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痴漢
1.
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とある大きな会議室の一室。
参加者は妻、本郷陽子(旧姓、飛鳥井)、夫、本郷正彦、夫の愛人、麻里子
「さて、本日お集まりいただきましたのは、本郷陽子様からの離婚の申し立てについてでございます。本来なら、ご夫婦間での話し合いがもたれるのが一番よろしいかと存じますが、私が本郷陽子様の訴訟代理人を仰せつかいました弁護士の宗像俊三と申します。以後、お見知りおきを。」
宗像先生は、離婚に至る経緯を簡単に説明してくださり、それぞれ同意する。
いざ、離婚届を前にすると、急に夫の正彦がゴネ出してきた。
「待ってくれ。俺は、陽子を心から愛している。離婚するなんて、イヤだ。」
「では、なぜ不貞行為をしたのですか?それにより奥様は悲しまれたのですよ。」
「それは、妻が悪阻がひどいからと言って、俺を拒否したからだ。麻里子とは、ただの性欲処理の目的だけで、他に他意はない。愛しているのは、陽子だけなのだ。だから、離婚したくない。もう一度、やり直すチャンスをくれ。頼む。」
恥も外聞もなく頭を床にこすりつけている正彦を見て、軽蔑するかのように陽子はあざ笑っている。
「アナタの愛する陽子様が、離婚を望んでおられる以上、夫として、できることは離婚するか、その愛人を着るかの二択です。たとえ愛人をお切りになっても、元の関係に戻るにはかなりの時間がかかります。会社での立場もおありでしょうから、最悪、会社を辞して荷物をまとめ、故郷へ帰る選択肢もあるかと思いますが、陽子さんは、そんなアナタについてきてくれるでしょうか?今の生活を壊した一番の原因は、夫であったアナタの軽率な行動です。ここは、陽子さんの希望通り、一度、離婚されてはいかがでしょうか?」
「わかりました。離婚に同意します。」
「はい。それでは、本日中に区役所に提出し、本日、離婚が成立しますことを肝に銘じてください。それと、本日お集まりいただきましたのは、……元妻の陽子様は、カラダがお辛ければ、退室していただいても構いません。」
「いえ。大丈夫です。このままいさせてください。」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
正彦と知り合ったのは、陽子が通勤途中に痴漢に遭っていたところを助けてくれたことで、交際が始まり、このほど、めでたく結婚式を終えました。
本郷正彦は、大手広告代理店の花形コピーライターで、飛鳥井陽子は、結婚と同時に専業主婦になるはずだったのが、陽子の仕事は社長秘書で、後任がなかなか見つからなかったため、子供ができるまでということの条件付きで、秘書の仕事を続けていくことになったのだ。
正彦の実家は、けっこう大きな会社・本郷商事を経営していて、ゆくゆくは、跡取りの正彦に会社を継がせるつもりでいるため、嫁の陽子には、専業主婦になってもらい、本家のこと、本郷商事の仕事のことなどをしっかり覚えてもらいながら、跡取りとなる元気な男の子の出産を待望視されていたため、結婚後も陽子が引き続き仕事をすることに難色を示されていた。
ひところ流行ったダブルインカムではないが、二人で働いているので、そこそこの収入がある中流階級の暮らしができるようになり、生活は安定していく。
その生活が快適すぎて、正彦は二人の間に愛があれば、子供なんて必要がないと考え始めていたことに陽子は気づかないでいる。
美人の妻を抱きたいときに抱き、お小遣いは何不自由なくある生活。仕事は順調で、休みの日の度に小旅行や外食を愉しむ。
いずれにせよ陽子は、連れて歩く女としては見栄えが良く、他の男どもが振り返って陽子のことを見ているのが嬉しくてたまらない。こんなイイ女を俺は独り占めしているのだという満足感が正彦を支配している。
陽子との出会いは、仕組んだものだった。たまたまいつも通勤に使っている車が車検中で、その日は仕方なく久しぶりに電車を利用したら、同じ車両にとびきりの美人がいることが分かった。
それからは、車通勤をやめ、陽子の近くをキープするように努めたのだ。でも、なかなか話すきっかけがない。
そこで、人を雇い、陽子に痴漢行為をさせることにしたのだ。
陽子は、最初、戸惑ったような顔をして、困っていることが明らかに分かった。
次の日の朝も同じ車両に乗り込み、昨日とは違い陽子は、その日パンツスーツで出勤している。昨日、スカートだったので、スカートの中にまで手を突っ込まれたことがよほど怖かったのだろうと推測される。だから今朝は、パンツスーツにしたのだろう。
痴漢に陽子の尻を揉ませるように指示した。痴漢はまるで楽しんでいるかのように、陽子の尻を弄び、ついには、陽子の足と足との間に指を出し入れしていることが見て取れた。俺は、自分が雇っておきながら、無性に腹が立ち、気が付いたときには、その痴漢の腕を掴み。
