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9復讐
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鈴の裁判が始まっても、鈴は被害者に対し、反省の言葉はなく、被害者をブスと罵る弁しかない。
傍聴に来ている旦那の裕介は、肩身が狭く、ただただ俯くしかない。
裁判所から出れば、記者たちに取り囲まれ、
「前の奥さんを殺した犯人が、鈴だとわかった時は、どう思われましたか?」
「離婚は考えておられませんか?」
「鈴に騙されたと思っていますか?」
喧騒の中、考える。
確かに鈴は、桜の持ち物を、裕介を含めことごとく欲しがり奪うことに成功したかのように見えるが、実際は、裕介から、桜と言う良妻を奪われてしまったことに気づく。
「そうだ、あの女のせいだ。俺から何もかも奪い去ってしまった。仕事も愛する妻も、何もかもだ。憎い。鈴が憎い。」
裕介の追加懲戒は、北海道の離島に飛ばされることになったのだ。自らの退職を勧める狙いがあったのだが、桜との離婚で無一文となった今、鈴の裁判費用を捻出するのに、一苦労している。
世間がこんなに騒いでいるのに、転職活動をしたところで、どこも雇ってくれるところがない。
おまけに、鈴出演のAVビデオ「毒婦の喘ぎ」が出回り、本社に居場所が完全になくなってしまったから、島流しでもどこでも行くしかなかったのだ。
引っ越しの用意をして、久しぶりに居酒屋の暖簾をくぐると、以前出会ったOLの紗々と再会する。
紗々は、連休前までは、妻の鈴とよく一緒に出掛けていたのだが、連休明けから仕事が忙しくなり、めっきりと会う機会を失っていたのだ。
「このたびは、大変でしたね。まさか、あんなにお幸せそうだった鈴さんが……、あんなことをするなんて、信じられませんわ。きっと、誰にも分らないような心の闇があったのかもしれませんね。」
「ありがとう。だれでも闇をもっていますよ、それを押さえきれなかったのは、すべて鈴のせいです。俺と出会ってから少し、甘やかせすぎたと反省しています。亡き妻を守り切れなかった最低の男なんですよ、俺は。今から思えば、鈴のどこが良かったのかも思い出せないのです。思い出すのは、亡き妻のことばかり。あ!女々しいですね。ごめんなさい。」
「そんなこと……、昔から罪を憎んで人を憎まずと、よく言うではありませんか?」
紗々は、グラスのビールを一気に呷り、もう裕介への復讐は終わったと感じる。
「これからどちらへ?」
「北の離島です。もし、北海道へ来られるようなことがありましたら、連絡ください。美味しい店を開拓しておきますよ。」
最後は、笑って手を振り、別れる。
さようなら。もう二度と私の前に現れないで。
「お嬢さん!」
振り向くと、見たこともない男?誰?
「へ?」
「佐々船事務次官のお嬢様ですよね?」
「は?」
「隠したって、ダメですよ。昨年、同じ部署にいたでしょ?俺ですよ。俺。鳴戸成人(なるとなると)です。」
「ああ。」
知らない。でも口裏だけは合わせておかないと、
「やっぱり、思い出してくれたんですね。紗々ちゃんのこと、昨年から可愛いと思っていたけど、その時は偽名使っていたから、わからなかったんだよね?」
「別に偽名じゃないけど?」
「わかってますってば、事務次官の娘だと知れたら、特別扱いされるからって、お母さんの苗字を名乗っていたってことは。そういう謙虚なところがいいんだよな。」
女神様が言っていた男ってのは、こいつか?
