ポンコツ聖女と呼ばないで

青の雀

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5.サラシア国2

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 その頃、サラシアと国境線を隣接している各国は、サラシアのバカ王太子が魔女に誑かされ、聖女様を追放したことが噂として知れ渡っている。

 サラシアでは、土砂の雨が降りやまず、収穫間近だった作物も全滅し、飢えと貧困、病苦に悩まされ、隣国を目指す前に、死に絶えていく現状を前になすすべがない。

 すべては、魔女セレンティーヌが聖女様を蔑ろにして、王太子を唆し聖女様を排除しようとしたことから始まる。もう、誰もジェニファーを「ポンコツ」とは呼ばない。

 聖女様の加護のおかげで、日々の暮らしが成り立っていたことを改めて感謝し、悔悟するも、もう聖女様は戻ってこられないことを悟っている。

 ジェニファーが暮らしていた協会は、かろうじて現状をとどめているが、人々を支援するには至らない。

 ジェニファーには、粗末なものしか与えていなかった食糧が底をつきかけ、ジェニファーに渡すべき婚約破棄の違約金や今までため込んできた宝石の小粒を持ち出し、早々に司祭は逃げ出したが、途中、土砂の雨に阻まれ、従者を見捨てて、教会に舞い戻り引きこもりを続けている。

 司祭が懸命に神の怒りを鎮めようと祈るも、怠惰に肥えすぎているカラダでは、到底、祈りは届かない。

 教会にいる他の者にやらそうとしても、皆、どんぐりの背比べで祈りは通じない。

 「クソッ。今度、ジェニファーを見つけ出せば、もう二度と外へ出られないように部屋にカギをかけてやる!フィリップとも、二度と婚約させない。」

 その声が天に届いたかのように、今まで一度もぶち当たっていなかった大きな石の塊や小さい岩、徐々に破壊力が大きなものが天から降ってくるようになり、教会は、地下室のいつもジェニファーが閉じ込められていた部屋を残し、すべて倒壊してしまう。

 ジェニファーが暮らしていた部屋だけは、泥水も入らず清浄なまま、まだしばらくジェニファーの魔力の残りがあるようにうっすらと明るかった。

 「なんで、あんないい娘をみんなして、追い出したのだ?もう、天罰が当たって当然だと言えるな。」

 教会を頼り、運び込まれた病人やけが人の病室にあてられることになるが、治癒魔法を使える者がいない。すべての仕事をジェニファーに押し付けていたツケが回ってくる。

 教会の地下室は、泥水が入ってこないというだけで、重宝される。しかし、「ポンコツ」は聖女様以外の教会の奴らだということがわかり、非難ゴウゴウになり、一人、また一人と教会から出て行かざるを得なくなってしまう。

 そして、国王もこの国を統治することができなくなる。

 聖女様追放の責任は、誰も取らないまま、しいて言えば、セレンティーヌが魔女の疑いをかけられ処刑されたことで終わりとなる。

 まもなく、サラシア国には、人っ子一人いなくなり、全員は死に絶えた。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 その頃、ジェニファーは、というとサラシア国の惨状を知らずに、アンドロメダ国の再興に尽力していた。

 いまでは、神獣ヴァルバガンドに頼らずとも、食糧にありつけることになり、大満足している。

 それに国に住む人はすべて親切だ。誰もジェニファーの悪口を言う者もいないつい1か月ぐらいまでは、毎日「ポンコツ」呼ばわりされていたことが嘘みたい。

 会う人すべてがジェニファーを尊敬の眼で見て、接してくれることが心地よい。

 ジェニファーの毎日の仕事は、朝起きて、朝食前にこの国の安寧を願う祈祷をする。朝食後、外へ出て、大地に語り掛けるように聖女の力を遣う。昼食後は、王宮の一番高い所に上がり、そこから聖なる力を風に乗せ、遠方まで飛ばす。

 国境線沿いに結界を張ることも忘れてはいけない仕事のひとつ。これは1週間に1度の割合で、ヴァルナガンドの背中に乗せてもらい、順に国境線沿いを回る。

 もっとも、サラシアとの国境線には、すでに結界を張っているので安心していられる。そうでないと、またしたもセレンティーヌ様がアンドロメダに来て、ジェニファーの悪口を言われては、たまらないから、サラシアとの国境線に一番に結界を張った。

 どうせフィリップ殿下との結婚式には、見せつけるように招待状が届くだろう。でも、あの国の聖女の力は解約したから1年と持たないと思うけど、それまでに結婚式を挙げられたらの話。

 どうぞ。お幸せになってください。

 今なら、言える。ジェニファー地震が今、幸せだから。

 聖女の力がなくても、二人で力を合わせれば、結界ぐらい何とでもなる。それぐらい愛の力は大きいものだと信じている。
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