婚約破棄された公爵令嬢は、恋敵の娘に転生する

青の雀

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18 時空

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 クリスティーヌは、ベルサイユに留まらず、サンドラ王都に帰るつもりだったのに、父アントワネット公爵が必死に引き留める。

 だって、これからフランツ様とお茶会しなきゃ、お互いのことを理解し合うためにもお茶会は必要です。

 まだ、10歳なんだから、父が心配しているような不埒な関係にはならないっつうの。

 兄とお義姉様は、もう何度もお茶会をなさっているというのに、わたくしとフランツ様はなかなかできないでいる。いつまで子離れしないつもりなのかしらね。

 ベルサイユの大使館に開いた異空間通路を通って、お母様が呆れて迎えに来られた。

 「あなた!いつまでクリスティーヌを独り占めなさるおつもりですか?んもうっ!男親というのは、往生際が悪いですわね。婚約したからと言って、結婚するまでには、まだまだ時間がかかりましてよ。」

 母に叱られ、渋々クリスティーヌの手をはなす。その手をすかさず、母が握りしめ、異空間通路へ連れていかれたのである。

 さみしそうな父の顔に心が痛む。でも、前々世、前々前々世は、あんな顔一度もしていなかったように思う。やはり5歳の時に決まってしまったから、諦めもあったのだろう。

 それに相手が王家だったからかもしれない。

 それからしばらくは平穏で幸せな日々が続く、1週間に一度のお茶会は楽しみで。お茶にお菓子よりもフランツ様と会えるだけで良かった。

 ベルサイユ国の王が危篤だから、と父から連絡があっても「へー」と自分とは、何も関係がないと信じていたのだが。

 「クリスティーヌ、どうしてもお前に診立ててほしいとおっしゃっているのだが。」

 「えー、わたくしはお医者ではございませんから。そのような死にかけの病人を診ても何もわかりませんことよ。」

 「ベルサイユには、古くからの言い伝えがあってな、異国の少女が死の淵にいる老人を救う?みたいな、その異国の少女がクリスティーヌだと言われてな、反論できないのだよ、父さんも。」

 「違うって言えばいいじゃない?」

 「それがな、フランツ殿の母御がベルサイユ国出身者なのだよ。クリスティーヌから見れば、将来の姑さんになるわけだろ?」

 「はぁ……めんどくさい。じゃ、一回診て、手遅れです。っていうだけでいいのね?」

 「そういうことだ。クリスティーヌが引導を渡してやってくれ。」

 王の診立てには、フランツとお義母様(将来の姑様)も同行してくださることになり、少しだけだけど心強い。

 王都の異空間通路を通り、ベルサイユ国入りする3人。

 「クリスちゃん、本当に聖女様みたい。サンドラからベルサイユまで3歩。」

 「このことは、くれぐれも内密でお願いします。」

 父とともに、4人で馬車に乗り込み、お城へ向かう。

 途中の街並みがきれいで、至る所にバラの花が咲き誇っている。ここなら父と共にしばらく住んでも良かったのかもしれないとちょっと思ったけど、内緒である。

 馬車がお城のロータリーに着き、フランツ様が先に降り、クリスティーヌの手を取りエスコートしてくださる。お義母様は、御者がエスコートしている。

 国王陛下の私室にまで、案内されることになったのである。

 馬車の中から、街並みを見ても思ったが、お城の中には大理石の壁に絵画に彫刻が飾られていて、この国は文化芸術の国であるということがうかがい知れる。

 前世や前々前世に住んでいたサンドラ城とは、少し違った趣に見える。

 クリスティーヌ達が、廊下を進んでいるとき、ひそひそと話し声が聞こえる。知らない間に遠耳の魔法が発動していて、聞きたくもない話をさんざん聞かされる羽目になる。

 そして水面下では次期国王を誰にするかで、揉めているような気配。

 話の断片的な内容からすると、王太子派と第2王子派、それに国王陛下の弟殿下の三つ巴の争いになっているようだ。3人とも、次期国王に意欲的でそれぞれに足の引っ張り合いをしているようである。

 表面的には穏やかな平和な国に見えるベルサイユでも、いつの時代でもこの権力闘争をかわらず、どこの国でもやっているというものだ。

 ベルサイユ陛下は、もう虫の息で素人目からしても、助からない状態であった。

 クリスティーヌは、おざなりの診立てをして、豪華な天蓋付きベッドから離れようとしたとき、急に時空が歪んだような感じになったのである。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



  {え?うそ?}

 「入電!本日、13時27分自宅階段で転倒、65歳男性狭心症の発作あり。意識レベル、クリア」

  {は?なに?}

 その場にいる人達が急に慌ただしく動き回っている。

 誰もクリスティーヌの存在に気を留めていない。というより、存在自体が見えないようである。

 ピーポーピーポー、ピーポーピーポー。遠くから妙に懐かしいような音が聞こえてくると思ったら、近づいてきて急に止まる。

 担架?ストレッチャー?に乗せられた男性、よく見ると国王陛下に見える!