「田園調布まで、送っていくよ。女性の夜道に一人歩きは危ないからね。」
「いいえ、結構ですわ。それに鳴戸さんには、彼女さんがいらっしゃったではありませんか?私、彼女さんを泣かせるような男性は嫌いですし、興味がありませんわ。」
「あはは。あの女とは、もう別れましたよ。だから今はフリーなのです。」
「だから、次から次へと女を乗り捨てるような男性は、嫌いなのよ。」
「紗々ちゃんって、自意識過剰なんだな。俺はただ送っていくと言っただけだよ。それをそんな風に取ってくれるだなんて、光栄だな。俺を男として見てくれていると言っているようなものだぜ?」
「悪い冗談は不愉快なだけですわ。失礼。」
通りすがりのタクシーを止めて、さっさと乗り込む。
傍聴に来ている旦那の裕介は、肩身が狭く、ただただ俯くしかない。
裁判所から出れば、記者たちに取り囲まれ、
「前の奥さんを殺した犯人が、鈴だとわかった時は、どう思われましたか?」
「離婚は考えておられませんか?」
「鈴に騙されたと思っていますか?」
喧騒の中、考える。
確かに鈴は、桜の持ち物を、裕介を含めことごとく欲しがり奪うことに成功したかのように見えるが、実際は、裕介から、桜と言う良妻を奪われてしまったことに気づく。
「そうだ、あの女のせいだ。俺から何もかも奪い去ってしまった。仕事も愛する妻も、何もかもだ。憎い。鈴が憎い。」
裕介の追加懲戒は、北海道の離島に飛ばされることになったのだ。自らの退職を勧める狙いがあったのだが、桜との離婚で無一文となった今、鈴の裁判費用を捻出するのに、一苦労している。
世間がこんなに騒いでいるのに、転職活動をしたところで、どこも雇ってくれるところがない。
おまけに、鈴出演のAVビデオ「毒婦の喘ぎ」が出回り、本社に居場所が完全になくなってしまったから、島流しでもどこでも行くしかなかったのだ。
引っ越しの用意をして、久しぶりに居酒屋の暖簾をくぐると、以前出会ったOLの紗々と再会する。
紗々は、連休前までは、妻の鈴とよく一緒に出掛けていたのだが、連休明けから仕事が忙しくなり、めっきりと会う機会を失っていたのだ。
「このたびは、大変でしたね。まさか、あんなにお幸せそうだった鈴さんが……、あんなことをするなんて、信じられませんわ。きっと、誰にも分らないような心の闇があったのかもしれませんね。」
「ありがとう。だれでも闇をもっていますよ、それを押さえきれなかったのは、すべて鈴のせいです。俺と出会ってから少し、甘やかせすぎたと反省しています。亡き妻を守り切れなかった最低の男なんですよ、俺は。今から思えば、鈴のどこが良かったのかも思い出せないのです。思い出すのは、亡き妻のことばかり。あ!女々しいですね。ごめんなさい。」
「そんなこと……、昔から罪を憎んで人を憎まずと、よく言うではありませんか?」
紗々は、グラスのビールを一気に呷り、もう裕介への復讐は終わったと感じる。
「これからどちらへ?」
「北の離島です。もし、北海道へ来られるようなことがありましたら、連絡ください。美味しい店を開拓しておきますよ。」
最後は、笑って手を振り、別れる。
さようなら。もう二度と私の前に現れないで。
「お嬢さん!」
振り向くと、見たこともない男?誰?
「へ?」
「佐々船事務次官のお嬢様ですよね?」
「は?」
「隠したって、ダメですよ。昨年、同じ部署にいたでしょ?俺ですよ。俺。鳴戸成人(なるとなると)です。」
「ああ。」
知らない。でも口裏だけは合わせておかないと、
「やっぱり、思い出してくれたんですね。紗々ちゃんのこと、昨年から可愛いと思っていたけど、その時は偽名使っていたから、わからなかったんだよね?」
「別に偽名じゃないけど?」
「わかってますってば、事務次官の娘だと知れたら、特別扱いされるからって、お母さんの苗字を名乗っていたってことは。そういう謙虚なところがいいんだよな。」
女神様が言っていた男ってのは、こいつか?
「田園調布まで、送っていくよ。女性の夜道に一人歩きは危ないからね。」
「いいえ、結構ですわ。それに鳴戸さんには、彼女さんがいらっしゃったではありませんか?私、彼女さんを泣かせるような男性は嫌いですし、興味がありませんわ。」
「あはは。あの女とは、もう別れましたよ。だから今はフリーなのです。」
「だから、次から次へと女を乗り捨てるような男性は、嫌いなのよ。」
「紗々ちゃんって、自意識過剰なんだな。俺はただ送っていくと言っただけだよ。それをそんな風に取ってくれるだなんて、光栄だな。俺を男として見てくれていると言っているようなものだぜ?」
「悪い冗談は不愉快なだけですわ。失礼。」
通りすがりのタクシーを止めて、さっさと乗り込む。
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