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家政婦
3.
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和夫の嫁は家政婦だから家族ではない。
それを繰り返し言われてきたので、すっかり洗脳されていたかおりだったのだが、結婚してから2年、ようやく?というべきか、こんなはずではなかったというべきか?子供を妊娠していることに気づく。
和夫から「堕ろせ」と言われるのではないか、内心ヒヤヒヤしながら報告すると、意外にも喜んでいる様子。
まだ人の心が残っていたなんて、知らなかった。
でも、義両親は違った。妊婦に家事をさせるなんて、世間体が悪い。でも、義母には家事ができる能力は皆無。かといって、一応東京の大学を出て、東京で就職している和夫の妹を呼び戻して、家事をさせるわけにもいかない。
それに出産するとなると、産婦人科のところへも通わせなければならない。その通院費がもったいないということと、そこで花園家の若奥さんが、家政婦にされているという噂が広まれば、もうこの街には住みづらくなる。
花園家の跡取りは、娘の沙也加に産んでもらえばいいのだから、無理してかおりに産ませることはないという結論付けられてしまう。
でも、和夫は、やっぱり自分の子供が欲しいと義両親に泣きつき、出産後の1週間は外食すればいいのだからと説得してくれて、中絶せずに産ませてもらえることになったのだ。
それからは、和夫は少しだけ、かおりのカラダを気遣う素振りを見せてくれるようになり、この頃が、結婚して初めて幸せを感じた時だった。
でも産婦人科に通うようになり、私の手肌が尋常ではないぐらいあれていることに不信を感じた看護師さんや受付嬢から、花園家の家事全般をやらされているのでは?という噂話が蔓延していく。
「そういえば、先代の奥様が生きていらしたとき、花園家に嫁いできた嫁は、やかんにお湯の一つも沸かせられないぐらいの能無しだって、こぼしていらしたわ。」
「掃除も洗濯も何一つ満足にできやしない。おかげで家の中はゴミ屋敷同然だって、話を聞いたことがあるわ。」
「それがわか奥様が来られてきて以来、いつ回覧板を持って行っても、家の中はピカピカに掃除されているみたいよ。」
「きっと、あの若奥さんがこき使われているのでしょうね。かわいそうだわ。」
「これから身重になっていく若奥さんも大変ね。」
「でも、知ってる?あの若奥様のことをクズ大奥様がなんて呼んでいるか。和夫の嫁は家政婦だから、家族ではないって。ひどくない?あれは鬼ババだね。」
「ウッソ!?そこまでヒドイの?それでよく子供を産ませてくれることになったわね。」
「無事に生まれれば、の話だと思うわ。」
「気の毒ぅ~、てか、和夫さんの後押しがあったらしいよ。」
「いくら女中にするためとはいえ、やっぱり好きだったから結婚したってことなのでしょうね?」
「鬼姑、街の噂を必死になってもみ消そうとしているけど、家事ができないってことは、昔からの周知の事実だものね。」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
それから瞬く間にかおりは臨月を迎える。
かおりが生まれ育った施設では、かおりに帰ってくるように促し、かおりも義実家で産んでも産後の肥立ちがゆっくりできない懸念があるので、施設へ帰るつもりでいた。
しばらく戻らないつもりで、最後に念入りに掃除していると、いきなり階段から突き落とされてしまう。
結果、かおりに命の別状はなかったものの。お腹の子はしっかり流産してしまうことになった。
もっと早く施設に行っていれば、こんなことにならなかったのに、と悔やまれる。
でも鬼姑は悪びれる様子は一切なく
「あら、よかったじゃない?家政婦さんがウチを空けるなんてことがないように神様が階段から落としてくださったのよ。」
これに対して、和夫さんは、怒ることもなくただ目を伏せているだけ。
もう、この時点で、愛想が尽き果ててしまったのだ。
それを繰り返し言われてきたので、すっかり洗脳されていたかおりだったのだが、結婚してから2年、ようやく?というべきか、こんなはずではなかったというべきか?子供を妊娠していることに気づく。
和夫から「堕ろせ」と言われるのではないか、内心ヒヤヒヤしながら報告すると、意外にも喜んでいる様子。
まだ人の心が残っていたなんて、知らなかった。
でも、義両親は違った。妊婦に家事をさせるなんて、世間体が悪い。でも、義母には家事ができる能力は皆無。かといって、一応東京の大学を出て、東京で就職している和夫の妹を呼び戻して、家事をさせるわけにもいかない。
それに出産するとなると、産婦人科のところへも通わせなければならない。その通院費がもったいないということと、そこで花園家の若奥さんが、家政婦にされているという噂が広まれば、もうこの街には住みづらくなる。
花園家の跡取りは、娘の沙也加に産んでもらえばいいのだから、無理してかおりに産ませることはないという結論付けられてしまう。
でも、和夫は、やっぱり自分の子供が欲しいと義両親に泣きつき、出産後の1週間は外食すればいいのだからと説得してくれて、中絶せずに産ませてもらえることになったのだ。
それからは、和夫は少しだけ、かおりのカラダを気遣う素振りを見せてくれるようになり、この頃が、結婚して初めて幸せを感じた時だった。
でも産婦人科に通うようになり、私の手肌が尋常ではないぐらいあれていることに不信を感じた看護師さんや受付嬢から、花園家の家事全般をやらされているのでは?という噂話が蔓延していく。
「そういえば、先代の奥様が生きていらしたとき、花園家に嫁いできた嫁は、やかんにお湯の一つも沸かせられないぐらいの能無しだって、こぼしていらしたわ。」
「掃除も洗濯も何一つ満足にできやしない。おかげで家の中はゴミ屋敷同然だって、話を聞いたことがあるわ。」
「それがわか奥様が来られてきて以来、いつ回覧板を持って行っても、家の中はピカピカに掃除されているみたいよ。」
「きっと、あの若奥さんがこき使われているのでしょうね。かわいそうだわ。」
「これから身重になっていく若奥さんも大変ね。」
「でも、知ってる?あの若奥様のことをクズ大奥様がなんて呼んでいるか。和夫の嫁は家政婦だから、家族ではないって。ひどくない?あれは鬼ババだね。」
「ウッソ!?そこまでヒドイの?それでよく子供を産ませてくれることになったわね。」
「無事に生まれれば、の話だと思うわ。」
「気の毒ぅ~、てか、和夫さんの後押しがあったらしいよ。」
「いくら女中にするためとはいえ、やっぱり好きだったから結婚したってことなのでしょうね?」
「鬼姑、街の噂を必死になってもみ消そうとしているけど、家事ができないってことは、昔からの周知の事実だものね。」
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それから瞬く間にかおりは臨月を迎える。
かおりが生まれ育った施設では、かおりに帰ってくるように促し、かおりも義実家で産んでも産後の肥立ちがゆっくりできない懸念があるので、施設へ帰るつもりでいた。
しばらく戻らないつもりで、最後に念入りに掃除していると、いきなり階段から突き落とされてしまう。
結果、かおりに命の別状はなかったものの。お腹の子はしっかり流産してしまうことになった。
もっと早く施設に行っていれば、こんなことにならなかったのに、と悔やまれる。
でも鬼姑は悪びれる様子は一切なく
「あら、よかったじゃない?家政婦さんがウチを空けるなんてことがないように神様が階段から落としてくださったのよ。」
これに対して、和夫さんは、怒ることもなくただ目を伏せているだけ。
もう、この時点で、愛想が尽き果ててしまったのだ。
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