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23海辺

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 カーニバルのパレードを見終わってから、ため息交じりで集合場所に向かう。

 あの王太子妃の美しさに圧倒されている。

 オリヴィアも前世、研究医などせず、美容整形医でも志せばよかったのかもしれない。大学内の権力闘争に敗れ、研究医に追いやられるぐらいなら、独立しても儲かる美容整形医になればよかったと今さらながら、後悔する。

 医者は開業医になっても、88%は赤字経営なのだ。

 だから勤務医にしがみつかなければ、食べてもいけない。

 かといって、今世で、自分で自分の顔に美容整形は施せない。鏡を使えばできるだろうが、目を開け続ける勇気はない。

 親からもらった顔だから、これで辛抱するしかない。

 その意味でのため息なのだ。

 集まっていなかったのは、オリヴィアたちのグループだけだった。

 集合場所で一度、辺境伯邸を出し、そこで一息ついてからの出発となる。

 お母様がお茶菓子に、と綿菓子、りんご飴、ミカン飴を出されることがおかしくて、つい笑ってしまう。

 侍女長ときたら、ベビーカステラを大量に出され、すっかりハマってしまったみたい。

 待ちくたびれていた他の者たちは、待ってましたとばかりに、異国のお菓子に手を伸ばす。

 「あまりおいしいものではないけど、形が面白いわよね。」

 そうと知っていれば、オリヴィアもタコせんべいを買っておけば良かったと思う。タコせんべいは、タコの形をしたピンク色のせんべいの上に青のりと粉カツオに、ソースをかけたシンプルな駄菓子。これで銅貨1枚は高い。と思って、買わなかったもの。

 でも、珍しがって、食べてくれるなら、買えばよかったかもしれない。

 楽しいお茶会は、あっという間に過ぎ、一路海を目指す。ほかのグループにいた使用人が、ヤーパン国の地図を貰ってきたようだ。

 ヤーパン国にとっても、カーニバルは貴重な外貨を稼ぐ収入源だから、カーニバル後もお金を落としてもらおうと、観光地図を配っている。

 そこに海の場所が載っているのだ。思った通り、集合場所から海は近く、これなら日帰りで十分行ける。

 外国からのカーニバル見物客は、船でヤーパンへ来ているようだ。

 ご丁寧にも、その地図には、アンダルシア国の位置とクランベールの国境線まで書いてあったのだ。

 馬車で3時間ほど走り、夕刻前には、海に出られた。

 人っ子一人いない浜辺は、モノ悲しさを誘うが、こちらは何と言っても大所帯の大人数だから、寂しいなどと言っている暇はない。

 アイテムカバンから、辺境伯邸を取り出し、食事の準備にかかる。ライオンちゃんは、海に入り、狩りを楽しんでいる様子。

 「たくさん獲ってきてね。」の言葉通り、大漁であったことは間違いないが、見たこともない魚に不安が過る。

 焼いて食べれば、思いのほか、美味しかったから嬉しい誤算だったんだけどね。

 次の日の朝、海沿いを集落があるところまで馬車で移動する。

 集落があれば、市場や港があるはず。少しは文化的な暮らしを期待する。

 たどり着いた集落では、波止場があり、観光船も出航していた。このまま、出国することもできるし、観光船に乗り温泉地までの航路を楽しむこともできる。

 ひとまず今日は、この集落で1泊し、明日、出国するか温泉地へ行くかを話し合いで決めることにした。

 1泊すると言っても、宿に泊まるわけではなく、少し外れた浜辺に辺境伯邸を出し、寝泊まりするのだ。

 スカイダウン家の意向としては、おおかたがこのまま出国を選ぶが、お母様が温泉地へ行きたい様子。

 「だって、温泉はお肌をスベスベにしてくれるもの。」

 オリヴィアは内心、ババァがスベスベにしたところで、どうしようもないだろう。と思うが、今は辺境伯令嬢の身分だから、そんなことは言えるはずもない。

 「だったら、お母様、温泉地へ行ってから、出国にしましょうよ。でも他国にも、いい温泉があるかもしれませんわよ?」

 折衷案を示したところで、お母様の機嫌も直り、温泉へ浸かってから、出国することになったのだ。
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