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17お見合い

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 「おかしい。いくら探しても学籍簿にも、サトウサクラの名前は出てこない。出てくるのは、佐倉桜の名前だけ。醜女と言うだけで、殺された被害者と何か接点があるのか?親族?彼女はいったい何者なんだ?あの身のこなし、素人にしては、できすぎている。」

 小田原博は、署長室で承認決済業務も行わず、うんうん唸っている。

 副署長が心配そうに中をのぞいているが、声はかけられない。

 どんな、とばっちりが待っているかわからないから。

 小田原博は、昨夜も自身の父親から結婚をせっつかれる。

 「俺の大学時代の後輩で、今、経産省の事務次官をしているものがいて、そいつの娘がなかなかの美形らしいぞ。一度、会ってみないか?」

 「結婚相手ぐらい自分で見つけるよ。」

 「そんなこと言ってていいのか?その娘、経産省の役人をしているんだが、美貌であるがゆえに独身の男どもが、わんさか群がっているそうだぜ。後輩の娘だから、わざわざねじ込んでやったものを、会うのも嫌だと伝えておくよ。」

 「わかった。わかった。一度、会うだけ会うよ。でも、気になる娘を見つけたから、もし、その娘と関係が進むようであれば、この話、蹴るよ?」

 「帝大卒であろうな?」

 「もちろん。」

 その話の手前、どうしても昨日の彼女を見つけ出さなければならない。

 でも、帝大の学籍簿、校友会名簿にも見当たらない。もしかすれば、どこかに養女に行った可能性もある。だから苗字ではなく、下のサクラという名前だけで、もう一度検索にかけるがヒットするのは、佐倉桜だけ。

 うーん。また振出しに戻る。

 次の日曜日までには、見つけ出したかったのだが、親父が言う美形に一度だけでも会うだけ会ってやろう。どうせ、佐倉鈴のように、美形と言うのは鼻持ちならないほど嫌な女なものだ。

 世界は自分のために回っているという勘違い女をギャフンと言わせてから、帰ろう。

 瞬く間に、1週間が経ち、見合い当日の日。

 赤坂の料亭で、見合いが行われるはずなのだが、相手の女がまだ来ていない。

 やっぱり、美人と言うものは鼻にかけ、他人を平気で待たすのだ。なんて、嫌な女だろう。会わずに帰ってやろうか?それとも、思いっきり、ブスと罵ってから、帰ろうと思う。

 両親も憤慨している。いくら美形でも、他人を待たすのに限度と言うものがある。

 次官の親父さんだろうが、慌てふためいて、ようやくやってきたのだ。親父さんが言うには、

 「先輩、お待たせしてすみません。娘に今日の見合いのことを言っていなくて、昨日から湘南の海へサーフィンに出かけてしまい、さっき、ようやく連絡がつき、こちらへ参っている次第でございます。今、しばらく、お待ちいただければ。不徳の致すところと言われれば、それまででございますが。」

 「いやいや。若い女性のすることに、いちいち目くじらは立てんよ。娘御は、マリンスポーツをしておるのか?よいではないか?陰気臭い顔をして、家に引っ込んでいるような女性よりは、健康的で実に素晴らしい。」

 結局、ウチの親父が美人の嫁が欲しいだけではないのか?息子をダシにして、美人嫁を連れて歩きたいだけなのかもしれない。

 「もうっ。帯が苦しい。吐きそう。」

 「お父さんの顔をつぶすような真似だけは控えてくださいね。」

 「わかってますわよ。どう、キレイ?」

 「ああ、十分すぎるほど、キレイですよ。」

 玄関が騒がしいと思っていたら、どうやら相手が到着したようだ。

 まったく、いつまで待たせやがって。先に謝罪がなければ、湯飲みの茶をぶっかけて、帰ってやろうと、湯飲みを握りしめる。

 仲居が「お連れ様がお越しになりました。」の声がかかる。

 慌てて、仲居に湯飲みの茶をぶっかけるところだった。

 最初、ふすまが下のほうから10センチほど開き、その後、上のほうに半分ぐらい開く、そして最後に全部開いたときは、扇子を前に出し、平身低頭で謝罪している振袖姿が目に飛び込んできた。

 「お待たせしてしまい、大変申し訳ございません。」

 「榊圭吾の娘、紗々と申します。」

 親父が「良い。良い。そんなとこで畏まらず、こちらへ座ってください。」手招きして、部屋の中央に座らせる。

 美形の顔を見た俺は、口をあんぐりと開け、居住まいを正すことも忘れていたのだ。

 「どうだ。博、美人だろ?」

 まさか、サトウサクラさんが、目の前に!
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