  {え?なんで、ベルサイユ陛下がここにいるの?}

 「ワン、ツー、スリーッ!」

 担架から、ベッドに移し替えられる陛下。

 「バイタルサイン血圧240!脈拍125!血中酸素量84!体温35.8度!呼吸数……。」

  {陛下はわたくしの過去へさかのぼる魔法で連れてきてしまったのかしら?ということは、ここはわたくしの過去?前々前々世よりも前の過去?}

 中でも一人30歳ぐらいだろうか?クリスティーヌの母、ヴィクトリアぐらいの年齢の人がテキパキと指示を出しながら、動いている。平べったい顔、目はほとんど横線が2つあるのみ、開いているのか瞑っているのかさえ理解不能である。(-_-)

 「これより、緊急手術を行います。麻酔の用意と父を呼んできて!」

  {しゅじゅつとは?なんぞや?高額のため、見よう。}

 手術室と書かれた部屋のサインが赤く灯る。

 陛下の左手首を柔らかい管のようなもので縛る。それを洗濯ばさみのようなもので押さえる。

 クリスティーヌは見たこともない処置に目を丸くするばかり。そして薄い板に映像?これが陛下の体の中というのかしら?が映し出される。

 30歳ぐらいの女性が主導で手術をしている。のだろう、たぶん。

 そして、おそらくこの女性が、クリスティーヌの過去?

 「思ったより、侵攻しているわね。今、手術をしなければ、1時間もしないうちに死んでいたわ。間に合ってよかった。」

 手術は成功したようだ。その女性は付属の洗面台で手を入念に洗っている。

 「先生、お疲れ様です。」

 「麻酔が切れたら、呼んで。部屋に戻るわ。」

 女性の部屋は白を基調として、スッキリとした部屋で入ってすぐに、やはり白い応接セットが置かれていた。

 「いるんでしょう?出てきて。」

 「わたくしがわかるのですか?」

 「ええ、なんとなくだけどね。あなたは私の未来の姿なのよ。他の人には見えないみたいだから、きっと私の未来から来た人なんだと思う。」

 「……。」

 「ああ、一応自己紹介するわね。私の名前は藤堂加奈子、この財団法人藤堂病院の院長をしています。父も医師で理事長をしています。夫がつい先ごろまでいたんだけど、浮気されちゃって相手に子供までできたから、離婚して追い出したのよ。それで今は私が院長をやっているというわけ。」

 「わたくしの名前は、クリスティーヌ・アントワネット、サンドラ王国の公爵令嬢でございます。本日は、父が大使をしています赴任先のベルサイユ国の国王陛下の謁見を頼まれまして、ベルサイユの寝室にお邪魔しておりました。」

 不思議なことに、サンドラ護で喋っても日本語が通じた。

 「ふーん、サンドラにベルサイユ?地球ではない異世界へ転生してしまったってことね?」

 「ちきゅう???」

 「まぁ、いいわ。続けて……。」

 クリスティーヌは、今世が5度目の人生で何度も転生をしていること、曽祖父が魔法師団長をしていて、家に魔法書の蔵書があったことなどを、時系列に順を追って話していく。

 「へぇ、私が魔法使いになるなんてね。クリスティーヌも苦労をしたのね。過去の魔法があるということは、未来の魔法もあるというわけね?はぁ……、じゃ今度、頼んでみようかしらね。私は医学しか取り柄がない女だけど、私で役立てることがあれば、何でも言ってね。」

 その時、扉のノック音が聞こえた。陛下が目を覚まされたようだが、陛下にはどのように見えるのだろうか?

 陛下には、そこが自室にしか見えていないようで、

 「おお!帥がアントワネット大使のクリスティーヌ嬢か?噂にたがわぬ美貌の持ち主であるな。帥が儂の命の恩人なのか?」

 ふと、横を見ると加奈子さんが頷いている。

 「はい、左様でございます。わたくしの秘術の魔法で陛下の命を取り留めましてございます。おそれながら、陛下は、私の到着が後1時間遅れておりましたら、もうこの世にはいらっしゃらなかったでしょう。」

 「それは、大儀であった。褒美を取らせよう。望みのものはあるか?金貨でも宝石でも、爵位でも、何なりと申せ。」

 クリスティーヌは病院のお支払いもあるから、金貨がいいか?宝石がいいか?考える。

 加奈子さんは、どっちでもいいという顔をされている。結局、1日入院されて、翌日退院となる。

 その間に、加奈子さんとは、あれこれ5度の人生や加奈子さん自身のことをいろいろ聞く。そして、加奈子さんの病院内のお部屋にできるかどうかわからないけど、異空間時空通路を作り、いつでも行き来できるようにした。だって、まだまだ喋り足らないことがありすぎるから。

 もし、この通路を前々前々世のクリスティーヌの部屋に仕掛けることができたら、4度も転生することがなかったのであろうか?ずっと過去の加奈子さんに出会えたのだから、いつか前々前々世のクリスティーヌに出会える時があるかもしれない。でも、そうなると今のクリスティーヌは存在しなくなるわけで、どうすればいいのだろう?

 翌日の朝は、過去から戻ることにして、陛下は昨日の夕食も今日の朝食もぺろりといただかれた。

 そして、現在のベルサイユ陛下の私室に戻ってきたのである。

 急に顔色が良くなった国王陛下に周りの者たちは、驚いている。クリスティーヌが陛下のベッドに近づいて、1分足らずの時間しか経過していないらしい。

 やはりクリスティーヌ様は聖女様なのだろうか?

 クリスティーヌは、陛下の耳元で、

 「昨日、わたくしが行いました秘術は、ご内聞に。」

 「うむ。わかっているわい。この左手首が証拠だな。」

 そう言って、ウィンクされる陛下は茶目っ気たっぷりだ。

 突如の全快ぶりと以前よりも増しての健康ぶりに、3人の次期国王候補者たちは、ガックリと肩を落とす。
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