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痴漢
6.
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とある大きな会議室の一室。
参加者は妻、本郷陽子(旧姓、飛鳥井)、夫、本郷正彦、夫の愛人、麻里子
「さて、本日お集まりいただきましたのは、本郷陽子様からの離婚の申し立てについてでございます。本来なら、ご夫婦間での話し合いがもたれるのが一番よろしいかと存じますが、私が本郷陽子様の訴訟代理人を仰せつかいました弁護士の宗像俊三と申します。以後、お見知りおきを。」
宗像先生は、離婚に至る経緯を簡単に説明してくださり、それぞれ同意する。
いざ、離婚届を前にすると、急に夫の正彦がゴネ出してきた。
「待ってくれ。俺は、陽子を心から愛している。離婚するなんて、イヤだ。」
「では、なぜ不貞行為をしたのですか?それにより奥様は悲しまれたのですよ。」
「それは、妻が悪阻がひどいからと言って、俺を拒否したからだ。麻里子とは、ただの性欲処理の目的だけで、他に他意はない。愛しているのは、陽子だけなのだ。だから、離婚したくない。もう一度、やり直すチャンスをくれ。頼む。」
恥も外聞もなく頭を床にこすりつけている正彦を見て、軽蔑するかのように陽子はあざ笑っている。
「アナタの愛する陽子様が、離婚を望んでおられる以上、夫として、できることは離婚するか、その愛人を着るかの二択です。たとえ愛人をお切りになっても、元の関係に戻るにはかなりの時間がかかります。会社での立場もおありでしょうから、最悪、会社を辞して荷物をまとめ、故郷へ帰る選択肢もあるかと思いますが、陽子さんは、そんなアナタについてきてくれるでしょうか?今の生活を壊した一番の原因は、夫であったアナタの軽率な行動です。ここは、陽子さんの希望通り、一度、離婚されてはいかがでしょうか?」
「わかりました。離婚に同意します。」
「はい。それでは、本日中に区役所に提出し、本日、離婚が成立しますことを肝に銘じてください。それと、本日お集まりいただきましたのは、……元妻の陽子様は、カラダがお辛ければ、退室していただいても構いません。」
「いえ。大丈夫です。このままいさせてください。」
「そうですか?それでは、元夫である正彦さんと愛人関係にあった麻里子さん、アナタがたお二人に対して、不貞行為による慰謝料を請求いたします。慰謝料の額は、それぞれ500万円。これはあくまで狩りの想定金額でございます。今後、様々な要因から増額されるかもしれませんが、とにかく今は500万円を私の事務所宛に振り込んでください。事務所所在地は、名刺にありますところでございます。振込先は、柿に記してある通りでございます。今から1週間以内に、振り込みお願いします。」
「ご、500万円なんて、大金、払えるわけないでしょ!?そんなお金があれば、正彦なんか、引っ掛けなかったわよ。イヤだ。イヤ。払えないよ。」
「泣くな。麻里子。俺がお前の分の慰謝料を立て替え払いしてやるから、お前は働いて、少しずつでも返金してくれればいい。」
と言っても、正彦も右から左へポンと支払える金額ではない。タワーマンションの契約を解約しても敷金の半額は、陽子が出していた者なので、陽子に藁氏、残りで、引っ越しの費用とする。
結局、正彦は、両親に泣きつき、1000万円を一括で払うことには成功した。
しかし、その後に明らかになった正彦と麻里子の罪状が本郷商事を追い込んでいくことになり、
会社の金を不正流用したことが問題となる。株主総会で突き上げを食らい、経営陣の退任要求がなされる。
その他にも、様々な背任行為が問題となり、刑事告訴は免れたものの、役員退職金の支払いも拒否され、追い出されてしまったのだ。
少しばかり大きな会社であるから、こういうことになる。これが非上場の同族会社であれば、ここまで突き上げを食らうことも無かったろうに。
とりわけ、麻里子の殺人容疑と猿人未遂容疑は、強烈な打撃を与え、それに加え、日ごろの立ちんぼ生活をしていた者を本郷の家に入れることへの周囲の反発が凄かった。
麻里子は、第1子を刑務所の中で産んだのだが、その子は黒人の子供か?と思われるほど肌の色が濃く、正彦の子供でないことはDNA鑑定するまでもないぐらい明らかなものとなった。
立ちんぼをしていた時の客の中に黒人がいたということだろう。
当然、正彦はそんな麻里子の産んだ子供を認知せず、麻里子とは婚姻しなく一生独身のまま過ごしたという。
しかし、親から出してもらった慰謝料だけは、借金として残り、昼夜を問わず介護施設で働き続け、すっかり腰痛持ちになったとか……。
今までクリエイティヴな仕事をしていただけに、来る日も来る日もお年寄りの相手は、心身ともに疲れ果てるが、今更本郷商事に戻りたくても、戻れない経営陣は、総入れ替えになっていて、本郷家の手を完全に離れている。
かといって、前の勤務先は、スポンサーがあっての広告代理店、妻を大事にせず、愛人にうつつを抜かしたような男にイメージが悪くて、仕事が来るはずがない。
借金返済のため、身を粉にして働いても、一向に借金は減らないばかりか、今や老親の世話まで見なければならない。
正彦の両親は、退陣を要求されてから、腑抜けになり、完全なニート状態。本郷商事からの役員報酬も見込めなくなり、うつ状態に陥っている。
本郷のかつての舅は一代で、財を築き上げたたたき上げの職人気質、それが一夜にしてバカ息子のせいで、何もかも失ってしまったのだろうから、同情の余地はあるかもしれないが、陽子の一生をめちゃくちゃにしたことへの贖罪をしてもらわなければならない。
