上 下
22 / 35
玉の輿

1.

しおりを挟む
 「本日は、ようこそお集まりいただきました。わたくし弁護士の宗像俊三と申します。吉村美里さんの法定代理人をしております。」

 「イヤだ、イヤだ。美里とは何があっても別れたくないんだ。」

 「いえ、美里さんとの離婚はすでに成立しております。今日は、その後のことでお話に参りました。」

 「へ?離婚が成立ってことはなんだよ?」

 「元ご主人は、美里様に離婚届を早く提出するようにおっしゃいまして、その日のうちに離婚届が区役所に提出されておりまして、すでにアカの他人となっております。」

 「ウソだよ。そんな、アイツは俺にべた惚れしているはずで、あの離婚届はいつもの嫌がらせのつもりで渡しただけなのだ。だから、間違いだ。」

 「いえ、美里様は、せいせいしたとおっしゃっておられますから、もうご主人には気が残っていないかと推察されます。」

 「本当に、離婚は成立したというのか?そんな……、俺には美里が必要なんだ。なあ、弁護士さんよ。金は払うから、美里に復縁を頼んでくれないか?」

 「ちょっとぉ!奥さんが離婚してくれたのなら、私と結婚してよぉ。」

 「うるさいっ!お前は黙ってろ。」

 「なんなのよぉ、私とのことは遊びだって言うの?ひどいわっ!ひどすぎるっ!私のカラダをさんざん弄んでおきながら。」

 「そっちが誘ってきたのではないか!なにが!どこが!清純な女子大生だ!お前、処女じゃなかったじゃないか!」

 「美里は、俺と結婚するまで、処女だったんだぞ!」

 「げ!気持ち悪いオバサンが……!絶対、結婚してもらうんだからね!」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 島田美里(旧姓吉村美里)と島田洋一は、同い年、幼馴染で家が隣同士だった。親同士はお愛想もあってのことだと思うが、将来は、二人を結婚させようと冗談で言いあっていたぐらい、仲が良く、いつも学校へは手を繋いで行っていたものだった。ただし、高校までは。の話。

 大学は、別々の進路を辿り、卒業後に選択した業種は、まったく異なるもので、幼いときの結婚話は、一時、立ち消えになってしまったのだ。

 それが動いたのは、25歳のクリスマスイヴでのこと、それぞれの職場でささやかなクリスマスパーティの帰り道、気分が悪くなった洋一が道端で、ゲーゲーやっているところを美里が通りかかり介抱することになってしまう。

 家が同じ方向だし、隣同士だから、このまま見捨ててけることもできない。仕方なく経口補水液を呑ませ、背中をさする。

 洋一の玄関チャイムを鳴らし、両親に洋一を預け、隣の家へ行きカギを開けて、玄関に美里の荷物を置き、ティファーリーでお湯を沸かす。

 その「熱湯を持って、再び先ほど、洋一がげろを履いていた現場に向かい、綺麗に洗い流す。

 そして、家に帰り掃除に洗濯に、と大忙しになる。美里の父親は、今年の春から転勤になり、母親はその転勤についていき、美里は目下独り暮らしの真っ最中なのだ。

 翌朝、出勤前に洋一の様子を伺いに島田家の玄関チャイムを鳴らし。

 「あら、美里ちゃん。昨日はごめんね。洋一のバカと言ったら、まだ寝ているのよ。ちょっと待っててくれる?今、たたき起こしてくるから。」

 「あ!大丈夫です。これから出勤なので、帰りにでも、また寄らせていただきます。」

 「そう?じゃ、行ってらっしゃい。気をつけてね。」

 「はい。行ってきます。」

 美里の勤務先は、大学病院で研修医をしている。まだまだ医者としては、ヒヨっ子なのだが、サラリーマン家庭で育った美里は、大学進学の時、優秀だったので、とりあえず医学部を志望することにしたのだ。なぜなら、食いはぐれがないと思ったからで。親も学校の先生も勧めるまま受験したら、受かったので、まぁ、イヤではないけど、確かにやりがいのある仕事だとは、思っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

処理中です...