前世調理師の婚約破棄された公爵令嬢料理人録 B級グルメで王太子殿下の胃袋を掴めるように頑張ります!

青の雀

文字の大きさ
上 下
9 / 18

9 鱧落とし

しおりを挟む
 今日は、朝からうつろです。なんといってもアントニオ様との失恋のショックが大きく、ジャマルダ国の国王陛下だと聞けば、ため息しか出せない相手であったのだから。

 あれから、ディヴィッド様は度々来られて、コーヒーを飲まれて世間話をしていかれます。

 「本日のお料理」は焼き魚定食に決まりました。さんま、さば、前世ならグリルがあったから簡単だったけど、七輪で火を起こして団扇でパタパタしながら、焼いていきます。ついでだから、鮭やイカも焼くことにする。鮭は中に菌を持っているので、生のところがないように焼きます。

 鱧も手に入ったのだが、骨切りが難しい。骨切りしたものを念じてみたら、手に入ったので、照り焼きと落としを作ります。

 鱧落としは、京都の夏の風物詩、祇園祭の頃によく食べられます。
 骨切りが済んだ鱧(スーパーなどに普通に売っている。)を1寸ぐらいの大きさに包丁で切り、それを熱湯がぐらついているところに入れる。ガスを切って、鍋ごと冷水(氷水が良い)に落とすから、鱧落としと言われます。あとは、水切りして梅肉ソースで食べるだけ。

 あっさりしていて、とても美味しいです。これは冷酒と合います。
 鍋ごとって、書きましたが、鍋の中身の意味ですからね。取っ手が付いているざるを使って湯がいた方が簡単かもしれません。
 お湯の中に入れると、鱧の身は花が開いたようになります。そして、取っ手のざるごと氷水に落とすと身がしまります。

 というわけで今日は海鮮づくしってことで。
 ビールも冷酒も売れそうね。煮付けたら、日本酒の熱燗も行けそう。いろいろやってみよう。失恋の時は、働いて気を紛らわせるのが一番である。

 相変わらず、ディヴィッド様は、チョロチョロしているけど、こればっかりは代りが効くというものでもない。

 アントン様の穴はディヴィッド様では埋められない。

 暗くなりがちな気持ちを奮い立たせるため、お刺身も作ることにする。この世界、生の魚など食べないだろうから、ワサビをたくさん用意して、今からすりおろします。お刺身も日本酒と合うのよね。

 ディヴィッド様も機嫌よく帰られた後、また、姉が来た。もう、ほとんど毎晩来るから、お城のほうはいいの?と言いたいぐらい。

 「ミルフィーユちゃん、ディヴィッド様と婚約話があるんだけど、どうする?」

 「え?今は、無理です。」

 「どうして?ディヴィッド様は乗り気でいらっしゃるわよ。すぐにでもミルフィーユちゃんを連れて帰りたいっておっしゃってくださっているのに。」

 一度も愛の言葉を仰ってくださらないのは、どうして?まずは外堀から埋める気?
 前世からも、あまりこういうやり方は好きじゃない。男なら正々堂々と正面からぶつかってきなさいよ!


 「はっきり、お断りします。ディヴィッド様のことは恋愛対象ではありません。」

 「ええ?ミルフィーユちゃんなんてことを!この国に生まれたならば、まして公爵家の娘として生まれたからは、政略で結婚するのが当たり前でしょう。それを恋愛だなんて、はしたない!」

 「だって、わたくしには一言も愛の言葉を囁いてくださらないのですもの。そんな殿方とは、不安で結婚できません。お義兄様だって、結婚前は、愛の言葉を囁いてくださったでしょう?」

 「まあそうね。ブライアン様はいつでも、愛している。とおっしゃってくださっていた、今でもだけど。まさか一度もディヴィッド様はおっしゃってくださらないの?」

 「ええ。そんな素振りも見たことがありませんわ。」

 「それはちょっと困ったものね。それならミルフィーユちゃんが不安になるのも無理ないわね。」

 「婚約以前の問題でしょ?ウィリアム様は婚約していた時は、いつだって顔を合わせたら愛している。と言ってくれていたのよ。あのウィリアム殿下でさえ、ちゃんと言ってくれていたのに。ディヴィッド様はただのお客様でしかありません。お客様として来られているのだから、愛想よく、もてなしているだけでございます。それを何か勘違いなさっているのでは、ありませんか?わたくしには、そうとしか思えないのです。」

 「確かに、言えてるわね。一度、ブライアン様にこのことを相談してみるわ。きっと、ブライアン様なら、いいように解決してくださると思うの。それより、あの紅茶のゼリー、評判良かったわ。とても美味しいって。口の中がさっぱりするって。次のお茶会もまた、作ってね。みんな楽しみにしているのよ。」

 やれやれ、なんだかんだ言っても姉は頼りになるわ。いつだって、わたくしの味方を最後の最後になればしてくれる。だから、わたくしもお茶会の件、無理難題言われても飲んでしまうのだけどね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

処理中です...