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家政婦

4.

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 一応、花園家は、救急車を呼んだのだが、そのあまりにも不自然な現場に救急隊員たちも絶句してしまう。

 救急車とともに、パトカーも来て、現場検証と家宅捜索を実施されることになったのだ。

 若夫婦の住まいは、離れであるにもかかわらず、事故現場は老夫婦が住まう母屋での出来事に不自然すぎる現場。

 現場に駆け付けた警察官の、心証はどう見ても誰かが故意に突き落としたとしか見えない状況だった。

 怪しいのは、その場にいた義母だけ。警察官が駆け付けた時は、本人は意識を失っていたとはいえ、本人以上に警察官の姿を見てうろたえていることがアリアリとわかったからだ。

 「私が突き落としたわけでは、ございませんわ。」

 ちょっと事故当時の模様を聞こうとしただけなのに、取り乱して応えるさまは、どう見ても犯人(ホシ)としか言いようがない。

 それに息子の嫁だというのに、嫁さんの名前も生年月日も言えない。新婚当初なら、いざ知らず結婚して同居して3年にも経とうかというのにだ。

 隣近所に聞き込みをしたら、全員が全員、「花園家は、若奥様を家政婦として扱っている。」と口をそろえて証言する。

 ガイシャはまだ病院の中で生死の境をさまよっている。ガイシャの赤ん坊は、とっくに死んでいるから殺人事件に変わりがない。

 心証は、真っ黒。状況証拠も姑の犯行を示しているが、状況証拠だけでは、公判維持が難しい。

 そうこうしている間に、妹娘が嫁ぐことになった。嫁ぎ先は、東京で大学を出て、そのまま都内の会社に就職して、そこで恋愛結婚した模様。

 いくら慶事でも、息子の嫁が入院しているさなかに、結婚話を進めるという異常さに捜査本部では、衝撃が走る。

 共通の認識として、とにかく「花園家は異常」ということになる。

 夫、両親ともに東京に行き、東京観光を楽しみながら、両家との顔合わせも結婚式も、すべてかおり抜きで滞りなく執り行われた。

 新婦の説明によれば、「兄嫁は、家政婦だから家族ではない。」という話で、新郎の両親も新郎自身も、言葉を失う。

 その理屈が通るならば、新婦も結婚して仕事を辞めたわけだから、義実家で同居し、家政婦代わりにこき使っても文句は言わないということで合っているのだろうか?

 事件として動いたのは、それからさらに3か月後のこと。

 出産前よりさらに、死んだ目をして今日も賃金梨の家政婦をしている。もうこの家から脱出することは不可能だと思い込んでいる。

 あれから和夫とは、夫婦生活そのものがなくなった。まあ、かおりとしては求められても拒否していたから、そのうち和夫も求めなくなり、この3か月間は、和夫も離れに寄りつかず母屋で寝泊まりするようになってしまったのだ。

 冗談じゃないわよ。また殺すつもりで、産ませるぐらいなら、最初から作る行為をしなければいい。

 ある連休のこと。祝日を挟んで3連休になったときに、和夫の妹の沙也加から電話がかかってきて、自分の旦那を家に連れ帰るから、念入りに掃除をしとくようにと命令される。

 こういう連絡用の電話は、すべて花園家の固定電話しか使えない。固定電話と言っても、いわゆるピンク電話で、かおりのお金をすべて取り上げた花園家は、香りが勝手にどこかに連絡できないようにするために、家の電話をピンク電話に変えてしまったのだ。そこまでして、嫁という名の家政婦に逃げられないように、もはや軟禁状態というより監禁に近い状態にされている。

 結婚前に使っていたスマホは取り上げられ、解約されてしまったようだが、電話機そのものも返してもらえず、親しい間柄だった友人の電話番号もわからずじまいになってしまったのだ。

 沙也加からの電話の後、10分ほどで、到着され、まだ1つのトイレ掃除しか終わっていない。

 沙也加は自慢たらしく兄の和夫、両親と久しぶりの挨拶を交わし、かおり以外は和やかな雰囲気そのものである。

 義理の両親も、和夫も、沙也加の旦那様のことを紹介してくれない。まあ、いつものことで諦めかけていた時、2つ目のトイレ掃除が終わって、振り向くと沙也加の旦那様がニコニコして、声をかけてこられたのだ。

 ビックリするも、沙也加の旦那様の言われるままに行動することにして、そっと離れに向かう。
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