「貴様、何をしている!」
声を荒げてしまったのだ。
停車駅で、痴漢役の男を引きずり下ろし、駅員に引き渡す前に、痴漢役を逃がした。
陽子からは、大変感謝され、最初のデートの約束をこぎつけたことは、言うまでもないこと。
それからは楽しい毎日が続く。仕事終わりに必ず陽子を愛車で拾い、一緒に食事をして、ドライブして、その後、ホテルで、時には陽子の部屋で朝まで陽子を堪能し続けた。
陽子の肌は柔らかくて、色が白い。そして何よりも感度が抜群なのだ。身も心も俺のモノとなった陽子を口説くこともなく、陽子は俺の妻になった。
当初は、専業主婦に刺せるはずの気持ちだったのだが、陽子の仕事の後任者がなかなか見つからず、子供ができるまでという限定付きで、仕事を続けることを認めたわけだが、仕事を続けたことで、陽子はますます美しく輝くようになった。
愛されているという実感が陽子を美しくさせている。たかが一枚の紙きれの婚姻届が、さらなる幸福感を引き出しているようだ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
飛鳥井陽子の仕事は、社長秘書だが、俗にいうカワイコちゃんだからとか、美人だからという理由で秘書になったわけではない。
もちろん陽子は、誰が見ても美人だが、美人だけではなく、経営学修士の資格を持ち、4か国語はネイティヴと同レベルの語学力があり、さらに法学部を卒業している陽子は、契約文書の法律的な穴について、弁護士と対等に渡り合えるだけの法律知識を身に着けている才色兼備の秘書なのだ。
稟議書は社長が見る前にすべて目を通し、重要な案件が未決箱の最上部に来るように常に考えている。
そのためスケジュール管理やファイリングなどの仕事は、すべて総務部に丸投げしている。
社長の右腕は、専務の仕事、だが左腕は、まさしく陽子の独壇場と言える。
結婚して半年が過ぎ、陽子は妊娠していることに気づく。まずは市販の妊娠検査薬で調べてから、会社近くの産婦人科医を受診すると、妊娠9週目の3か月だということがわかる。
正彦が帰宅してから、その話をすると喜んでくれる。
「嬉しいよ。丈夫な子供を産んでくれ。」
正彦の内心は、もうちょっと二人だけの生活を楽しみたかったが、これで跡取りの第1段階はクリアしたわけだから、これからは、好きな時に好きなだけ、抱けばいい。
妊婦の苦労も知らないで、のんきなことを考えている。
参加者は妻、本郷陽子(旧姓、飛鳥井)、夫、本郷正彦、夫の愛人、麻里子
「さて、本日お集まりいただきましたのは、本郷陽子様からの離婚の申し立てについてでございます。本来なら、ご夫婦間での話し合いがもたれるのが一番よろしいかと存じますが、私が本郷陽子様の訴訟代理人を仰せつかいました弁護士の宗像俊三と申します。以後、お見知りおきを。」
宗像先生は、離婚に至る経緯を簡単に説明してくださり、それぞれ同意する。
いざ、離婚届を前にすると、急に夫の正彦がゴネ出してきた。
「待ってくれ。俺は、陽子を心から愛している。離婚するなんて、イヤだ。」
「では、なぜ不貞行為をしたのですか?それにより奥様は悲しまれたのですよ。」
「それは、妻が悪阻がひどいからと言って、俺を拒否したからだ。麻里子とは、ただの性欲処理の目的だけで、他に他意はない。愛しているのは、陽子だけなのだ。だから、離婚したくない。もう一度、やり直すチャンスをくれ。頼む。」
恥も外聞もなく頭を床にこすりつけている正彦を見て、軽蔑するかのように陽子はあざ笑っている。
「アナタの愛する陽子様が、離婚を望んでおられる以上、夫として、できることは離婚するか、その愛人を着るかの二択です。たとえ愛人をお切りになっても、元の関係に戻るにはかなりの時間がかかります。会社での立場もおありでしょうから、最悪、会社を辞して荷物をまとめ、故郷へ帰る選択肢もあるかと思いますが、陽子さんは、そんなアナタについてきてくれるでしょうか?今の生活を壊した一番の原因は、夫であったアナタの軽率な行動です。ここは、陽子さんの希望通り、一度、離婚されてはいかがでしょうか?」
「わかりました。離婚に同意します。」
「はい。それでは、本日中に区役所に提出し、本日、離婚が成立しますことを肝に銘じてください。それと、本日お集まりいただきましたのは、……元妻の陽子様は、カラダがお辛ければ、退室していただいても構いません。」
「いえ。大丈夫です。このままいさせてください。」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
正彦と知り合ったのは、陽子が通勤途中に痴漢に遭っていたところを助けてくれたことで、交際が始まり、このほど、めでたく結婚式を終えました。
