確か第2王子様は、他国へ養子に行かれたと聞いたが?どうやら、他国で女性問題を起こし、居場所がなくなったらしい。

 おいおい、またかよ?どうして、いつもセレンティーヌは女癖の悪い男とばかり、かかわってしまうのだろうか?前世からの因縁と一言では片づけられない。

 さらに詳しく聞くと、第2王子様は、他国へ養子に行かれるとき、王太子殿下の婚約者である令嬢を無断で連れ出していたことが判明した。いわば、駆け落ちした相手がいたにもかかわらず、他国でまた女性問題を起こし、居づらくなったことから、聖女様と結婚して一発逆転を狙うということらしい。

 セレンティーヌは、もしその第2王子様と結婚したら、何番目の夫人になるのだろうか?ひとりは、駆け落ちした令嬢、ひとりは、女性問題を起こした令嬢が何人いるかということ、少なくて第3夫人、一人ぐらいでは、他国の王子様がわざわざ養子に来たのだから、問題にはなるまい。

 せいぜいよくて第5夫人というところか?

 妙な心配をしていると、また情報が入ったのである。例の修道士がいろいろと教えてくれる。

 なんと!第2王子様は、アラン・リード様と負けず劣らずお盛んだったようで、駆け落ち相手を含めて、7人の女性と乱痴気騒ぎを起こしたそうである。

 それは追い出されても文句は言えない。

 聖女が第8夫人なんて、冗談じゃない!

 多忙だとかなんとか理由をつけて、断ってしまおう。

 そうおもっていたら、第1王子様の診立ての日が来てしまったのだ。
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