33 / 35
マザコン
5.
しおりを挟む
新婚スペースの寝室では、きちんと服を着た久志とお義母様が正座している。二人とも血の気を失っている。決定的な現場を押さえられたので、言い訳のしようがないのだろう。
ベッドの側には使用済みのコンドームが散乱している。たまたま出来心で関係を持ってしまったわけではないことは一目瞭然だったのだ。
最初は、衝撃的な浮気現場だったが、今まで久志とエッチしているとき、時々、久志が冗談か何かだと思っていたけど、智子のことを「ままー」と呼ぶことがあり、さらに「おっぱい、ちゅっていい?」という幼児言葉を遣うこともあったことを思い出す。
男性の中には、エッチの時だけ、幼児返りする性癖を持つ人もいるから、それだと勘違いしていたのだが、もっと早くに気づくべきだったと今更ながらに後悔をする。
社長である義父が、床に頭をこすりつけて謝罪をしている。
「すまない。智子さん、嫌がっている智子さんに無理にこんなバカ息子と結婚させてしまって、今後の償いはどのように請求されようと、すべて俺が責任を取る。だから今夜のところは、黙っていてくれ。」
「イヤだ。俺は智子と離婚なんてしないよ、絶対イヤだ。ママのことは感謝しているけど、愛しているのは、智子だけなんだ。智子みたいな女、初めて出会ったよ。いつも俺のルックスと社長の息子だってだけで、女の方から股を開いてやってくる。でも、智子は違った。俺は一度振られたんだ。だから余計に智子のことが欲しくなったんだ。我が儘だ。獣だと罵られてもいい。だから、もう一度チャンスをくれ。」
「無理です。浮気相手がアカの他人の女なら、許せることもあるでしょうけど、その相手がお義母様だったなんて……、どうしても無理です。」
「聡子、聞いての通りだ。今夜は出て行ってくれ。お前は決して許されない道を踏み外してしまったのだ。だから何も言わずに俺の前から消えてくれ。俺が聡子を殺してしまう前に出て行ってくれ。」
「ヒィっ!」
お義母様はそのまま裸足で、出て行こうとする。誰も止めない。止められない。何も持たずにドアが閉まる音だけが聞こえる。
結局、お義母様は、行く当てがないので、マンションのエントランスに一晩中いたとか?
その日は、マンションに戻ることもせず、タワーマンションの来客スペースに入り、そこで寝ることにしたのだ。
翌朝、シャワーを浴びている久志のスマートフォンにケルベロスアプリを仕込み、朝食の支度にとりかかった。
朝食は誰も一言も言葉を発しないまま、黙々と食べ食器を片付ける。
そういえば、お義母様の朝ごはんはどうするんだろうと思ったけど、昨日の今日なので、放っておく。
久志が何とかするのが筋だから、久志の浮気相手の食事の心配をするなんて、そもそもおかしな話だから。
智子はいったん、前に住んでいたマンションに戻ることにする。
今後のことを見据え、いろいろ準備しなければならない。
新居スペースから近いエレベーターを使うとお義母様と鉢合わせしてしまう可能性があるため、北北西のエレベーターのところまで行き、そこから1階に出た。
区役所で離婚届をもらうために寄り、ついでだから、お義父様の分もいるかもと思い、2通もらう。
自宅マンションに帰り、名刺ケースの中を物色して、一枚の名刺を見つけることに成功する。
離婚するとなると、浅利物産に勤め続けることはできないだろうから、転職のための参考書を探しに行くことにする。SPIなどを探していると、公務員試験の募集要項があった。
何気にそれを手に取り、ペラペラ見ていると、28歳の智子でも上級試験なら受けられることがわかる。
どうせ転職活動はしなければならないのだから、ついでに公務員試験も受けることにしよう。
公務員試験関係の参考書も買い込み、マンションに戻る。
ベッドの側には使用済みのコンドームが散乱している。たまたま出来心で関係を持ってしまったわけではないことは一目瞭然だったのだ。
最初は、衝撃的な浮気現場だったが、今まで久志とエッチしているとき、時々、久志が冗談か何かだと思っていたけど、智子のことを「ままー」と呼ぶことがあり、さらに「おっぱい、ちゅっていい?」という幼児言葉を遣うこともあったことを思い出す。
男性の中には、エッチの時だけ、幼児返りする性癖を持つ人もいるから、それだと勘違いしていたのだが、もっと早くに気づくべきだったと今更ながらに後悔をする。
社長である義父が、床に頭をこすりつけて謝罪をしている。
「すまない。智子さん、嫌がっている智子さんに無理にこんなバカ息子と結婚させてしまって、今後の償いはどのように請求されようと、すべて俺が責任を取る。だから今夜のところは、黙っていてくれ。」
「イヤだ。俺は智子と離婚なんてしないよ、絶対イヤだ。ママのことは感謝しているけど、愛しているのは、智子だけなんだ。智子みたいな女、初めて出会ったよ。いつも俺のルックスと社長の息子だってだけで、女の方から股を開いてやってくる。でも、智子は違った。俺は一度振られたんだ。だから余計に智子のことが欲しくなったんだ。我が儘だ。獣だと罵られてもいい。だから、もう一度チャンスをくれ。」
「無理です。浮気相手がアカの他人の女なら、許せることもあるでしょうけど、その相手がお義母様だったなんて……、どうしても無理です。」
「聡子、聞いての通りだ。今夜は出て行ってくれ。お前は決して許されない道を踏み外してしまったのだ。だから何も言わずに俺の前から消えてくれ。俺が聡子を殺してしまう前に出て行ってくれ。」
「ヒィっ!」
お義母様はそのまま裸足で、出て行こうとする。誰も止めない。止められない。何も持たずにドアが閉まる音だけが聞こえる。
結局、お義母様は、行く当てがないので、マンションのエントランスに一晩中いたとか?
その日は、マンションに戻ることもせず、タワーマンションの来客スペースに入り、そこで寝ることにしたのだ。
翌朝、シャワーを浴びている久志のスマートフォンにケルベロスアプリを仕込み、朝食の支度にとりかかった。
朝食は誰も一言も言葉を発しないまま、黙々と食べ食器を片付ける。
そういえば、お義母様の朝ごはんはどうするんだろうと思ったけど、昨日の今日なので、放っておく。
久志が何とかするのが筋だから、久志の浮気相手の食事の心配をするなんて、そもそもおかしな話だから。
智子はいったん、前に住んでいたマンションに戻ることにする。
今後のことを見据え、いろいろ準備しなければならない。
新居スペースから近いエレベーターを使うとお義母様と鉢合わせしてしまう可能性があるため、北北西のエレベーターのところまで行き、そこから1階に出た。
区役所で離婚届をもらうために寄り、ついでだから、お義父様の分もいるかもと思い、2通もらう。
自宅マンションに帰り、名刺ケースの中を物色して、一枚の名刺を見つけることに成功する。
離婚するとなると、浅利物産に勤め続けることはできないだろうから、転職のための参考書を探しに行くことにする。SPIなどを探していると、公務員試験の募集要項があった。
何気にそれを手に取り、ペラペラ見ていると、28歳の智子でも上級試験なら受けられることがわかる。
どうせ転職活動はしなければならないのだから、ついでに公務員試験も受けることにしよう。
公務員試験関係の参考書も買い込み、マンションに戻る。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。


婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。


骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる