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9 鱧落とし
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今日は、朝からうつろです。なんといってもアントニオ様との失恋のショックが大きく、ジャマルダ国の国王陛下だと聞けば、ため息しか出せない相手であったのだから。
あれから、ディヴィッド様は度々来られて、コーヒーを飲まれて世間話をしていかれます。
「本日のお料理」は焼き魚定食に決まりました。さんま、さば、前世ならグリルがあったから簡単だったけど、七輪で火を起こして団扇でパタパタしながら、焼いていきます。ついでだから、鮭やイカも焼くことにする。鮭は中に菌を持っているので、生のところがないように焼きます。
鱧も手に入ったのだが、骨切りが難しい。骨切りしたものを念じてみたら、手に入ったので、照り焼きと落としを作ります。
鱧落としは、京都の夏の風物詩、祇園祭の頃によく食べられます。
骨切りが済んだ鱧(スーパーなどに普通に売っている。)を1寸ぐらいの大きさに包丁で切り、それを熱湯がぐらついているところに入れる。ガスを切って、鍋ごと冷水(氷水が良い)に落とすから、鱧落としと言われます。あとは、水切りして梅肉ソースで食べるだけ。
あっさりしていて、とても美味しいです。これは冷酒と合います。
鍋ごとって、書きましたが、鍋の中身の意味ですからね。取っ手が付いているざるを使って湯がいた方が簡単かもしれません。
お湯の中に入れると、鱧の身は花が開いたようになります。そして、取っ手のざるごと氷水に落とすと身がしまります。
というわけで今日は海鮮づくしってことで。
ビールも冷酒も売れそうね。煮付けたら、日本酒の熱燗も行けそう。いろいろやってみよう。失恋の時は、働いて気を紛らわせるのが一番である。
相変わらず、ディヴィッド様は、チョロチョロしているけど、こればっかりは代りが効くというものでもない。
アントン様の穴はディヴィッド様では埋められない。
暗くなりがちな気持ちを奮い立たせるため、お刺身も作ることにする。この世界、生の魚など食べないだろうから、ワサビをたくさん用意して、今からすりおろします。お刺身も日本酒と合うのよね。
ディヴィッド様も機嫌よく帰られた後、また、姉が来た。もう、ほとんど毎晩来るから、お城のほうはいいの?と言いたいぐらい。
「ミルフィーユちゃん、ディヴィッド様と婚約話があるんだけど、どうする?」
「え?今は、無理です。」
「どうして?ディヴィッド様は乗り気でいらっしゃるわよ。すぐにでもミルフィーユちゃんを連れて帰りたいっておっしゃってくださっているのに。」
一度も愛の言葉を仰ってくださらないのは、どうして?まずは外堀から埋める気?
前世からも、あまりこういうやり方は好きじゃない。男なら正々堂々と正面からぶつかってきなさいよ!
「はっきり、お断りします。ディヴィッド様のことは恋愛対象ではありません。」
「ええ?ミルフィーユちゃんなんてことを!この国に生まれたならば、まして公爵家の娘として生まれたからは、政略で結婚するのが当たり前でしょう。それを恋愛だなんて、はしたない!」
「だって、わたくしには一言も愛の言葉を囁いてくださらないのですもの。そんな殿方とは、不安で結婚できません。お義兄様だって、結婚前は、愛の言葉を囁いてくださったでしょう?」
「まあそうね。ブライアン様はいつでも、愛している。とおっしゃってくださっていた、今でもだけど。まさか一度もディヴィッド様はおっしゃってくださらないの?」
「ええ。そんな素振りも見たことがありませんわ。」
「それはちょっと困ったものね。それならミルフィーユちゃんが不安になるのも無理ないわね。」
「婚約以前の問題でしょ?ウィリアム様は婚約していた時は、いつだって顔を合わせたら愛している。と言ってくれていたのよ。あのウィリアム殿下でさえ、ちゃんと言ってくれていたのに。ディヴィッド様はただのお客様でしかありません。お客様として来られているのだから、愛想よく、もてなしているだけでございます。それを何か勘違いなさっているのでは、ありませんか?わたくしには、そうとしか思えないのです。」
「確かに、言えてるわね。一度、ブライアン様にこのことを相談してみるわ。きっと、ブライアン様なら、いいように解決してくださると思うの。それより、あの紅茶のゼリー、評判良かったわ。とても美味しいって。口の中がさっぱりするって。次のお茶会もまた、作ってね。みんな楽しみにしているのよ。」