参加者は妻、本郷陽子(旧姓、飛鳥井)、夫、本郷正彦、夫の愛人、麻里子
「さて、本日お集まりいただきましたのは、本郷陽子様からの離婚の申し立てについてでございます。本来なら、ご夫婦間での話し合いがもたれるのが一番よろしいかと存じますが、私が本郷陽子様の訴訟代理人を仰せつかいました弁護士の宗像俊三と申します。以後、お見知りおきを。」
宗像先生は、離婚に至る経緯を簡単に説明してくださり、それぞれ同意する。
いざ、離婚届を前にすると、急に夫の正彦がゴネ出してきた。
「待ってくれ。俺は、陽子を心から愛している。離婚するなんて、イヤだ。」
「では、なぜ不貞行為をしたのですか?それにより奥様は悲しまれたのですよ。」
「それは、妻が悪阻がひどいからと言って、俺を拒否したからだ。麻里子とは、ただの性欲処理の目的だけで、他に他意はない。愛しているのは、陽子だけなのだ。だから、離婚したくない。もう一度、やり直すチャンスをくれ。頼む。」
恥も外聞もなく頭を床にこすりつけている正彦を見て、軽蔑するかのように陽子はあざ笑っている。
「アナタの愛する陽子様が、離婚を望んでおられる以上、夫として、できることは離婚するか、その愛人を着るかの二択です。たとえ愛人をお切りになっても、元の関係に戻るにはかなりの時間がかかります。会社での立場もおありでしょうから、最悪、会社を辞して荷物をまとめ、故郷へ帰る選択肢もあるかと思いますが、陽子さんは、そんなアナタについてきてくれるでしょうか?今の生活を壊した一番の原因は、夫であったアナタの軽率な行動です。ここは、陽子さんの希望通り、一度、離婚されてはいかがでしょうか?」
「わかりました。離婚に同意します。」
「はい。それでは、本日中に区役所に提出し、本日、離婚が成立しますことを肝に銘じてください。それと、本日お集まりいただきましたのは、……元妻の陽子様は、カラダがお辛ければ、退室していただいても構いません。」
「いえ。大丈夫です。このままいさせてください。」
「そうですか?それでは、元夫である正彦さんと愛人関係にあった麻里子さん、アナタがたお二人に対して、不貞行為による慰謝料を請求いたします。慰謝料の額は、それぞれ500万円。これはあくまで狩りの想定金額でございます。今後、様々な要因から増額されるかもしれませんが、とにかく今は500万円を私の事務所宛に振り込んでください。事務所所在地は、名刺にありますところでございます。振込先は、柿に記してある通りでございます。今から1週間以内に、振り込みお願いします。」
「ご、500万円なんて、大金、払えるわけないでしょ!?そんなお金があれば、正彦なんか、引っ掛けなかったわよ。イヤだ。イヤ。払えないよ。」
「泣くな。麻里子。俺がお前の分の慰謝料を立て替え払いしてやるから、お前は働いて、少しずつでも返金してくれればいい。」
と言っても、正彦も右から左へポンと支払える金額ではない。タワーマンションの契約を解約しても敷金の半額は、陽子が出していた者なので、陽子に藁氏、残りで、引っ越しの費用とする。
結局、正彦は、両親に泣きつき、1000万円を一括で払うことには成功した。
しかし、その後に明らかになった正彦と麻里子の罪状が本郷商事を追い込んでいくことになり、
会社の金を不正流用したことが問題となる。株主総会で突き上げを食らい、経営陣の退任要求がなされる。
その他にも、様々な背任行為が問題となり、刑事告訴は免れたものの、役員退職金の支払いも拒否され、追い出されてしまったのだ。
少しばかり大きな会社であるから、こういうことになる。これが非上場の同族会社であれば、ここまで突き上げを食らうことも無かったろうに。
とりわけ、麻里子の殺人容疑と猿人未遂容疑は、強烈な打撃を与え、それに加え、日ごろの立ちんぼ生活をしていた者を本郷の家に入れることへの周囲の反発が凄かった。
麻里子は、第1子を刑務所の中で産んだのだが、その子は黒人の子供か?と思われるほど肌の色が濃く、正彦の子供でないことはDNA鑑定するまでもないぐらい明らかなものとなった。
立ちんぼをしていた時の客の中に黒人がいたということだろう。
当然、正彦はそんな麻里子の産んだ子供を認知せず、麻里子とは婚姻しなく一生独身のまま過ごしたという。
しかし、親から出してもらった慰謝料だけは、借金として残り、昼夜を問わず介護施設で働き続け、すっかり腰痛持ちになったとか……。
今までクリエイティヴな仕事をしていただけに、来る日も来る日もお年寄りの相手は、心身ともに疲れ果てるが、今更本郷商事に戻りたくても、戻れない経営陣は、総入れ替えになっていて、本郷家の手を完全に離れている。
かといって、前の勤務先は、スポンサーがあっての広告代理店、妻を大事にせず、愛人にうつつを抜かしたような男にイメージが悪くて、仕事が来るはずがない。
借金返済のため、身を粉にして働いても、一向に借金は減らないばかりか、今や老親の世話まで見なければならない。
正彦の両親は、退陣を要求されてから、腑抜けになり、完全なニート状態。本郷商事からの役員報酬も見込めなくなり、うつ状態に陥っている。
本郷のかつての舅は一代で、財を築き上げたたたき上げの職人気質、それが一夜にしてバカ息子のせいで、何もかも失ってしまったのだろうから、同情の余地はあるかもしれないが、陽子の一生をめちゃくちゃにしたことへの贖罪をしてもらわなければならない。
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