上 下
19 / 35
介護

5.

しおりを挟む
 エレベーターを降りると、艶子さんは、

 「いいところね、気に入ったわ。私もここへ引っ越してこようかしらね。」

 「以前から、アソコで暮らしていらしたんですか?」

 「いいえ。前は長男夫婦と同居していたんだけど、私の尿器が発覚してからは、嫁が芦子に家の手配をしてくれてね・それからずっと一人暮らし、寂しかったわよ。だから美桜ちゃんには、感謝しているのよ。本当よ。ありがとうね。」

 「もし、よろしければ、ウチに来ませんか?」

 「ええっ!嬉しいけど、新婚さんのお宅にお邪魔するなんてね。それにしても、美桜ちゃんが、ウチに来てから康夫ったら、一度も顔を見せに来やしないわね。あなた達夫婦、うまくいっているの?」

 「たぶん大丈夫だと思いますけど、私も新婚旅行から帰ってすぐ、艶子さんのところへ行くように言われただけで、その後、一度も顔を合わせていません。」

 「わかったわ。今日は、美桜ちゃんの家に泊まることにする。それで康夫にお説教してやるんだから。あはは。」

 楽しそうに艶子さんは、笑う。

 そういえば、この3か月の間、一度も康夫と顔を合わせていないことを、今更ながら気拭き、重い足取りで、自宅のカードキーを挿し込むとなぜか施錠されていない。

 「え?今日は、平日だから康夫さん会社に行っているはずなのに、施錠されていない。」

 入ろうとする美桜を静止して、艶子さんが先に玄関ドアを開け中に入っていく。

 もし、中に空き巣がいたら、美桜ちゃんと鉢合わせさせるわけにはいかないという艶子さんらしい判断だとわかる。

 玄関には、女性もののハイヒールがきちんと脱ぎ揃えてあったのだ。

 ん?こんな時間に、タワマンに来るのは、ウチの母か義母しか見当がない。でも、どう見ても若い女性が掃くようなブランドものの痛そうな靴。

 それに平日なのに、なぜか康夫の沓もあったから、康夫のお客様なのかと思った。

 美桜は、リビングに置きっぱなしのお皿やコップ、それにコンビニ弁当の空き箱、ペットボトルを片付けて行く。

 その直後、艶子さんは寝室に入っていったはずなのに、なぜか男性の叫び声が聞こえる。たぶん、康夫だ。尋常ではない叫び声に一度は様子を見に行こうと思ったが、アルツハイマー症の狂暴性が出てしまってからでは、美桜では止められないことを知っているので、あえてと目に行かなかった。

 続いて、女性の悲鳴が聞こえる。

 ん?これは、お義母さんの声とも思えないので、慌てて流しに出しっぱなしの水をとめ、タオルで手を拭いてから、寝室に駆け付ける。

 それは、美桜と康夫のベッドで明らかに誰かが愛し合っていたかのような様子で、使用済みのコンドームが散らばっている。

 まだ一度も寝たことがないダブルベッドはシーツから布団に至るまで、真っ赤に染まり、今、怒ったばかりの惨状に呆然と立ち尽くしてしまった。

 過剰防衛にはならない。帰宅したら、見知らぬ男女がコトの真っ最中で、逆上して殺してしまっても、無罪になる。おまけに大姑はアルツハイマー症なので、それだけでも、無罪になるものということだから。

 倒れている男女、2人とも、見たこともない知らない人?だという気がした。

 とにかく怪我をしているようだから、救急車を3台呼ぶことにする。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 救急車を呼ぶとき、ついでに来る警察にも同じことを話す。

 久しぶりに帰宅すると、玄関のドアが開いていて、おばあちゃんが空き巣だったら、美桜ちゃんが困るから、私が先に入るよ。大丈夫だから、と念を押された。

 見覚えのない女性もののハイヒールに空き巣は、女性の単独犯だと思うが、義祖母に任せることにする。

 部屋の中に入ると、脱ぎ散らかった洋服に、コンビニ弁当の空き箱、ペットボトルが散乱していて、それらを流しに運び洗い流して、ゴミ箱に入れられるものは入れるという作業に夢中になってしまい、出しっぱなしにしていた水道の音で寝室内の騒ぎにまったく気づかないでいた。

 流しの中がいっぱいになり、さらなる洗い物を求めて、いったん蛇口を閉めた時に、ようやく異変に気付き、義祖母が向かったであろう奥の部屋、「寝室を探す。

 寝室のダブルベッドのそばに義祖母が倒れていて、そのすぐそばに見知らぬ男女が裸で倒れていることが分かったので、慌てて救急車を呼ぶ。

 「一人だと思っていた空き巣が実は、二人いたということですね?」

 「はい。そういうことになります。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

【完結】あなたは知らなくていいのです

楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか  セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち… え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい… でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。 知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る ※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...