上 下
22 / 25

22道具

しおりを挟む
 「もっと博さんのこと、知りたいです。」

 「あ!私も紗々さんのことを知りたいです。」

 食事が始まってから、お店の人が個室へ来て

 「本日は、初デートおめでとうございます。店主からのサービスでございます。」

 グラスワインがもらえたので、それで乾杯をする。

 初デートだなんて、きっと佐藤のおばあさんが頼んでくれたのだろう。二人は、その心遣いをありがたく頂戴することにした。

 小田原博は剣道五段の腕前で、中学までは、登山の経験があったらしく、

 「昔は、よく山へ行ったものです。雲海、ご来光を拝みにまた行きたいと思っていますが、紗々さんも、ご一緒にどうですか?」

 「はい。私とぜひ、ご一緒していただきたいです。ただ、装備がなくて、一からそろえなければなりません。」

 「佐藤のおばあさんから借りられないのですか?」

 「どうでしょうか?佐藤さんの家にある装備は、古いものばかりだし。」

 「だったら、これから買いに行きませんか?靴とザック、コッフェルとケトルは必需品です。あと、地図とコンパスも。テントは重いから、自分が買います。」

 「詳しいですね!」

 ただ、紗々の気を惹きたいだけでなく、小田原博は本物だと思う。

 ここまで、山のことを詳しい人も珍しい。本当にただ気を惹きたいだけの男性ではないのだ。

 結婚の条件に、もうひとつ加えるとしたら価値観、その価値観に十分影響するものは、趣味が同じであるということ。その面から見ても、小田原博こそ、ふさわしい人物はいないと感じる。

 食事の後、一緒に山岳ショップでお買い物をする。

 前世以来の登山靴購入、専用の靴下、着替え、ニッカズボン、ザックなどを一緒に選んでくれる。

 博さんが、テントを見ている間に、調理器具のブスコンロ、ケトル、コッフェルを見る。寝袋もいるわ。テントは、山小屋を利用すれば、持っていく必要がない。でも、山小屋の予約がいっぱいならば、持っていく必要もある。

 裕介とは、初めてエッチしたのが山で、いきなり覆いかぶさってこられた時は、ビックリした。

 博さんは、山でするつもりか?下着をそれ用のものを用意しといたほうがいいだろうか?

 ガツガツしている淫乱女だとは、思われないか、と心配する。

 博さんは、1人用テントを2つ買うつもりらしい。やっぱり、紳士だわ。

 「あのね。博さん、シュラフを見たいんだけど、相談に乗ってくれない?」

 「ああ、いいよ。今、行く。」

 シュラフの売り場へ行き、下に敷くマットも買う。

 「一度にたくさん買うと持ち帰りが重くなるから、今日の買い物はこれで終わり、今度は行く直前に買おうよ。」

 なんという心づかいができる人かと、感心し、ますます好意を寄せる。

 買った荷物のすべてを博さんが持ってくれ、家まで送ってくれる。

 だから、紗々は手ぶらで、帰宅できたのだが、帰宅時に父と居合わせてしまう。

 断った縁談相手の博さんを怪訝な眼で見る父。

 「小田原さん、これは一体どういうことなのでしょうか?ウチの娘と今後一切、近寄らないでもらいたい。このことは、小田原さんのお父上にも抗議しておきます。」

 「あ!違うの。お父さん、待って。」

 「ご挨拶が遅れて、申し訳ありません。お嬢さんともう一度、結婚を前提としたお付き合いをしたいと考えております。責任は取ります。ですから、今度お嬢さんと一緒に、山登りへ行く許可を頂きたいのです。」

 「私も、博さんと付き合いたいの。お願い、お父さん許して。」

 「へ?……、わかった。紗々がそう言うのなら、娘をよろしく頼む。ただし、一線は超えないでくれよ。」

 「はい。心得ております。」

 って、中学生かよ?内心思うが、なんとなく、紗々もガッカリした表情。

 要するに、最後の一線さえ、越えなければいいという話だと納得する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

置き去りにされた聖女様

青の雀
恋愛
置き去り作品第5弾 孤児のミカエルは、教会に下男として雇われているうちに、子供のいない公爵夫妻に引き取られてしまう 公爵がミカエルの美しい姿に心を奪われ、ミカエルなら良き婿殿を迎えることができるかもしれないという一縷の望みを託したからだ ある日、お屋敷見物をしているとき、公爵夫人と庭師が乳くりあっているところに偶然、通りがかってしまう ミカエルは、二人に気づかなかったが、二人は違う!見られたと勘違いしてしまい、ミカエルを連れ去り、どこかの廃屋に置き去りにする 最近、体調が悪くて、インフルの予防注射もまだ予約だけで…… それで昔、書いた作品を手直しして、短編を書いています。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

処理中です...