本郷正彦は、大手広告代理店の花形コピーライターで、飛鳥井陽子は、結婚と同時に専業主婦になるはずだったのが、陽子の仕事は社長秘書で、後任がなかなか見つからなかったため、子供ができるまでということの条件付きで、秘書の仕事を続けていくことになったのだ。
正彦の実家は、けっこう大きな会社・本郷商事を経営していて、ゆくゆくは、跡取りの正彦に会社を継がせるつもりでいるため、嫁の陽子には、専業主婦になってもらい、本家のこと、本郷商事の仕事のことなどをしっかり覚えてもらいながら、跡取りとなる元気な男の子の出産を待望視されていたため、結婚後も陽子が引き続き仕事をすることに難色を示されていた。
ひところ流行ったダブルインカムではないが、二人で働いているので、そこそこの収入がある中流階級の暮らしができるようになり、生活は安定していく。
その生活が快適すぎて、正彦は二人の間に愛があれば、子供なんて必要がないと考え始めていたことに陽子は気づかないでいる。
美人の妻を抱きたいときに抱き、お小遣いは何不自由なくある生活。仕事は順調で、休みの日の度に小旅行や外食を愉しむ。
いずれにせよ陽子は、連れて歩く女としては見栄えが良く、他の男どもが振り返って陽子のことを見ているのが嬉しくてたまらない。こんなイイ女を俺は独り占めしているのだという満足感が正彦を支配している。
陽子との出会いは、仕組んだものだった。たまたまいつも通勤に使っている車が車検中で、その日は仕方なく久しぶりに電車を利用したら、同じ車両にとびきりの美人がいることが分かった。
それからは、車通勤をやめ、陽子の近くをキープするように努めたのだ。でも、なかなか話すきっかけがない。
そこで、人を雇い、陽子に痴漢行為をさせることにしたのだ。
陽子は、最初、戸惑ったような顔をして、困っていることが明らかに分かった。
次の日の朝も同じ車両に乗り込み、昨日とは違い陽子は、その日パンツスーツで出勤している。昨日、スカートだったので、スカートの中にまで手を突っ込まれたことがよほど怖かったのだろうと推測される。だから今朝は、パンツスーツにしたのだろう。
痴漢に陽子の尻を揉ませるように指示した。痴漢はまるで楽しんでいるかのように、陽子の尻を弄び、ついには、陽子の足と足との間に指を出し入れしていることが見て取れた。俺は、自分が雇っておきながら、無性に腹が立ち、気が付いたときには、その痴漢の腕を掴み。
「貴様、何をしている!」
声を荒げてしまったのだ。
停車駅で、痴漢役の男を引きずり下ろし、駅員に引き渡す前に、痴漢役を逃がした。
陽子からは、大変感謝され、最初のデートの約束をこぎつけたことは、言うまでもないこと。
それからは楽しい毎日が続く。仕事終わりに必ず陽子を愛車で拾い、一緒に食事をして、ドライブして、その後、ホテルで、時には陽子の部屋で朝まで陽子を堪能し続けた。
陽子の肌は柔らかくて、色が白い。そして何よりも感度が抜群なのだ。身も心も俺のモノとなった陽子を口説くこともなく、陽子は俺の妻になった。
当初は、専業主婦に刺せるはずの気持ちだったのだが、陽子の仕事の後任者がなかなか見つからず、子供ができるまでという限定付きで、仕事を続けることを認めたわけだが、仕事を続けたことで、陽子はますます美しく輝くようになった。
愛されているという実感が陽子を美しくさせている。たかが一枚の紙きれの婚姻届が、さらなる幸福感を引き出しているようだ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
飛鳥井陽子の仕事は、社長秘書だが、俗にいうカワイコちゃんだからとか、美人だからという理由で秘書になったわけではない。
もちろん陽子は、誰が見ても美人だが、美人だけではなく、経営学修士の資格を持ち、4か国語はネイティヴと同レベルの語学力があり、さらに法学部を卒業している陽子は、契約文書の法律的な穴について、弁護士と対等に渡り合えるだけの法律知識を身に着けている才色兼備の秘書なのだ。
稟議書は社長が見る前にすべて目を通し、重要な案件が未決箱の最上部に来るように常に考えている。
そのためスケジュール管理やファイリングなどの仕事は、すべて総務部に丸投げしている。
社長の右腕は、専務の仕事、だが左腕は、まさしく陽子の独壇場と言える。
結婚して半年が過ぎ、陽子は妊娠していることに気づく。まずは市販の妊娠検査薬で調べてから、会社近くの産婦人科医を受診すると、妊娠9週目の3か月だということがわかる。
正彦が帰宅してから、その話をすると喜んでくれる。
「嬉しいよ。丈夫な子供を産んでくれ。」
正彦の内心は、もうちょっと二人だけの生活を楽しみたかったが、これで跡取りの第1段階はクリアしたわけだから、これからは、好きな時に好きなだけ、抱けばいい。
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