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13おばあちゃん

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 その夜、帰宅した佐藤の両親は、今朝がた、祖母の言っていた話が本当のことだったと謝罪する。

 いくら姿が代わっていても、そこにいるのは、まぎれもなく我が娘だったから、今は血がつながっていなくても肌で感じる。

 それに肉じゃがの味が娘だと語っている。

 佐藤の両親は、二人とも省庁務めだから、母は職場のお局の同期入省なもので、今の立場を言うと、笑って、

 「泰子らしいわ。あの人、相手を見て態度を替えるカメレオンってあだ名がついていたのよ。」

 「あのオバサン、まだいたの?上司に胡麻ばかり擦って、嫁の貰い手失くしちまったんだよな。」

 「紗々ちゃんは、誰か好い人いないの?」

 「んもうっ。まだ23歳よ、この間も今のお父さんから早く結婚を考えろって言われたばかりなのよ。」

 「今のお父さんと言えば……?」

 「事務次官よ。省内では、ずっとお母さんの苗字を使っていたから。笹沢紗々の時は気楽だったけど、休みの日はほとんど接待ばかりで忙しいって、神様に文句を言ったら、次官の娘にしてくれたのよ。」

 「「「???」」」

 「紗々ちゃん、神様に逢えるの?」

 「交差点で突き飛ばされ、涼森鈴の笑った顔を見ながら死んだはずなのに、気が付けば、神様の御店にいたのよ。肉体ブティックという名前だったかな?第三者から人生を捻じ曲げられた人の前にだけ出現する御店。このカラダは神様からの創造物で、天寿を全うするまで、死ねないカラダを頂きました。だから今の私は、元々誰でもない私。桜時代には存在しえなかったのよ。」

 「なんだか、よくわからない話だが、とにかくお帰り。」

 「う、うん、そうね。どんな形であろうと、私たちの元へ帰ってきてくれたんだもの、お帰りなさい。」

 「でも、お偉いさんは、ハナから自分たちの娘だと信じて疑う余地がないのだろう?」

 「そう。そこだけが問題なのよ。だから職場では、話を合わせてほしい。」

 「わかったわ。でも今日は泊って行ってね。」

 「ダメよ。今のお父さんは、そのあたりけっこう厳しいのよ。門限もあるし。」

 「じゃあ、お母さんが電話して了解を取るわ。それなら、いいでしょ?」

 さっさと佐藤の母が立ち、紗々の自宅に電話をする。紗々の母も元官僚だから、話が早い。

 その夜は、実家?桜の実家に泊ることになり、夜遅くまで昔話に弾み、久方ぶりの親子水入らずを楽しむ。

 次の日は、日曜日でまだ紗々はお休みなのだが、両親は接待に出かける。母と抱擁していたら、父が羨ましそうな顔をする。父も抱きしめてあげたいけど、今は桜のカラダではない。紗々のカラダで抱き着けば、セクハラになりかねない。

 だから父とは握手だけで、別れる。

 寂しそうにしていた父の顔がパァっと明るくなり、嬉しそうに手を放してくれない。

 それを母が窘め、ようやく出発していった。後姿を見送る紗々と祖母。振り返って、いつまでも手を振り続ける両親の姿に涙があふれる。

 こんな温かい両親のもとで育てられ、幸せだったのだと感じる。

 「あたしにもさ、あのハグって言うのだか何だか知らないけど、ギュってしておくれよ。」

 「え?こう?」

 紗々が、祖母の背に手を回すと、祖母は抱きしめるというよりぶら下がるような格好で、しがみついてくる。そして、

 「もう、どこにも行かないでおくれ。頼むからさ。」

 祖母の背中をポンポンと叩く。

 「おばあちゃん、今日は私と一緒にお買い物にでも、行きましょうか?」

 「へ?買い物なら、昨日スーパーへ行ったよ。」

 「ううん、そっちのお買い物ではなくて、ファッションを見ましょうよ。ウインドウショッピングになるかもしれないけど、冷やかしで各お店を見て回って、お茶して、美味しいものを食べて帰りましょう。」

 「また孫とそう言うことができる日が来るとは。ありがたや。ありがたや。」
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