やれやれ、なんだかんだ言っても姉は頼りになるわ。いつだって、わたくしの味方を最後の最後になればしてくれる。だから、わたくしもお茶会の件、無理難題言われても飲んでしまうのだけどね。
あれから、ディヴィッド様は度々来られて、コーヒーを飲まれて世間話をしていかれます。
「本日のお料理」は焼き魚定食に決まりました。さんま、さば、前世ならグリルがあったから簡単だったけど、七輪で火を起こして団扇でパタパタしながら、焼いていきます。ついでだから、鮭やイカも焼くことにする。鮭は中に菌を持っているので、生のところがないように焼きます。
鱧も手に入ったのだが、骨切りが難しい。骨切りしたものを念じてみたら、手に入ったので、照り焼きと落としを作ります。
鱧落としは、京都の夏の風物詩、祇園祭の頃によく食べられます。
骨切りが済んだ鱧(スーパーなどに普通に売っている。)を1寸ぐらいの大きさに包丁で切り、それを熱湯がぐらついているところに入れる。ガスを切って、鍋ごと冷水(氷水が良い)に落とすから、鱧落としと言われます。あとは、水切りして梅肉ソースで食べるだけ。
あっさりしていて、とても美味しいです。これは冷酒と合います。
鍋ごとって、書きましたが、鍋の中身の意味ですからね。取っ手が付いているざるを使って湯がいた方が簡単かもしれません。
お湯の中に入れると、鱧の身は花が開いたようになります。そして、取っ手のざるごと氷水に落とすと身がしまります。
というわけで今日は海鮮づくしってことで。
ビールも冷酒も売れそうね。煮付けたら、日本酒の熱燗も行けそう。いろいろやってみよう。失恋の時は、働いて気を紛らわせるのが一番である。
相変わらず、ディヴィッド様は、チョロチョロしているけど、こればっかりは代りが効くというものでもない。
アントン様の穴はディヴィッド様では埋められない。
暗くなりがちな気持ちを奮い立たせるため、お刺身も作ることにする。この世界、生の魚など食べないだろうから、ワサビをたくさん用意して、今からすりおろします。お刺身も日本酒と合うのよね。
ディヴィッド様も機嫌よく帰られた後、また、姉が来た。もう、ほとんど毎晩来るから、お城のほうはいいの?と言いたいぐらい。
「ミルフィーユちゃん、ディヴィッド様と婚約話があるんだけど、どうする?」
「え?今は、無理です。」
「どうして?ディヴィッド様は乗り気でいらっしゃるわよ。すぐにでもミルフィーユちゃんを連れて帰りたいっておっしゃってくださっているのに。」
一度も愛の言葉を仰ってくださらないのは、どうして?まずは外堀から埋める気?
前世からも、あまりこういうやり方は好きじゃない。男なら正々堂々と正面からぶつかってきなさいよ!
「はっきり、お断りします。ディヴィッド様のことは恋愛対象ではありません。」
「ええ?ミルフィーユちゃんなんてことを!この国に生まれたならば、まして公爵家の娘として生まれたからは、政略で結婚するのが当たり前でしょう。それを恋愛だなんて、はしたない!」
「だって、わたくしには一言も愛の言葉を囁いてくださらないのですもの。そんな殿方とは、不安で結婚できません。お義兄様だって、結婚前は、愛の言葉を囁いてくださったでしょう?」
「まあそうね。ブライアン様はいつでも、愛している。とおっしゃってくださっていた、今でもだけど。まさか一度もディヴィッド様はおっしゃってくださらないの?」
「ええ。そんな素振りも見たことがありませんわ。」
「それはちょっと困ったものね。それならミルフィーユちゃんが不安になるのも無理ないわね。」
「婚約以前の問題でしょ?ウィリアム様は婚約していた時は、いつだって顔を合わせたら愛している。と言ってくれていたのよ。あのウィリアム殿下でさえ、ちゃんと言ってくれていたのに。ディヴィッド様はただのお客様でしかありません。お客様として来られているのだから、愛想よく、もてなしているだけでございます。それを何か勘違いなさっているのでは、ありませんか?わたくしには、そうとしか思えないのです。」
「確かに、言えてるわね。一度、ブライアン様にこのことを相談してみるわ。きっと、ブライアン様なら、いいように解決してくださると思うの。それより、あの紅茶のゼリー、評判良かったわ。とても美味しいって。口の中がさっぱりするって。次のお茶会もまた、作ってね。みんな楽しみにしているのよ。」
やれやれ、なんだかんだ言っても姉は頼りになるわ。いつだって、わたくしの味方を最後の最後になればしてくれる。だから、わたくしもお茶会の件、無理難題言われても飲んでしまうのだけどね。
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