上 下
15 / 35
介護

1.

しおりを挟む
 ピンポーン♪

 玄関チャイムが鳴ると、そこには見知らぬ男性が立っていた。

 「私、弁護士の宗像俊三と申します。この度は、神崎美桜様の法定代理人として参りました。」

 玄関で立ち話をされて、近所の人にでも聞かれたら困るので、とにかく中へ入ってもらうことにした。

 弁護士を名乗る男は、書類を鞄の中から取り出し、説明を始める。

 「いや。俺は美桜と離婚する気などない。それは確かに浮気したことは事実で認める。おふくろのことも含めて、申し訳ないことをしたと思っている。だが、まだやり直せるチャンスがあると思っている。弁護士の先生に言うのもなんだけど、もう一度、話し合いのチャンスを頂けませんか?」

 「今まで、何度もあったと思いますがね?それでは家庭裁判所に離婚調停の申し込みをされるということでいいですか?それとも離婚訴訟に踏み切りますか?」

 「いや、それは……恥の上乗りになるだけで……。」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 佐々木美桜が神崎康夫と知り合ったのは、美桜の幼馴染で、康夫の愛人中塚麻由里の存在が大きくかかわっている。

 佐々木美桜の実家は、小さな町工場を経営している。父は昔気質の頑固親父で、美桜は、お嬢様育ちなどさせてもらえなかった。そのため、大学を卒業してから、わざわざ、看護師になる資格を取得したのだ。少しでも、人の役に立つような看護師を目指して。

 普通は高校を卒業してから看護学校に行くものだが、頑固親父はさすがに何も言わず背中を押してくれたことは、ありがたく思う。

 少し遅咲きだが正看護師になれて、今のところ、順風満帆といったところ。でも、実務で覚えることがたくさんあり過ぎて、なかなか充実した毎日を送っている。

 そんなある日のこと、幼馴染の麻由里が急に電話してきて、

「紹介したい人がいるから今度会わない?」

 「いや、ちょっと今、仕事が忙しくて、とても麻由里と会っている時間が取れないのよ。ごめんね。」

 「そういえば、アンタ大学出てから学校に入りなおすとか、言っていたけど、今、何の仕事をしているの?」

 「うん。人の役に立つ仕事がしたいと思って、まあ、どんな仕事でも人の役に立つ仕事には変わりがないけど。今、もっとも人手不足が深刻な看護師の仕事をしているのよ。」

 「ウッソぉ~!ヤダー。看護師なんて、けっこう汚れ仕事じゃないの?あんなものは、中卒かよくて高卒がやる底辺の仕事をよりにもよってなんでアンタが?」

 「看護の仕事をバカにすることは許しません。用がないなら、話を終わりにするわ。」

 「ちょっと待ってよ。私ね。大学時代から付き合っていた人と今度、結婚することになってね。あん。詳しい話は今度、会ったときに言うから、いつか時間を盗ってくれない?」

 「わかったわ。おめでとう。もう、これでいいでしょ?だいたいわかったから。じゃあ、仕事に戻るね。またね。」

 「何よ!こっちは、人生かかっているからの相談だって言うのに?」

 「はいはい、また今度ね。」

 それから3年の月日が流れても、麻由里からは結婚の報告がなかったので、美桜もつい、忙しさにかまけて気にも留めていなかったのだ。

 ある日のこと、青年会議所の若手メンバーと美桜の勤務先の病院の看護師との合コンがあり、人数合わせのため、その日、非番で合った美桜が急遽呼ばれることになってしまう。

 青年会議所とは、ライオンクラブのようなもので、若手の経営者、いわゆる青年実業家が集うクラブで、主に情報交換と勉強会を趣旨とした活動を行っているが、たまに、こうしたすちゅあーですや局アナと言った女性の花型職業との出会いを確保するため、合コンを行っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

置き去りにされた聖女様

青の雀
恋愛
置き去り作品第5弾 孤児のミカエルは、教会に下男として雇われているうちに、子供のいない公爵夫妻に引き取られてしまう 公爵がミカエルの美しい姿に心を奪われ、ミカエルなら良き婿殿を迎えることができるかもしれないという一縷の望みを託したからだ ある日、お屋敷見物をしているとき、公爵夫人と庭師が乳くりあっているところに偶然、通りがかってしまう ミカエルは、二人に気づかなかったが、二人は違う!見られたと勘違いしてしまい、ミカエルを連れ去り、どこかの廃屋に置き去りにする 最近、体調が悪くて、インフルの予防注射もまだ予約だけで…… それで昔、書いた作品を手直しして、短編を書いています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...