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玉の輿

7.

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 あれから1年が経とうとしている。

 美里の父親は、70歳までの再雇用を勝ち取り、元気に働いている。

 70歳になると、またわずかだが、退職金がもらえるので、今度こそ、その退職金を美里のために用立てたいと願っている。

 美里の母は、タワーマンションの住人は、お互いのことに干渉しないことが新鮮で、気楽だと毎日、スーパーの見切り品を漁っている。

 そういうところが、美里も似たのか、美里も勤務帰りにスーパーの見切り品を買って帰り、よく買い物が鉢合わせすることに、母娘二人で、大笑いしている。

 このマンションを紹介してくれた美里の友人は、大手電力会社の社長の息子で、犬養茂久。その茂久から、電話があり、今度の日曜に、非番であれば、両親と会ってくれないかと言われ、ドキドキする。

 「まさか?結婚ってことないよね。だって、私、バツイチだもん。」

 「でも、子供がいないから、準初婚扱いだよ。」

 茂久も笑って言ってくれるが、結婚となると、話は別だと思うのだけど……?

 「なに?準初婚なんて初めて聞いた言葉だわ。」

 「今、俺が作った。」

 「ぶ。何それ。」

 ケラケラとひとしきり笑いあうと、電話口の向こうから、茂久の緊張感が伝わってくる。

 「俺、もう美里を二度と手放す気はない。覚悟しとけよ。大学の時から、美里のことが、好きだったんだ。でも俺は経営学部、美里は医学部だから、先に社会人になってしまったけど、美里が大学を卒業するタイミングで、プロポーズするつもりだったんだ。それがちょうどその頃、海外事業部が立ち上がって、俺は海外転勤になってしまい、モタモタしている間に、美里を奪われてしまった。だから、今度こそ。……美里さん、俺と結婚してください。」

 「……。」

 「やっぱ、電話では、ダメかな……。」

 その頃、病院では、救急外電が入り、美里は、電話を切らずにその対応に追われている。

 交通事故で、バイクに乗った男性が、トラックと正面衝突してしまったので、救急車で運ばれてきたのだ。

 美里は、外科ではないから、関係がないと言っていられない。なぜなら救急車は輪番制で、一度、断ると、ペナルティが課せられるため、その時に、手が空いている医者、看護師は総出で、救急医療に当たる。

 ようやく救急医療から解放されたのは、30分後のことで、その時に初めて、茂久との電話の途中だということを思い出し、慌ててかけなおすも、なぜか話中になっている。

 ま、電話代も高いからね。

 そのまま医務室に戻り、たまっている書類の整理に追われていると、受け付けから、お客様が来られています。都の案内が入る。

 とりあえず、診察室に通し、話を聞くと、茂久は胸を押さえて、胸が痛いという。

 聴診器を取り出し、胸の鼓動を聞くと、確かに少し早い。

 「血液検査を念のため、しましょう、そsれと心電図を撮ってください。」

 茂久はなぜか、首を左右にフルフルと振り、「美里にしか治せない。」

 ふいに、唇を奪われる。そして、美里の前に跪き

 「美里さん、どうか俺と結婚してください。」

 「は?……、……それ、プロポーズ?」

 「ほかに何がある?」

 「ごめん。ごめん。いきなりで驚いた。」

 美里は、居住まいを正して、茂久の眼を見ながら

 「喜んで、お受けします。よろしくお願いします。」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 3か月後、茂久と結婚式を挙げ、勤務先病院を退職する。

 退職金と犬養家からの援助を併せて、美里の実家があるタワーマンションの1階に「みさとクリニック」を開業する。

 開業初日、帝大附属病院と〇電病院から大きな花輪が届けられ、宣伝しなくても美里が帝大卒であることが噂として広まる。

 帝大卒の医者ということがウリで、マンションの住人はもとより、近隣の患者さんも大勢押しかけてきてくださり、今日も繁盛している。
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